日本新聞: トランプ氏大統領就任でアメリカ経済はどうなる

ことし最初さいしょの取り引とりひきとなった2025年ねん1月つき2日にちのニューヨーク株式かぶしき市場しじょうでは、ダウ平均へいきん株価かぶかは昨年さくねん末まつと比くらべて151ドル余あまりの下落げらくとなりました。IT大手おおてアップルなどの株価かぶか下落げらくが投資とうし家か心理しんりを冷ひやしたことが要因よういんです。

トランプ氏しの大統領だいとうりょう就任しゅうにんでアメリカ経済けいざいへの影響えいきょうは…。

専門せんもん家かに聞ききました。

NYダウ平均へいきん株価かぶか 2025年ねん最初さいしょの取引とりひきは下落げらく

ニューヨーク株式かぶしき市場しじょうは2日にち、ことし最初さいしょの取り引とりひきが始はじまりました。

この日ひ、発表はっぴょうされた失業しつぎょう保険ほけんの新規しんきの申請しんせい件数けんすうが市場しじょう予想よそうを下回したまわり、労働ろうどう市場しじょうは堅調けんちょうだという受け止うけとめが出でて、朝方あさがた、ダウ平均へいきん株価かぶかは大幅おおはばに値上ねあがりしました。

ただ、その後そのご、電気でんき自動車じどうしゃメーカー、テスラの販売はんばい不振ふしんや、IT大手おおてアップルのスマホが中国ちゅうごくで値下ねさげされるという情報じょうほうが伝つたわったことなどで、一時いちじ、360ドルを超こえる値下ねさがりとなりました。

終値おわりねは、昨年さくねん末まつと比くらべて151ドル95セント安やすい、4万まん2392ドル27セントでした。

これで先月せんげつ下旬げじゅんから4営業えいぎょう日び連続れんぞくでの値下ねさがりとなりました。

金融きんゆう市場しじょうでは1月つき20日にちに大統領だいとうりょうに就任しゅうにんするトランプ氏しが打ち出うちだす減税げんぜい策さくや規制きせい緩和かんわへの期待きたい感かんが高たかまっています。

一方いっぽう、関税かんぜいの引き上ひきあげなどが経済けいざいに与あたえる影響えいきょうについて懸念けねんする声こえも出でています。

市場しじょう関係かんけい者しゃは「トランプ新しん政権せいけんが中国ちゅうごくなどに対にたいして実際じっさいに追加ついか関税かんぜいを課かせばアメリカでモノの価格かかくが値上ねあがりし、インフレの再さい加速かそくにつながる可能かのう性せいもある。生成せいせいAIの開発かいはつによる『AIブーム』が続つづくかどうかも株価かぶかの動向どうこうを左右さゆうするだろう」と話はなしていました。

トランプ氏しが掲かかげる経済けいざい政策せいさくは

アメリカの大統領だいとうりょう選挙せんきょで勝利しょうりしたトランプ氏しは、前まえの政権せいけんの際さいに法人ほうじん税率ぜいりつの引き下ひきさげなどを柱はしらとする税制ぜいせい改革かいかくの法律ほうりつを成立せいりつさせましたが、選挙せんきょ戦せんではこうした減税げんぜい策さくの期限きげんを撤廃てっぱいし恒久こうきゅう的てきな制度せいどにすることを掲かかげてきました。

さらに、アメリカ国内こくないで製品せいひんを生産せいさんする企業きぎょうについては法人ほうじん税率ぜいりつを現在げんざいの21％から15％に下さげることを目指めざす考かんがえも示しめしています。

また、成長せいちょう産業さんぎょうへの支援しえんでは、AI＝人工じんこう知能ちのうの安全あんぜん性せいに関にかんする新あらたな基準きじゅんを設もうけることなどを盛り込もりこんだバイデン氏しの大統領だいとうりょう令れいは、技術ぎじゅつ革新かくしんの妨さまたげになるとして廃止はいしするなど、ITや金融きんゆうなどさまざまな分野ぶんやで規制きせい緩和かんわを進すすめる考かんがえも示しめしていました。

また、トランプ氏しは政府せいふ支出ししゅつの削減さくげん策さくを検討けんとうする組織そしき、DOGE＝“政府せいふ効率こうりつ化か省しょう”を率ひきいるトップに実業じつぎょう家かのイーロン・マスク氏しを起用きよう。

