日本新聞: 奈良キトラ古墳石室の壁にヘビなど“十二支像”壁画を確認

奈良なら県けん明日香あすか村むらのキトラ古墳こふんについて、泥どろに覆おおわれている石室いしむろの壁かべをエックス線えっくすせんを使つかって分析ぶんせきしたところ、十二支じゅうにしの「巳み」とみられるヘビをかたどった像ぞうなど3つの壁画へきがが描えがかれていたことが新あらたに確認かくにんされました。ヘビの像ぞうは衣装いしょうをまとった姿すがたや2つに割われた舌先したさきなど、ほぼ全身ぜんしんが確認かくにんできます。

これは、23日にち、東京とうきょう都内とないで開ひらかれた文化庁ぶんかちょうの検討けんとう会かいで明あきらかにされました。

奈良なら県けん明日香あすか村むらにあるキトラ古墳こふんは、7世紀せいき末まつから8世紀せいき初はじめころの飛鳥ひちょう時代じだいの円えん墳ふんで、石室いしむろの内部ないぶに描えがかれている方角ほうがくの守り神まもりがみ、「朱雀すじゃく」や「玄武げんぶ」を始はじめとした壁画へきがは国宝こくほうに指定していされています。

このうち「十二支じゅうにし」を人ひとをかたどった姿すがたで描えがいた壁画へきがは、これまで6体たいが確認かくにんされていましたが、今回こんかい、文化庁ぶんかちょうが泥どろに覆おおわれている部分ぶぶんを蛍光けいこうエックス線えっくすせんを使つかって分析ぶんせきしたところ、「十二支じゅうにし」の「辰たつ」と「巳み」、それに「申さる」にあたる場所ばしょに顔料がんりょうの成分せいぶんとみられる水銀すいぎんや銅どうの反応はんのうが検出けんしゅつされたということです。

データをもとに可視かし化かすると、このうち「巳み」とみられる像ぞうでは、衣装いしょうをまとった姿すがたや顔かおの部分ぶぶんから伸のびた舌したが2つに割われている様子ようすなどほぼ全身ぜんしんが確認かくにんできました。

検討けんとう会かいでは、委員いいんから「驚おどろきの結果けっかだ」などとして、今後こんご、泥どろに覆おおわれたほかの部分ぶぶんの調査ちょうさも進すすめるべきだとする意見いけんなどが出だされました。

検討けんとう会かいの和田わだ晴はる吾われ座長ざちょうは「非常ひじょうに精細せいさいな分析ぶんせきによって、泥どろで見みえないものがわかるようになったのは大おおきな前進ぜんしんだ。一番いちばん見みたいのは描えがかれた当時とうじの姿すがたなので全体ぜんたい像ぞうにできるだけ近ちかづけるよう、分析ぶんせきを進すすめてほしい」と話はなしていました。

今回こんかいの成果せいかについて、古代こだいの壁画へきがに詳くわしい東京とうきょう大学だいがくの増ぞう記き隆介りゅうすけ准じゅん教授きょうじゅは「泥どろの下したにあるものがよくここまで形かたちとして把握はあくできたと思おもう。キトラ古墳こふんの壁画へきががどういったものかを考かんがえる重要じゅうような成果せいかだ」と話はなしています。

キトラ古墳こふんと十二支じゅうにし像ぞう

奈良なら県けん明日香あすか村むらにあるキトラ古墳こふんは、7世紀せいき末まつから8世紀せいき初はじめころの飛鳥ひちょう時代じだいに造つくられたとされる円形えんけいの古墳こふんです。

40年ねん前まえの調査ちょうさで、石室いしむろの内部ないぶに極彩色ごくさいしょくの壁画へきがが描えがかれているのが分わかり、同おなじ明日香あすか村むらにある高松たかまつ塚つか古墳こふんに続つづく、国内こくないで2例れい目めの大だい発見はっけんとして注目ちゅうもくを集あつめました。

