佐々木投手は「一度しかない野球人生で後悔のないように、そして今回背中を押していただいた皆様の期待に応えられるように、マイナー契約からはい上がって世界一の選手になれるよう頑張ります」とコメントしています。
記事後半では佐々木投手が25歳未満のため、ポスティングシステムを使って大リーグへ移籍する場合、契約金などに制約がかかることについて解説しています。
ロッテ “佐々木朗希の大リーグ移籍容認”と発表
ロッテの佐々木投手はことし1月の記者会見で、将来的な大リーグ挑戦の意向を表明し、球団もこのオフに佐々木投手と移籍に関する話し合いの場を設ける考えを明らかにしていました。
そして球団は9日午後、佐々木投手についてポスティングシステムを利用して大リーグへ移籍することを容認したと明らかにし、今後、申請に向けた手続きを開始すると発表しました。
佐々木投手はプロ5年目の23歳で、海外を含めたFA=フリーエージェントの権利を取得しておらず、大リーグを目指すには球団がポスティングシステムによる移籍を認める必要があり、その対応が大きな関心を集めていました。
さらにマイナー契約からのスタートとなりますが、すでに現地ではこのオフの移籍市場の注目選手として関心を集めていて大リーグの各球団の動向が注目されます。
佐々木朗希がコメント「世界一の選手になれるよう頑張る」
佐々木朗希投手は、球団を通じてコメントを発表しました。
この中では「入団してからこれまで継続的に将来的な大リーグ挑戦について耳を傾けていただき、今回こうして正式にポスティングを許可していただいた球団には感謝しかありません」としています。
そして入団してからの5年間について「ロッテでの5年間はうまくいかなかったことも多かったですが、どんな時もチームメート、スタッフ、フロント、そしてファンの皆様に支えられながら、野球だけに集中してここまで来ることができました」と振り返りました。
そのうえで「一度しかない野球人生で後悔のないように、そして今回背中を押していただいた皆様の期待に応えられるように、マイナー契約からはい上がって世界一の選手になれるよう頑張ります」と意気込みました。
ロッテ 吉井監督「向こうでぜひ証明してほしい」
ロッテの吉井理人監督は球団を通じて「チームとしてはもちろん、とても痛い。ただ自分もアメリカでプレーしたことがあるので気持ちはものすごくわかる。そして若い今、チャレンジしたいという気持ちも分かる。未完成な部分は正直まだまだあるがアメリカで自身を磨き、さらにレベルアップすることもできるのではないかとも考えている」とコメントしました。
そして「2020年、石垣島キャンプのブルペンで初めて目にした彼の投球は、私にとって野茂英雄を初めて見たとき以来の衝撃でした。それを向こうでぜひ証明してほしい。頑張ってください」とエールを送りました。
ロッテ 松本球団本部長「5年間の総合的な判断 彼の思いを尊重」
ロッテの松本尚樹 球団本部長は、佐々木朗希投手の大リーグ挑戦を容認したことについて「入団した当初より本人からアメリカでプレーをしたいという夢を聞いておりました。ことしまでの5年間の総合的な判断として、彼の思いを尊重することにしました。日本の代表として頑張ってほしいと思っています」とコメントしています。
《佐々木朗希(ささき・ろうき) これまでの経歴》
佐々木朗希投手は岩手県陸前高田市出身の23歳。1メートル92センチの長身で左足を高々とあげる投球フォームから160キロを超えるストレートと落差の大きいフォークボールが武器の右投げのピッチャーです。
大船渡高校の3年生だった2019年、高校日本代表候補の合宿で行われた紅白戦で、ストレートが163キロを計測し大きな関心を集めました。
最後の夏の地方大会の決勝では登板の機会なく敗れて甲子園出場を逃しましたが、それまでの疲労が考慮され佐々木投手の将来を見据えた中で登板が回避されたことを巡り、大きな論争が巻き起こりました。
その年のドラフト会議では4球団から1位で指名され、抽せんの結果、ロッテが交渉権を獲得し入団が決まりました。
プロ1年目の2020年には1軍での登板はありませんでしたが、現在、ロッテの監督を務める吉井理人投手コーチの指導のもと1軍の練習に参加しながら調整を行いました。
