世界でも
権威が
あるとされる
推理小説の
賞、
英国推理作家協会賞=「ダガー
賞」の
翻訳部門に、
日本人作家の
作品としては
初めて王谷晶さんの「ババヤガの
夜」が
選ばれました。
被認為是世界上最具權威的推理小說獎之一——英國推理作家協會獎(匕首獎)翻譯部門中,王谷晶的《巴巴雅加之夜》成為首部入選的日本作家作品。
英国推理作家協会賞=「ダガー賞」は1955年に創設され、アメリカの「エドガー賞」と並び世界でも権威がある推理小説の賞とされていて、ロンドンで3日、ことしの受賞作が発表されました。
英國推理作家協會獎=「匕首獎」創立於1955年,與美國的「愛倫坡獎」並列為世界上最具權威的推理小說獎項之一,今年的得獎作品於3日在倫敦公佈。
このうち「翻訳部門」の受賞作に王谷晶さんの長編小説で、サム・ベットさんが翻訳した「ババヤガの夜」が選ばれました。
在「翻譯部門」的得獎作品中,王谷晶的長篇小說由薩姆・貝特翻譯的《巴巴雅加之夜》被選為得獎作品。
「ババヤガの夜」
この作品は、恐ろしいほどけんかに強い主人公の女性が護衛を任された暴力団の会長の一人娘と信頼関係を深めながら、裏社会の闇に迫る物語です。
《巴巴雅加之夜》這部作品講述了一位極其善於打架的女主角,在擔任黑幫會長獨生女的保鑣期間,與其建立起深厚信賴關係,同時逐步接近黑社會陰暗面的故事。
迫力あるアクションや過激なせりふなど生々しい暴力的な描写が特徴で、2人の女性が生きる希望を追い求める姿がテンポよく描かれます。
以充滿魄力的動作場面和激烈對白等生動暴力描寫為特色,兩位女性追尋生存希望的模樣以輕快的節奏展現。
5年前に国内で発表されたあと、イギリスやアメリカ、韓国でも刊行され、海外では「洗練された手法で女性をエンパワメントする物語だ」などと評価されていました。
五年前在國內發表後,這部作品也在英國、美國和韓國出版,在海外被評價為「以洗練的手法賦予女性力量的故事」等。
王谷さんは東京生まれの44歳で、ゲームのシナリオライターを経て作家として活動するようになり、恋愛や家族など幅広いジャンルの小説やエッセーを手がけています。
王谷先生出生於東京,現年44歲,曾擔任遊戲劇本作家,後來開始以作家身份活動,涉獵愛情、家庭等各種題材,創作小說與散文。
翻訳部門は2006年に創設され、今回は柚木麻子さんの「BUTTER」も最終候補に残っていましたが、「ババヤガの夜」が受賞しました。
翻譯部門於2006年創立,這次柚木麻子的《BUTTER》也進入了最終候選,但由《巴巴雅加之夜》獲獎。
日本人作家の受賞は今回が初めてで、アジアの作家としては韓国のユン・ゴウンさんに続いて2人目の受賞だということです。
這是日本作家首次獲獎,作為亞洲作家則是繼韓國的尹高恩之後的第二位得主。
王谷晶さんは「今はとにかく驚いています。
私はミステリー専門の作家ではありません。さまざまな種類の作品を書きます。日本では作品と作家は細かくジャンル分けされているので、私はあいまいな作家と思われています。在日本,作品和作家被細緻地劃分為不同的類型,因此我被認為是一位模糊不清的作家。
あいまいであることは私の作家としてのテーマそのものです。自分のあいまいさを受け入れ、他人のあいまいさを認めることが世の中をよりよくすると信じています。我相信,接受自己的模糊性,並認可他人的模糊性,能讓這個世界變得更美好。
この作品の主人公たちも、はっきりとラベリングできない関係と人生を手に入れます。這部作品的主角們,也獲得了無法明確標籤的關係與人生。
同時にこれはバイオレンス満載の物語でもあります。リアルの暴力があふれている世界では、フィクションの暴力は生きていけません。在一個現實充滿暴力的世界裡,虛構的暴力是無法生存的。
今回いただいた栄誉を、世界の平和のために少しでも役立てたいと思います」などとコメントしています。我希望能將此次獲得的榮譽,哪怕只是一點點,也能用於促進世界和平。
また、翻訳を担当したサム・ベットさんは、「任侠映画やロードムービーというジャンルを採用しながら、それらのルールをひっくり返して未知の世界へたどりつき、何度読んでも生命力が感じられます。
此外,負責翻譯的山姆·貝特先生表示:「雖然採用了任俠電影和公路電影這些類型,但卻顛覆了這些類型的規則,帶領讀者進入未知的世界,無論讀多少次都能感受到作品的生命力。」