その後そのご、2回かいにわたって調査ちょうさが行おこなわれ、東アジアひがしあじあで最古さいことされる天文てんもん図ずや、朱雀すざくや玄武げんぶなどの方角ほうがくの守り神まもりがみ、それに頭あたまが動物どうぶつで体からだが人ひとの姿すがたをした「十二支じゅうにし」の像ぞうなどが見みつかりました。

このうち十二支じゅうにしの像ぞうは、東ひがしの壁かべに描えがかれた「寅とら」のほか、南みなみの壁かべの午うまと西にしの壁かべの戌いぬ、それに北きたの壁かべの亥い、子こ、丑うしの合あわせて6体たいの像ぞうが肉眼にくがんで確認かくにんされています。

残のこり6体たいのうち、東ひがしの「卯う」、南みなみの「未ひつじ」、西にしの「酉とり」の3体たいについては、それぞれ描えがかれていたと考かんがえられる場所ばしょのしっくいがはがれ落おちていて、すでに失うしなわれているとみられています。

一方いっぽう、東ひがしの「辰たつ」、南みなみの「巳み」、西にしの「申さる」が描えがかれていたとみられる場所ばしょは、しっくいが泥どろに覆おおわれた状態じょうたいだったため、文化庁ぶんかちょうなどはこの部分ぶぶんをはがしとって保存ほぞんし、壁画へきがが残のこっていないか科学かがく的てきな方法ほうほうで調査ちょうさを続つづけていました。

泥どろの下したの壁画へきがどう発見はっけん？

今回こんかい調査ちょうさが行おこなわれたしっくいは、厚あつさが数すうミリと非常ひじょうに薄うすく、壁画へきががあるかどうか調しらべるために泥どろを取り除とりのぞくことは困難こんなんだと考かんがえられました。

このため調査ちょうさには「蛍光けいこうエックス線えっくすせん分析ぶんせき」と呼よばれる技術ぎじゅつが使つかわれました。

特定とくていの元素げんそを検出けんしゅつするエックス線えっくすせんを照射しょうしゃしてその反応はんのうを測定そくていするもので、しっくいに触ふれることなく壁画へきがの顔料がんりょうに使つかわれた鉱物こうぶつが含ふくまれているかどうかや、その種類しゅるいなどを調しらべることができます。

文化庁ぶんかちょうは3年ねん前まえから、この技術ぎじゅつを使つかって泥どろに覆おおわれたしっくいの調査ちょうさを行おこなっていて、十二支じゅうにしの「辰たつ」「巳み」「申さる」の像ぞうが描えがかれているとみられる場所ばしょから、それぞれ顔料がんりょうの成分せいぶんとみられる水銀すいぎんなどの反応はんのうを検出けんしゅつしました。

さらに、全体ぜんたい像ぞうを明あきらかにするため、反応はんのうがあった部分ぶぶんを中心ちゅうしんにおよそ0.3ミリの間隔かんかくで蛍光けいこうエックス線えっくすせんを照射しょうしゃし、データを基もとに可視かし化かしたところ、十二支じゅうにしとみられる像ぞうの輪郭りんかくなどが浮うかびあがったということです。

分析ぶんせきにあたった東京とうきょう文化財ぶんかざい研究所けんきゅうじょの犬塚いぬづか将すすむ英えい室長しつちょうは「鮮明せんめいに映し出うつしだされたので、調査ちょうさにあたったメンバー全員ぜんいんが驚おどろいた。表面ひょうめんから見みることのできない部分ぶぶんを確認かくにんできたというのは大おおきな成果せいかで、今後こんご適用てきようできる手段しゅだんが1つ増ふえたのは非常ひじょうに大おおきな意義いぎがある」と話はなしています。

十二支じゅうにしとみられる壁画へきがの存在そんざいが分わかったしっくいですが、文化庁ぶんかちょうは、現げん段階だんかいではこれ以上いじょうの調査ちょうさは難むずかしいとしていて、今後こんご、公開こうかいの方法ほうほうなどについて検討けんとうすることにしています。

専門せんもん家か“方角ほうがくごとに色いろを塗ぬり分わけていた可能かのう性せい高たかまる”

