専門せんもん家かが徹底てってい解説かいせつ “ポスト・メルケル” ドイツの課題かだいは？

堅実けんじつな政策せいさく手腕しゅわんに定評ていひょうのある社会しゃかい民主みんしゅ党とうの首相しゅしょう候補こうほのショルツ氏しは、現げん政権せいけんの副ふく首相しゅしょうとして、党とうの違ちがいはあるもののメルケル路線ろせんの継承けいしょうを印象いんしょうづけて、社会しゃかい民主みんしゅ党とうを勝利しょうりに導みちびきました。

ただ高齢こうれい者しゃを中心ちゅうしんに、緑の党みどりのとうに任まかせていいのかちゅうちょする人ひとも多おおく、政策せいさく継続けいぞくの安定あんてい感かんと、ほどほどの変化へんかを託たくせる次つぎの首相しゅしょうとして、社会しゃかい民主みんしゅ党とうのショルツ氏しを選えらんだ結果けっかだったのかと思おもいます。

メルケル政権せいけんを安定あんていさせる意味いみでは大おおきな力ちからになりましたが、他方たほうで、極端きょくたんな政策せいさくを主張しゅちょうする政党せいとうが存在そんざいしなかったドイツに、そうした極端きょくたんな政党せいとうが現あらわれる余地よちを生うんでしまったことも事実じじつです。

とりわけ2015年ねんのヨーロッパ難民なんみん危機ききの時ときには、難民なんみんの受け入うけいれやイスラムに批判ひはん的てきな政党せいとう「ドイツのための選択肢せんたくし」の躍進やくしんを許ゆるしました。

今回こんかいの選挙せんきょでも、年齢ねんれい別べつに支持しじをみると、二に大だい政党せいとうを支持しじしているのは高齢こうれい者しゃが中心ちゅうしんで、票ひょうを伸のばした緑の党みどりのとうと自由じゆう民主みんしゅ党とうを支持しじしているのは若者わかものです。

これまでも気候きこう変動へんどう対策たいさくの必要ひつよう性せいは訴うったえられてきましたが、二に大だい政党せいとうの対応たいおうはまだ不十分ふじゅうぶんだとの声こえが多おおく、若者わかものを中心ちゅうしんに未来みらいが脅おびやかされるという不安ふあんから、気候きこう変動へんどう対策たいさくを強化きょうかすべきという緑の党みどりのとうが支持しじを集あつめました。

自由じゆう民主党みんしゅとうは、デジタル化かです。

ドイツは経済けいざい大国たいこくである一方いっぽう、デジタル化かの遅おくれが構造こうぞう的てきな問題もんだいになっていて、デジタル化かの推進すいしんに注力ちゅうりょくするという自由じゆう民主党みんしゅとうが若者わかものからの期待きたいを集あつめました。

3党とうのイメージカラーが、社会しゃかい民主党みんしゅとうが「赤あか」、自由じゆう民主党みんしゅとうが「黄き」、緑の党みどりのとうが「緑みどり」であることから「信号しんごう機き連立れんりつ」と呼よばれます。

キリスト教きょう民主みんしゅ・社会しゃかい同盟どうめいの「黒くろ」、自由じゆう民主みんしゅ党とうの「黄き」、緑の党みどりのとうの「緑みどり」から、ジャマイカの国旗こっきに使つかわれている色いろにちなんで「ジャマイカ連立れんりつ」と呼よばれます。

いずれも緑の党みどりのとうと自由じゆう民主党みんしゅとうが連立れんりつに加くわわる可能かのう性せいがあります。

ただ双方そうほうの政策せいさくをみると、違ちがいも際立きわだちます。

まずは、財政ざいせい運営うんえいです。

緑の党みどりのとうは、気候きこう変動へんどう対策たいさくを強化きょうかする過程かていで、財政ざいせい支出ししゅつを増ふやそうという政策せいさくですが、自由じゆう民主党みんしゅとうは、これまで同様どうように財政ざいせい規律きりつを重視じゅうししようという主張しゅちょうです。

また気候きこう変動へんどう対策たいさくをめぐっては、緑の党みどりのとうは強化きょうかを求もとめていますが、ビジネス指向しこうの強つよい自由じゆう民主党みんしゅとうは、企業きぎょうの競争きょうそう力りょくに配慮はいりょしながら進すすめるべきという主張しゅちょうで、方向ほうこう性せいは一致いっちしていますが、その方法ほうほうで両者りょうしゃは食い違くいちがいます。

こうした点てんを連立れんりつ交渉こうしょうでどう妥協だきょう点てんを見みいだすのかが焦点しょうてんです。

今回こんかいそれを繰り返くりかえせば有権者ゆうけんしゃの反発はんぱつにあうのは必至ひっしで、政党せいとうの存続そんぞくが危あやぶまれるとも認識にんしきしていて、いずれかの連立れんりつで交渉こうしょうをまとめようという強つよい姿勢しせいがみられます。

