大津市で保護司の男性が殺害された事件を受けて安全確保のための対策として、対象者を複数の保護司で支援することなどが盛りこまれています。
刑務所や少年院を出た人の立ち直りを地域で支援する保護司は、高齢化が進み、担い手も年々減少していることが課題となっています。
こうした現状を踏まえて法務省の検討会は、持続可能な制度への見直しに向けた報告書を取りまとめ、牧原法務大臣に手渡しました。
それによりますと、人材不足を解消するため、保護司の人脈に頼って担い手を探すだけでなく、公募制を試験的に導入することや、原則66歳以下としている新任の保護司の年齢制限を、撤廃することなどが盛りこまれています。
また、大津市で保護司の男性が殺害された事件を受けて安全確保のために新たな対策も盛り込まれ、対象者が異性であったり、長期間に及んだりする場合は、複数の保護司で支援したり途中で交代したりするとしています。
さらに、ボランティアで行われている保護司の活動に報酬を支払うべきか検討されましたが、地域社会の自発的な善意の象徴であり報酬制はなじまないとしました。
一方、これまでは保護司の活動にかかった費用が十分に支払われていなかったとして、実費の支給を充実させるとしています。
そして、5年ごとに保護司の待遇を含め制度のあり方や維持するための方策などを検討するとしています。
法務省は、この報告書を踏まえた保護司法の改正案を早ければ来年の通常国会に提出する方針です。
保護司の数 10年前から1000人以上減少 高齢化も
保護司は、刑務所での服役を終えた人などの立ち直りを地域で支援する民間のボランティアで、非常勤の国家公務員と位置付けられています。
各都道府県にある保護観察所が地域の保護司会の意見を聞いて推薦し、法務大臣から委嘱されます。
ことし1月時点での全国の保護司の数は、5万2500人の定員に対し、4万6584人となっています。
2021年度から、78歳になるまで活動ができるとしていた制度を、本人が希望すれば80歳になるまで活動できるようにしたことから、近年は増加傾向にあるものの10年前から比較すると減少傾向にあり、1000人以上少なくなっています。
また平均年齢は65.6歳と高齢化が進んでいて、担い手不足が深刻な課題となっています。
担い手不足が課題 模索続く地域の保護司会
担い手不足が課題となる中、地域の保護司会では模索が続いています。
90人あまりが所属する東京の荒川区保護司会は、国が定める定員に20人以上足りない状態が続いています。
こうした中、去年取り入れたのが保護司の活動を一定期間体験できる「インターンシップ」です。
国が担い手確保に有効だとして、推進している取り組みです。
会社員で税理士の野村知栄さん(51)は、インターンシップを経てことし2月から保護司として活動しています。
仕事で付き合いのある保護司から勧誘されたのがきっかけで、インターンシップでは対象者の面接はできないものの、犯罪防止や更生への理解を呼びかける啓発活動に参加したり、先輩保護司から経験談を聞いたりし理解を深めていったと言います。
野村さんは「社会復帰への支援など本当に自分にできるのか不安や怖さがあったので、インターンシップという形で不安を解消できたのは良かったと思います。相手の心の支えになるような保護司になりたいです」と話していました。
深刻な保護司の高齢化 情報発信など強化へ
こうした取り組みで人材確保を進めている一方、深刻なのが全国的な課題でもある保護司の高齢化です。
荒川区保護司会は半分以上が60代以上で、今後10年間で30人ほどが退任する予定です。
会は、さらなる人材確保に向けて9月検討チームを立ち上げ、若手の保護司からは「そもそも保護司が何をしているのか。どうすれば保護司になれるか分からない人が多い」とか「大津市での事件もあり、保護司は危ないと思っている人が多い。いろいろな活動を知ってもらうことが大事だ」といった意見が出されました。
今後、情報発信の強化などに取り組み、毎年新たな人材を3人確保することを目標に取り組んでいくことにしています。
荒川区保護司会の熊井昌一郎会長は「とにかく新しい人にチャレンジしてもらえるように、若い人の意見を取り入れながら方策を考えていきたい」と話していました。
専門家 “地域全体で保護司になれる仕組み 考えていくこと重要”
保護司に詳しい専門家は、働いていても活動することができ、意欲ある人が保護司になれる仕組み作りを地域で考えていくことが重要だと指摘します。
龍谷大学矯正・保護総合センターの浜井浩一センター長は「人が更生するためには、地域の中で生活を再建し、居場所ができることが大事で、その居場所を作るための支えになるのが保護司だ。そうした存在意義を社会が理解して制度の継続を考えていく必要がある。社会貢献に意欲がある人は大勢いるはずで、地域全体で、そうした人たちが保護司になれる仕組み作りを考えていくことが重要だ」と話しています。
その上で国が協力を求める形で、学校や自治体の職員が保護司を兼務したり、企業が、勤務時間中に社員が保護司の活動をすることを推奨する取り組みも検討すべきだとしています。