そして、2年目に1軍登板を果たして3勝をマークすると、3年目には28年ぶり16人目となる完全試合を達成しました。となりました。この試合ではプロ野球記録となる13者連続の三振を奪ったほか、プロ野球記録に並ぶ1試合19奪三振と記録ずくめとなりました。
この年は9勝4敗、防御率2.02、奪三振数は173個と飛躍のシーズンとなりました。
続く4年目はWBC=ワールド・ベースボール・クラシックに出場し日本代表の3大会ぶりの優勝に貢献したほか、シーズンでは大谷翔平選手が日本ハム時代にマークしたプロ野球の日本人選手最速に並ぶ165キロをマークしました。
5年目のことしはキャンプ直前に契約更改し、その後の会見で自身の口から初めて将来的な大リーグ挑戦を表明し、「将来的に大リーグに挑戦したい気持ちはあるが、まずはしっかり目の前のシーズンをプレーする」と先発陣の中心としてシーズンを通しての活躍を誓いました。
しかし、5月から6月にかけて右腕のコンディション不良などで2回にわたって登録を抹消され2軍での調整を余儀なくされました。
それでも8月に復帰して勝ち星を積み重ね、シーズン最終登板となった10月の楽天戦で2年ぶりの完投勝利をあげました。
今シーズンは18試合に先発登板し、10勝5敗で自身初の2桁勝利をマークし、防御率は2.35、奪三振数129個の成績を残しましたが、投球回数は111イニングでプロ入り後、到達したことのない規定投球回にはことしも届きませんでした。
佐々木投手の登板する試合には去年、ヤンキースのキャッシュマンゼネラルマネージャーが訪れたほか、今シーズンは大谷選手の獲得にも大きく関わったドジャースのフリードマン編成本部長も視察するなど、多くの大リーグの関係者が足を運んでいて、このオフの動向が注目されていました。
◇“5か年計画”もフル稼働のシーズンなし
ロッテは「令和の怪物」とも呼ばれる佐々木投手のたぐいまれな能力を引き出そうと長期的な計画で、慎重にも慎重を重ねて育成にあたり、史上最年少での完全試合達成などインパクトのある結果を残した一方で、でした。
◇1年目
ロッテは現在、監督を務める吉井理人投手コーチのもと、5年にわたる長期的な育成計画を定め、佐々木投手のルーキーイヤーはシーズン中も1軍に同行しながら練習し、体力強化を中心とする1年となりました。数十イニング分の実戦を積む予定で、シーズン中には実戦形式のシートバッティングに登板して160キロをマークしましたが、その後、体調面の不安から調整のペースを落とし実戦マウンドを経験することなく1年目を終えました。
◇2年目
オープン戦から登板し、5月にプロ初登板を果たすとプロ2試合目となった阪神戦で初勝利をあげました。シーズン中は中10日ほどの間隔を空けながら終盤には中6日での登板を経験し、11試合を投げ3勝2敗、防御率2.27と経験を積む1年となりました。
◇3年目
最初の登板で当時の自己最速となる164キロをマークすると、4月10日のオリックス戦で160キロを超える速球と落差のあるフォークボールなどで1人のランナーも許さず当時20歳で史上最年少となる完全試合を達成しました。さらに、次の試合も8回までひとりのランナーも出さないピッチングを見せ、前人未到の2試合連続の完全試合に近づきましたが、球数が100球を超えていたことや疲労が考慮されて交代を告げられ波紋を呼びました。シーズン後半は疲労と指のまめの影響で登板が減りましたが20試合を投げて9勝4敗、防御率2.02の成績を残し飛躍の年となりました。
◇4年目
先発ローテーションの中心として期待された4年目は、WBC=ワールド・ベースボール・クラシックで日本代表の3大会ぶりの優勝に貢献し、最高の形でスタートを切りました。しかし、防御率と奪三振数でリーグトップの成績を残していた7月に左脇腹の肉離れで1軍の選手登録を抹消されリハビリを経て9月には1軍に復帰しましたが、その2週間後には発熱で登板を回避するなど夏場以降はけがやコンディション不良に悩まされるシーズンとなりました。このシーズンは15試合を投げて7勝4敗、防御率1.78の成績でした。
◇5年目