今回こんかいの調査ちょうさで確認かくにんされた十二支じゅうにしとみられる3つの壁画へきがからは、それぞれ異ことなる種類しゅるいの顔料がんりょうの反応はんのうが出でていて、古代こだいの絵画かいがの歴史れきしに詳くわしい専門せんもん家かは、石室いしむろの方角ほうがくごとに壁画へきがの色いろを塗ぬり分わけていた可能かのう性せいがより高たかまったと指摘してきしています。

キトラ古墳こふんの石室いしむろでこれまでに確認かくにんされた十二支じゅうにしなどの壁画へきがは、古代こだい中国ちゅうごくの思想しそうを背景はいけいに、東ひがしの方角ほうがくは「青あお」、西にしは「白しろ」、南みなみは「赤あか」、北きたは「黒くろ」と、それそれ異ことなる色いろで塗ぬり分わけられていた可能かのう性せいが高たかいと考かんがえられています。

今回こんかいの調査ちょうさでも、南みなみの壁かべの「巳み」にあたる場所ばしょからは、主おもに赤色あかいろの顔料がんりょうの成分せいぶんである水銀すいぎんの反応はんのうが出でています。

また、東ひがしの壁かべの「辰たつ」にあたる場所ばしょからは、主おもに青あお緑色りょくしょくの顔料がんりょうに含ふくまれる銅どうの反応はんのうが出でていました。

こうした分析ぶんせき結果けっかから、専門せんもん家かはキトラ古墳こふんでは石室いしむろの四方しほうの壁かべごとに壁画へきがの色いろを塗ぬり分わけていた可能かのう性せいがより高たかまったとしています。

古代こだいの絵画かいがの歴史れきしに詳くわしい東京とうきょう大学だいがく大学院だいがくいんの増ぞう記き隆介りゅうすけ准じゅん教授きょうじゅは「この時代じだいの世界せかい観かんを画像がぞうとしてあらわすという、基本きほん的てきなルールを反映はんえいしたものだと思おもう。死後しごの世界せかいは秩序ちつじょだった平穏へいおんな環境かんきょうであるようにという思おもいがあって、墓はかの中なかにある種たねの理想りそう的てきな世界せかいをつくったのではないか」と話はなしています。

専門せんもん家かからはほかの壁画へきがの調査ちょうさも進すすむのではと期待きたいの声こえ

今回こんかいの調査ちょうさ結果けっかを受うけ、専門せんもん家かからは石室いしむろからはがされて保存ほぞんされているキトラ古墳こふんのほかの壁画へきがの調査ちょうさも進すすむのではないかと期待きたいする声こえがあがっています。

キトラ古墳こふんの石室いしむろには、十二支じゅうにしや方角ほうがくの守り神まもりがみなどが描えがかれていますが、今回こんかい、調査ちょうさの対象たいしょうとなった以外いがいにも泥どろで覆おおわれたまま保存ほぞんされているしっくいがあります。

このうち、東ひがしの壁かべに描えがかれている方角ほうがくの守り神まもりがみの「青龍せいりゅう」は、大おおきく開ひらいた口くちや赤あかい舌した、突き出つきだした前足まえあしの一部いちぶなどが肉眼にくがんで確認かくにんできますが、大半たいはんは泥どろに覆おおわれていて体からだの輪郭りんかくなどははっきりとは分わかっていません。

現在げんざい、公表こうひょうされている復元ふくげん図ずは同おなじように「青龍せいりゅう」が描えがかれている高松たかまつ塚つか古墳こふんの壁画へきがを参考さんこうにしているということです。

今回こんかいの調査ちょうさ結果けっかを受うけて、専門せんもん家かなどでつくる文化庁ぶんかちょうの検討けんとう会かいの委員いいんからは、今回こんかいの「蛍光けいこうX線せん分析ぶんせき」を使つかえば青龍せいりゅうの壁画へきがの全体ぜんたい像ぞうの解明かいめいにつながるのではないかと期待きたいする声こえがあがっています。