エンターテインメント的に暴力や暗い内容をどんどん取り入れながら、文章と物語は精度が高く、映画のような活力を紙面の活字だけでつくった物語だという点が評価されているのだと思います」とコメントしています。我認為,正是因為在娛樂性方面不斷融入暴力和黑暗內容,同時文章和故事本身精緻度很高,僅憑紙上的文字就創造出如電影般活力的故事,這一點受到了高度評價。
王谷さん「もう一度この舞台に来られたら」
授賞式のあと、王谷晶さんは翻訳を担当したサム・ベットさんと報道陣の取材に応じました。
王谷先生:「如果能再一次來到這個舞台就好了。」在頒獎典禮結束後,王谷晶老師與負責翻譯的山姆・貝特先生一起接受了媒體的採訪。
贈られた「短剣」を意味する「ダガー」を見せると、「だいぶ重たくて、凶器になりそうです。
當我展示被贈送的「短劍」(Dagger)時,對方說:「這把相當重,看起來都快成兇器了。」
飛行機で
持って
帰れるか
ちょっと不安です」と
話し、
報道陣の
笑いを
誘っていました。
他說:「有點擔心能不能搭飛機帶回去」,引起了媒體的笑聲。
そして、「このようなことになるとは予想していなくて、まだ混乱しています。
而且,「我完全沒預料到會變成這樣,現在還很困惑。」
亡くなった
祖父が
海外ミステリーが
好きで、
子どもの
頃から『ダガー
賞』のことは
知っていました。
我已故的祖父很喜歡海外推理小說,從小我就知道「匕首獎」。
もし伝えることができたら
一番先に
祖父に
伝えたかったと
今は
思います」と
話していました。
その上で、「英語圏では全く無名の人間の作品をたくさんの方が読んでくださって、たどたどしいスピーチにもうけていただいて、すごくうれしく思っています。
在此基礎上,「在英語圈完全默默無聞的我的作品,能被這麼多人閱讀,還能接受我拙劣的演講,我感到非常高興。」
こんな栄誉は
一生に
一度だと
思いますが、
これからの
作家生活を
頑張って
もう一度この舞台に
来られたらうれしいです」と
話していました。
我認為這樣的榮譽一生只有一次,但如果今後的作家生涯能努力再一次站上這個舞台,我會非常高興。
また、サム・ベットさんは、「苦労しながら英語に翻訳したので、うれしいです。
此外,山姆·貝特先生表示:「我很高興,因為我是辛苦地將其翻譯成英文的。」
感動していて、
光栄です。
これからも
王谷さんの
作品でご
一緒したいですし、
日本文学には
いろいろな
作品が
あるのでいろいろな
作家さんに
活躍してもらいたいと
思っています」と
話していました。
我今後也希望能繼續與王谷先生合作他的作品,日本文學有各種各樣的作品,也希望有更多不同的作家能夠活躍。
「ダガー賞」とは
英国推理作家協会賞=「ダガー賞」は1955年に創設され、スリラーやサスペンス、スパイ小説などを含むすぐれた推理小説に贈られる賞です。
「匕首獎」是指英國推理作家協會獎=「匕首獎」創設於1955年,是頒發給包含驚悚、懸疑、間諜小說等優秀推理小說的獎項。
アメリカの「エドガー賞」と並んで世界でも権威がある推理小説の賞とされていて、長編や短編、それにノンフィクションなどの部門に分かれています。
與美國的「愛德加獎」齊名,被認為是世界上極具權威的推理小說獎項,分為長篇、短篇以及非小說類等部門。
翻訳部門は2006年に創設され、日本人作家の作品としては、2016年に横山秀夫さんの「64」、2019年に東野圭吾さんの「新参者」、2022年に伊坂幸太郎さんの「マリアビートル」が最終候補に選ばれましたが、いずれも受賞を逃していました。
翻譯部門於2006年創立,作為日本作家的作品,2016年橫山秀夫的《64》、2019年東野圭吾的《新參者》、2022年伊坂幸太郎的《瑪利亞甲蟲》雖然都入選最終候選名單,但都未能獲獎。
ことしは王谷晶さんの「ババヤガの夜」と、男たちの財産を奪って殺害した容疑で収監されている女と面会を重ねる週刊誌の女性記者を描いた、柚木麻子さんの「BUTTER」の2作品が最終候補に残り、受賞の行方が注目されていました。
今年有兩部作品入圍最後決選,分別是王谷晶的《巴巴雅加之夜》和描寫一位週刊雜誌女記者多次會見因涉嫌奪取男性財產並殺害他們而被收監的女性的柚木麻子的《BUTTER》,獲獎結果備受矚目。
そして、王谷さんの「ババヤガの夜」が日本人作家として初めて翻訳部門を受賞し、王谷さんと翻訳者のサム・ベットさんに、「ダガー」を意味する短剣が記念に贈られました。
然後,王谷先生的《芭芭雅加之夜》作為日本作家首次獲得翻譯部門獎項,並由王谷先生與譯者山姆·貝特先生一同獲贈象徵「匕首」意義的短劍作為紀念。
受賞理由「独創的かつ奇妙も見事」