ことしはキャンプイン直前に将来的な大リーグ挑戦を表明し、シーズンを通しての活躍を誓いました。しかし、5月下旬に上半身の疲労回復に遅れがみられるとして1軍の選手登録を抹消されると、6月の復帰後には右腕のコンディション不良で再び抹消されおよそ2か月2軍での調整を余儀なくされました。それでも8月に復帰登板で勝ち星をあげると「残りの登板数は限られているが毎試合貢献できるように頑張っていきたい」と話し、その後は順調に勝ち星を積み上げて自身初の2桁、10勝をマークしました。そして10月のクライマックスシリーズファーストステージでは日本ハムを相手に8回無失点のピッチングでチームの勝利に貢献しました。今シーズンは18試合を投げ、10勝5敗、防御率2.35でした。
佐々木朗希 NPB5年間の通算成績
▽64試合 29勝15敗
▽防御率:2.10
▽奪三振数:505
▽完投:3
▽投球回:394.2回
佐々木投手はロッテに在籍した5年間のうち4年間で1軍の試合に登板しましたが規定投球回には一度も到達できませんでした。
最速は165キロに達し、史上最年少で完全試合を達成するなど「令和の怪物」のニックネームにふさわしいインパクトを与えるピッチングを見せた一方で、けがなども重なりプロ野球の舞台で、そのたぐいまれな才能をシーズンを通して見せることはできませんでした。
【解説】“ポスティング”と“25歳ルール”
日本のプロ野球でプレーしていて大リーグへの移籍を希望する選手は
▽海外を含むFA=フリーエージェントの権利を行使するか
▽ポスティングシステムを利用する必要があります。
このうち、ポスティングシステムを使うには所属する球団が容認する必要があり大リーグ球団との契約の際にがつきます。これは大リーグ機構と大リーグの選手会が結んでいる労使協定が関係しています。
具体的には
▽アメリカ、カナダ、それにプエルトリコを除く、国や地域の25歳未満の選手や
▽プロのリーグでの所属が6年未満の選手が大リーグの球団と契約する際には、使える金額のベースとして500万ドル前後の上限が設けられ、マイナー契約を結ぶことが定められています。
マイナー契約から大リーグに昇格することができますが、年俸は、大リーグ契約で最低限として保障されている金額になる見込みです。
一方、25歳以上にはこのルールは適用されず、去年、25歳でポスティングシステムを使ってドジャースに移籍した山本由伸投手は契約総額が12年で3億2500万ドル、およそ463億円にのぼり、所属していたオリックスへの譲渡金は70億円を超えたともされています。
大谷翔平選手がエンジェルスに移籍した際は23歳でしたが、現行の制度になる前だったため、譲渡金の上限の22億円余りが日本ハムに支払われました。ポスティングシステムを利用しての移籍だったため、当初はマイナー契約で、開幕前に大リーグ契約に切り替わりました。
当時の大谷選手と同じ23歳の佐々木投手の場合、ポスティングを容認したロッテにとっては今回、契約に使われる金額が制限されることで、球団に入る譲渡金も大幅に制限されるため、収益の面でいうと球団のメリットが少ない状況となります。
米メディア 佐々木朗希めぐり報道加熱
佐々木投手の大リーグ挑戦をめぐっては、アメリカのメディアも連日の報道に熱を帯び、関心が集まっています。
スポーツ専門チャンネルの「ESPN」は、佐々木投手に関してはロッテがこのオフの大リーグ移籍を認めるかどうかが明らかになっていなかったために「日本のエースは例外」と付け加えた上で、注目選手のランキングでヤンキースをFA=フリーエージェントになった1位のソト選手に続き、2位に佐々木投手をあげました。
さらに、ロッテが佐々木投手の移籍を容認するかどうか明らかにする前から、大リーグを取材する記者が関係筋の話として、佐々木投手は今シーズンに大リーグに挑戦するつもりだといった内容や、ロッテがポスティングシステムの申請を拒否するはずだなどといった発信を行うなど情報が錯そうしていました。
また、11月に開かれたGMミーティングでは、大リーグ各球団の編成部門の幹部に佐々木投手の評価を問う内容の報道も相次ぎ、ダルビッシュ有投手などが所属するパドレスのプレラーゼネラルマネージャーが「佐々木投手は17、18歳のころからスカウティングしてきた。もしこうした選手たちが日本から出るなら準備することになるだろう」と話すなど、海外FA権を行使して大リーグ移籍を目指す巨人の菅野智之投手とともに高く評価され、注目度も日に日に高まっていました。