連邦れんぽう政府せいふによる規制きせいを減へらすことで官僚かんりょう機構きこう全体ぜんたいにおける大だい規模きぼな人員じんいんの削減さくげんを目指めざす構かまえです。

一方いっぽう、トランプ氏しは、選挙せんきょ戦せんで「私わたしにとって辞書じしょの中なかで最もっとも美うつくしいことばは関税かんぜいだ」と述のべ、アメリカ国内こくないの製造せいぞう業ぎょうや労働ろうどう者しゃの雇用こようを守まもるためだとしてさまざまな追加ついか関税かんぜいを導入どうにゅうする考かんがえを繰り返くりかえし表明ひょうめいしてきました。

そして、去年きょねん11月つきにはメキシコやカナダからの犯罪はんざいや薬物やくぶつの流入りゅうにゅうが止とまるまで両国りょうこくからのすべての製品せいひんに25％の関税かんぜいを課かすことや、中国ちゅうごくの製品せいひんにも10％の追加ついか関税かんぜいを課かす考かんがえを示しめし、就任しゅうにん前まえから関税かんぜいを交渉こうしょうのカードにして他国たこくに対応たいおうを迫せまる姿勢しせいを鮮明せんめいにしてきました。

仮かりに3つの国くにすべてに関税かんぜいをかけた場合ばあいのアメリカ経済けいざいへの影響えいきょうを大和やまと総研そうけんが試算しさんしています。

それによりますとアメリカの実質じっしつGDP＝国内こくない総そう生産せいさんが1.06％低下ていかし、インフレ率りつが1.56％押し上おしあげられるとしています。

ロゴフ教授きょうじゅ「関税かんぜい引き上ひきあげ世界せかい的てきな協調きょうちょうの欠如けつじょの始はじまり」

国際こくさい経済けいざい分野ぶんやの権威けんいとして知しられるハーバード大学だいがくのケネス・ロゴフ教授きょうじゅは、ことしのアメリカ経済けいざいの見通みとおしについて「トランプ氏しが大統領だいとうりょうに就任しゅうにんして2025年ねんより先さきを予測よそくするのは気きが進すすまないものの、たくさんの悪わるいことが起おきると考かんがえるが、今いま、あしもとの経済けいざいは非常ひじょうに良好りょうこうだ」と述のべました。

そのうえで、ロゴフ教授きょうじゅは「最もっとも大おおきなリスクはトランプ氏しが関税かんぜいの引き上ひきあげを決意けついしているように見みえることだ。これによってアメリカは保護ほご主義しゅぎ的てきな大国たいこくであるインドやブラジルのような国くにになり、それは衝撃しょうげき的てきだ。そして（相手あいて国こくによる）報復ほうふく関税かんぜいもあるだろう。これは大おおきな不ふ確実かくじつ性せいの『源みなもと』だ。関税かんぜいそのものだけでなく『関税かんぜい戦争せんそう』の始はじまりであり、世界せかい的てきな協調きょうちょうの欠如けつじょの始はじまりでもある。この問題もんだいは深刻しんこくで、関税かんぜいがもたらす直接ちょくせつ的てきな影響えいきょうだけでなく、アメリカにインフレをもたらす」と述のべてインフレが再さい加速かそくするおそれがあると警告けいこくしました。

また、「トランプ氏しが掲かかげてきた政策せいさくを実行じっこうするのがいかに難むずかしいか、彼かれがどれほど気きまぐれかという現実げんじつが明あきらかになれば、アメリカの株価かぶかの上昇じょうしょう傾向けいこうが続つづくかは不透明ふとうめいだ」と指摘してきしました。

アメリカのFRB＝連邦れんぽう準備じゅんび制度せいど理事りじ会かいによる利下りさげの見通みとおしについて、ロゴフ氏しはトランプ次期じき大統領だいとうりょうの関税かんぜい政策せいさくによってインフレ圧力あつりょくがかかるとしたうえで「FRBが政策せいさく金利きんりをこれからさらに2.5％引き下ひきさげるというのは夢物語ゆめものがたりだと思おもう。現時点げんじてんではFRBは政策せいさく金利きんりを高こう止とまりさせることになるだろう」と述のべました。