政策せいさくの相違そういを乗り越のりこえて、年内ねんないには交渉こうしょうがまとまると期待きたいしています。

ただ連立れんりつ交渉こうしょうだけではなくて、実際じっさいに政権せいけん運営うんえいが始はじまったあとも、さまざまなところで相違そういを乗り越のりこえないと、うまく運営うんえいできません。

その時ときに政治せいじ安定あんていにほころびが出でていないか、今後こんごも見みていく必要ひつようがあります。

ヨーロッパでは近年きんねん気候きこう変動へんどうへの関心かんしんが高たかまっていて、ドイツでも7月つきに大だい規模きぼな洪水こうずい被害ひがいが発生はっせいしました。

ただし、これから対策たいさくが加速かそくすることで、それを負担ふたんと感かんじる人ひとが増ふえてきた時ときに、はたして気候きこう変動へんどう対策たいさくをこのまま進すすめてよいのか、今後こんご、5年ねんから10年ねんのあいだで問とわれてくると思おもいます。

フランスで「黄色きいろいベスト運動うんどう」という政府せいふへの大だい規模きぼな抗議こうぎ運動うんどうがありましたが、もともと抗議こうぎ運動うんどうのきっかけとなったのは、エネルギー関連かんれんの税金ぜいきんの引き上ひきあげと、エネルギー価格かかくの高騰こうとうでした。

同おなじようなことが、ドイツのみならず世界中せかいじゅうで起おきる可能かのう性せいもあり、どうやって気候きこう変動へんどう対策たいさくの中なか長期ちょうき的てきな必要ひつよう性せいと、いま目めの前まえにある負担ふたんの折り合おりあいをつけていくのか、理解りかいを求もとめていくのか、これは世界せかい各国かっこくが共通きょうつうする課題かだいです。

ドイツをはじめEUは、気候きこう変動へんどう対策たいさくについて、世界せかいで最もっとも積極せっきょく的てきな国くにや地域ちいきです。

ドイツは自動車じどうしゃなどの経済けいざいを支ささえる多おおくの中小ちゅうしょう企業きぎょうも抱かかえていて、そこは日本にっぽんと共通きょうつうする部分ぶぶんです。

ドイツが気候きこう変動へんどう対策たいさくと競争きょうそう力りょくをどうやって両立りょうりつするのか、今後こんごの日本にっぽんの対策たいさくにとっても重要じゅうようなヒントになると思おもいます。

そういった危機ききに直面ちょくめんした際さいに、メルケル首相しゅしょうは、粘り強ねばりづよく危機ききに対処たいしょし、EUの崩壊ほうかいや国際こくさい社会しゃかいの安定あんてい秩序ちつじょを守まもってきた側面そくめんがあります。

何事なにごとにも非常ひじょうに慎重しんちょうなかじ取かじとりを行おこない、さまざまな人ひとの意見いけんを聞きき、熟慮じゅくりょの上うえに決断けつだんをする。

そのため決断けつだんが遅おそいという評価ひょうかにもなってきましたが、抜群ばつぐんの危機きき管理かんり能力のうりょくを発揮はっきしてきました。

メルケル首相しゅしょうほどの政治せいじ経験けいけんや危機きき対応たいおう経験けいけんがある人ひとは世界せかいを見渡みわたしてもいません。

その人ひとに代かわる人物じんぶつがいるのか、今いまの段階だんかいで不安ふあんが広ひろがるのは当然とうぜんです。

しかしメルケル首相しゅしょうも、就任しゅうにん前まえ、旧きゅう東ドイツひがしどいつから出でてきた際さいに、東西ドイツとうざいどいつ統一とういつを成し遂なしとげたコール首相しゅしょうに見みいだされて閣僚かくりょうに抜ばってきされ「コールのお嬢おじょうさん」いう名前なまえで呼よばれていました。

そこからさまざまな経験けいけんを積つみ、危機ききに対処たいしょし、結果けっか出だすことで、着実ちゃくじつに評価ひょうか高たかめ、いまでは頼たよりがいがあるとして、ドイツ語ごで「お母おかあさん＝ムッティ」と呼よばれるようになったわけです。

次つぎの首相しゅしょうの後継こうけい者しゃは、まだ結論けつろんが出でていませんが、ドイツは首相しゅしょう1人にんで運営うんえいしているわけではありません。

経済けいざい大国たいこくとしての底力そこぢからがあり、そこにフランスの政治せいじ力りょく、EUの政治せいじ力りょくなどそうしたものを合あわせることで、大おおきな発言はつげん権けんを得えてきたわけです。

次期じき首相しゅしょうに対にたいする不安ふあんはわかりますが、私わたしはドイツやEUの将来しょうらいについて悲観ひかんはしていません。