受賞理由について英国推理作家協会は「まるで漫画のように日本のヤクザを描いたこの作品は、登場人物たちの深い人間性を際立たせるために、容赦のない暴力描写に満ちている。
獲獎理由「獨創且奇特亦精彩」關於獲獎理由,英國推理作家協會表示:「這部作品像漫畫一樣描繪了日本的黑幫,為了凸顯角色們深刻的人性,充滿了毫不留情的暴力描寫。」
むだのない
展開で、
独創的かつ、
奇妙では
あるものの
見事なラブストーリーを
紡ぎ
出している」
などとしています。
以毫不浪費的展開,編織出一個獨創且雖然奇特卻極為精彩的愛情故事。
日本の女性作家 世界で高評価
今回の受賞について翻訳家で文芸評論家の鴻巣友季子さんは、「『ババヤガの夜』は女性のバディものでヤクザワールドが描かれています。
日本女作家在世界上獲得高度評價,關於這次的獲獎,翻譯家兼文學評論家鴻巢友季子表示:「《巴巴雅加之夜》是一部以女性搭檔為主題,描繪黑幫世界的作品。」
映画を
見ているような
迫力で
映像喚起力も
強く、
これまでの『ダガー
賞』のラインナップにはないもので
本当にうれしい
快挙です」と
話していました。
像是在看電影一樣充滿震撼力,影像喚起力也很強,這是過去『匕首獎』陣容中所沒有的作品,真的是讓人非常高興的壯舉。
その上で、「世界的なフェミニズムの大きな波が背景にあると思います。
在此基礎上,我認為背後有一股全球性的女性主義大潮。
女性どうしがひかれ
合い
困難に
立ち向かうのが
自然に
受け入れられるように
書かれています。
女性之間互相吸引並共同面對困難,被自然地描寫成可以被接受的事情。
バイオレンスやアクションもありますが、
根幹には
愛情や
信頼が
普遍的だと
思わせて
くれる作品です。
雖然有暴力和動作場面,但這部作品讓人感受到愛與信任才是根本且普遍的。
受賞で
ますます注目され、
ファンが
増えることも
期待されます」と
指摘していました。
由於獲獎而越來越受到矚目,也期待粉絲會因此增加。」
そして、近年、海外の文学賞で日本の女性作家の作品が高い評価を受けていることにふれたうえで、王谷さんの受賞はこうした流れの中に位置づけられるのではないかと分析します。
並且,近年來日本女性作家的作品在海外文學獎中獲得高度評價,基於此,可以分析王谷女士的得獎也可被歸類於這樣的潮流之中。
例えば、アメリカで最も権威のある文学賞、「全米図書賞」の翻訳文学部門に2018年、多和田葉子さんの「献灯使」が、2020年には柳美里さんの「JR上野駅公園口」が選ばれました。
例如,在美國最具權威的文學獎「全美圖書獎」的翻譯文學部門中,2018年多和田葉子的《獻燈使》,以及2020年柳美里的《JR上野站公園口》都被選中。
また、イギリスで最も権威のある文学賞、「ブッカー賞」の翻訳部門では、2020年に小川洋子さんの「密やかな結晶」が、2022年に川上未映子さんの「ヘヴン」が、ことし、川上弘美さんの「大きな鳥にさらわれないよう」が、それぞれ最終候補に残りました。
此外,在英國最具權威的文學獎「布克獎」的翻譯部門中,2020年小川洋子的《密靜的結晶》、2022年川上未映子的《天堂》,以及今年川上弘美的《不要被大鳥帶走》,分別入選了最終候選名單。
鴻巣さんは、「今、日本文学がすごく人気があると言われていますが、女性の生き方や男性優位の社会の中でどう抑圧と戦ったり立ち向かったりしていくかを書いています。
鴻巢先生說:「現在大家都說日本文學非常受歡迎,但我寫的是女性如何在男性主導的社會中,與壓迫奮鬥並勇敢面對自己的人生道路。」
リアリズムや
神話的なモチーフもあり、
世界の
今の
文学の
流れとも
合致しています」と
話していました。
也有現實主義和神話性的主題,這也與當今世界文學的潮流相契合。
こうした作品が英米で受け入れられる要因として、「近年の世界的な政治の保守化や右傾化、ナショナリズムの高まりへの一種の反動だと感じます。
我認為這類作品在英美受到歡迎的原因之一,是因為人們對近年來全球政治保守化、右傾化以及民族主義高漲產生了一種反動。
アメリカの
保守政権やイギリスのEU
離脱を
契機に、
外の
世界とつながりたい、
知らない
言語で
書かれた
知らない
世界のことを
読みたいと
思う若者の
存在が
背景に
あるのではないか」と
指摘していました。
美國的保守政權以及英國脫歐為契機,背後或許存在著一群年輕人,他們渴望與外面的世界連結,想要閱讀用自己不熟悉的語言書寫的、關於未知世界的事物——有人如此指出。