世界経済フォーラムの年次総会、いわゆる「ダボス会議」は、例年この時期にスイスで開かれていますが、ことしはトランプ新政権の政策が世界経済に与える影響なども活発に議論されています。
このなかでも、メキシコやカナダ、それに中国などを対象に検討を進めているとした関税措置や、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱などには、懸念を示す参加者も少なくありません。
日本時間の24日未明には、トランプ大統領もみずからオンラインで参加する予定で、どのような発言をするのか、現地では関心が高まっています。
中国などへの関税措置 “デメリット大きく回避を” WTO事務局長
トランプ大統領が検討する中国などへの関税措置について、WTO=世界貿易機関のオコンジョイウェアラ事務局長は、21日の経済成長をテーマにしたセッションの中で、「関税は実際にアメリカにも世界のほかの国々にも利益をもたらさない。トランプ氏は中国と対話が可能かどうかを見極めようともしており、有望な見通しを見いだせる可能性もある」と述べ、関税措置はデメリットが大きく、回避すべきだという考えを示しました。
そのうえで、関税措置が実際に導入された場合の対応について、「しっぺ返しをしようとは思わないようにすべきだ。貿易は依然として成長の源泉になると信じている」と述べ、報復措置の応酬は避けるべきだと強調しました。
サントリー社長「大統領発言分析が日本の経営者に必要」
ダボス会議に去年に続いて参加したサントリーホールディングスの新浪剛史社長に、現地でのトランプ新政権の受け止めや、企業経営者としての見方を聞きました。
Q.ことしのダボス会議の雰囲気について感じることは?
A.ヨーロッパはトランプ大統領の政策によって大きな影響を受けることを認識しているので、現地のリーダーはすごく緊張している。その意味で去年とは雰囲気が違う。
ヨーロッパは規制もすごく多いし、非常に動きが遅いということが大きな課題として皆分かっているので、どうするかという危機感が私はあると思う。
Q.アメリカが中国に追加関税をかけた場合の日本への影響は?
A.アメリカが追加関税を中国にかけ始めたら、ほかの国も行う可能性がある。各国が中国との貿易の赤字で悩んでいるわけですから。世界中がいわゆる関税競争になる。
そして中国を追い出すことになると、これは決していいことではない。
日本は貿易を続け、投資も海外にする。これができる環境がよい。
いろいろなモノを買ったり売ったり、世界中で交易をするのが日本にとっては生命線だ。
そして、またサプライチェーン=供給網が乱れれば、日本の企業の収益も大変厳しくなる可能性もある。
そういった意味で、アメリカが始めることが世界の関税戦争の始まりになるかもしれない。
日本はそういったことを避けるようなことを今までも行ってきたので、それを継続的に力強く行うべきだと思う。
Q.企業経営者としてトランプ新政権との向き合い方はどうあるべきか?
A.今回分かったのは、トランプ大統領は非常に現実主義者だということだ。
彼が一番悩ましいのは、2年後の中間選挙のときにインフレ退治ができていないと負けてしまうということ。それを恐れている。
アメリカが世界で経済を引っ張っているので、マクロ経済的にアメリカ経済を見ていくことは大変重要だと思う。
トランプ大統領が発する情報を常に分析し、それが現実的かどうか、アメリカがインフレになるか、アメリカと各国との関税戦争的なことになるのか。
大統領の発言をしっかり分析していくことが、日本の経営者にとって必要なことだと思う。
必要以上に恐れることはないし、大統領のひとつの発言ですべてを判断するのではなく、発言を全部見て、そして反応を見ながら経営者として予測可能性を高めていくことが大切だと思う。
米国際政治学の権威 「米中関係今より良くなると予想」
20日にアメリカの大統領に就任したトランプ氏の今後の外交方針はどのようなものになるのでしょうか。
アメリカの国際政治学の権威で、レーガン政権では国防長官の特別顧問を、クリントン政権では国防次官補を務めたこともあるグレアム・アリソン氏に21日、「ダボス会議」年次総会の会場で聞きました。
Q.今回の「ダボス会議」の会場の雰囲気をどう感じるか?
A.世界が大きく変化したという事実に対して、ある程度の興奮があるように感じる。
昨年の今ごろ、ほとんどのダボス会議参加者は、実際にこうしたことが起きるとは誰も想像もできなかっただろう。
トランプ氏は今や大統領であり、2025年には間違いなく世界最大の変革者となるだろう。
もしトランプ氏のことを真剣に受け止めるなら、彼が言うことを聞き、彼が投稿するSNSを読み、彼の悪ふざけやショーを見なければならない。
行間を読み、感情を読み取れば、彼が何をしようとしているのかの手がかりを見つけることができる。
選挙運動中や就任式までの間に発信された内容を注意深く見ていれば、驚きはなかった。
Q.トランプ新政権では、アメリカと中国の関係はどのようになると考えるか?
A.もし私が賭けをするとしたら、来年の今ごろには米中関係は今よりも良くなっていると予想する。
なぜならトランプ氏は実際には習近平国家主席を尊敬しており、習氏もトランプ氏を尊敬している。
両者とも、自分自身を偉大な人物であり、偉大なことを行う人物だと考えているのだ。
彼らは会談し、共に何ができるか見極めるつもりだと思う。
Q.2期目のトランプ大統領は1期目と何が違うのか?
A.1期目の政権では、トランプ氏は素人だった。
ビジネスマンであり、俳優だった。
当選したが、大統領になる方法など何も知らず、政府の作り方も、物事を決めていく方法も知らなかった。
だから不安定で、いらだち、そして敗北した。
ただ彼は、経験から学んだ。それから4年間考える時間があった。
閣僚を見ても、彼に忠誠を誓う人々で占められるだろう。
私は今後、波乱が起こり、混とんとしたものになると思う。しかし、ポジティブな要素もあると思う。