一方いっぽう、日本にっぽん経済けいざいについてロゴフ氏しは「トランプ次期じき大統領だいとうりょうのもとで不ふ確実かくじつ性せいが高たかまるが、インフレ圧力あつりょくがあることは明あきらかだ。物価ぶっか上昇じょうしょうを安定あんていさせるためには日銀にちぎんはあと数すう回かい、政策せいさく金利きんりを引き上ひきあげなければならないだろう。ただ、利上りあげをすれば年金ねんきん基金ききんや保険ほけん会社かいしゃ、銀行ぎんこうなどで金利きんり上昇じょうしょうによる損失そんしつが発生はっせいする可能かのう性せいがある。このため日銀にちぎんは利上りあげに慎重しんちょうになりたいと考かんがえてきたが後おくれをとるべきではない」と述のべました。

ラジャン教授きょうじゅ「減税げんぜいで財政ざいせい赤字あかじ拡大かくだいインフレさらに進すすむ可能かのう性せい」

インドの中央ちゅうおう銀行ぎんこうのトップを務つとめた、シカゴ大学だいがくのラグラム・ラジャン教授きょうじゅは、ことしのアメリカ経済けいざいについて「今いまは3％の成長せいちょうと本当ほんとうに好調こうちょうだ。あいにくこの状況じょうきょうをさらによくするというのは困難こんなんだ。どのような政策せいさくを実施じっししても状況じょうきょうが悪化あっかするリスクが高たかくなってしまう。今後こんご、経済けいざい状況じょうきょうを現状げんじょうで維持いじできたとしても、それはすばらしいパフォーマンスだ」と述のべました。

そのうえで、トランプ次期じき大統領だいとうりょうが掲かかげた政策せいさくについては「法人ほうじん税ぜいの引き下ひきさげを含ふくむ減税げんぜいや輸入ゆにゅう品ひんに対にたいする関税かんぜいの引き上ひきあげ、さらには労働ろうどう力りょくの供給きょうきゅう源げんとなってきた移民いみんに対にたいする規制きせいといった政策せいさくパッケージを合あわせた場合ばあい、インフレがさらに進すすむ可能かのう性せいがあり、FRB＝連邦れんぽう準備じゅんび制度せいど理事りじ会かいの任務にんむはより難むずかしくなるだろう」と述のべました。

このうち減税げんぜいについては「財政ざいせい赤字あかじが拡大かくだいし、赤字あかじを抑制よくせいできるという感覚かんかくがないままほかの政策せいさくよりもインフレ率りつが高たかくなる可能かのう性せいがある」としたほか、移民いみんの強制きょうせい送還そうかんについては「就労しゅうろう許可きょかのない移民いみんについて話はなせば建設けんせつ業ぎょうやレストラン業ぎょう、ホテル、家事かじサービス、造園ぞうえん業ぎょうなどにとって重要じゅうような労働ろうどう力りょくの源みなもとだ。もし、移民いみんが入はいってこなければ労働ろうどう需給じゅきゅうがひっ迫ひっぱくすることを意味いみし、需要じゅようが強つよいとインフレ圧力あつりょくがかかる」と指摘してきしました。

また、株価かぶかの動向どうこうについてラジャン教授きょうじゅは「市場しじょうはAIに明あきらかに多おおくのことを期待きたいしているが、テクノロジーが広ひろく使つかわれるようになるまで時間じかんがかかる可能かのう性せいがあり、株価かぶかにとってリスクになる。テクノロジーの普及ふきゅう度どに対にたいする失望しつぼうが最大さいだいのリスクとなりうる」と述のべました。

そして、日本にっぽん経済けいざいについては「日本にっぽんはデフレから脱却だっきゃくしつつありインフレが定着ていちゃくしはじめている。ただ、日本にっぽんはまだ海外かいがいの需要じゅように依存いぞんしていて、各地かくちで関税かんぜいが引き上ひきあげられた場合ばあい、日本にっぽんの製品せいひんが中国ちゅうごくのものに取とって代かわるようなメリットもあるかもしれないが、その規模きぼは比較的ひかくてき小ちいさく、日本にっぽん企業きぎょうの輸出ゆしゅつにも影響えいきょうを及およぼすだろう」と述のべました。