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JLPT N1 – Reading Exercise 59
以下いかは、現代美術家げんだいびじゅつかについて、伝統的でんとうてきな職人しょくにんとの比較ひかくを中心ちゅうしんに書かかれた文章ぶんしょうである。現代美術げんだいびじゅつの世界せかいでは、作品さくひんの独自性どくじせいを示しめす際さいにも、また新あたらしい芸術観げいじゅつかんを提示ていじする際さいにも、理論的りろんてきな裏付うらづけが不可欠ふかけつである。そして、この理論的根拠りろんてきこんきょを基盤きばんとするがゆえに、美術家びじゅつかの主張しゅちょうや作品解釈さくひんかいしゃくは、他者たしゃによる批判ひはんや再解釈さいかいしゃくが可能かのうとなる。これは、哲学てつがくや社会学しゃかいがくといった人文科学じんぶんかがくの分野ぶんやで新あらたな理論りろんを展開てんかいする場合ばあいに、その論拠ろんきょや論理ろんりを他ほかの研究者けんきゅうしゃにも検証けんしょう可能かのうな形かたちで示しめさなければならないことと同おなじである。しかし、伝統工芸でんとうこうげいに同様どうようの論証ろんしょうを求もとめるのは無理むりがある。近年きんねんは職人しょくにんにも現代美術家げんだいびじゅつかと同おなじ創造性そうぞうせいや理論性りろんせいを求もとめる声こえがあるようだが、それは本質的ほんしつてきに異ことなるものだと言いわざるを得えない。やはり、現代美術げんだいびじゅつと伝統工芸でんとうこうげいは、そもそも目的もくてきも手法しゅほうも異ことなるものなのである。また、次つぎのような話はなしも参考さんこうになるだろう。ある時とき、音楽学部おんがくがくぶの作曲家さっきょくかに、「なぜ新あたらしい音楽理論おんがくりろんを発表はっぴょうするのは、現役げんえきの演奏家えんそうかよりも研究者けんきゅうしゃや評論家ひょうろんかが多おおいのですか」と尋たずねたことがあった。著名ちょめいな音楽作品おんがくさくひんの革新的かくしんてきな解釈かいしゃくや理論りろんの発表はっぴょうに、意外いがいと演奏家えんそうかが少すくないことに疑問ぎもんを感かんじていたからである。すると、作曲家さっきょくかは、「演奏家えんそうかの多おおくは、既存きそんの楽曲がっきょくを深ふかく掘ほり下さげて表現ひょうげんすることに重おもきを置おいている。一方いっぽう、研究者けんきゅうしゃや評論家ひょうろんかは、音楽理論おんがくりろんの新あらたな枠組わくぐみや歴史的背景れきしてきはいけいの再構築さいこうちくに力ちからを注そそいでいるのです」と教おしえてくれた。(中略ちゅうりゃく)現代美術家げんだいびじゅつかと伝統的職人でんとうてきしょくにんの違ちがいも、これに近ちかいものがある。職人しょくにんを芸術げいじゅつのアマチュアと見みなすつもりはないが、同おなじ「ものづくり」を扱あつかいながらも、その立場たちばや目的もくてきは異ことなると言いえるだろう。伝統工芸でんとうこうげいでは、広ひろく知しられた技法ぎほうや意匠いしょうを継承けいしょうし、作品さくひんを制作せいさくすることが多おおいが、現代美術げんだいびじゅつではむしろ誰だれも試こころみていない表現ひょうげんや素材そざいを用もちいて、独自どくじの芸術観げいじゅつかんを追求ついきゅうすることが主流しゅりゅうである。また、作品さくひんの美的価値びてきかちや社会的意義しゃかいてきいぎよりも、制作過程せいさくかていやコンセプトそのものに重おもきを置おく傾向けいこうが強つよい。そのため、現代美術家げんだいびじゅつかが一般いっぱんの美術びじゅつファンを驚おどろかせるような新解釈しんかいしゃくや挑発的ちょうはつてきな作品さくひんを発表はっぴょうすることは珍めずらしくない。もちろん、職人しょくにんであっても伝統でんとうに安住あんじゅうせず、新あたらたな表現ひょうげんや技術ぎじゅつに関心かんしんを持もつことはある。しかし、地道じみちな技術ぎじゅつの研鑽けんさんや細部さいぶへのこだわりを積つみ重かさねることで、従来じゅうらいの価値観かちかんに新あたらしい視点してんが加くわわることを、職人しょくにんは知しっているのだ。つまり、奇抜きばつさだけを追おい求もとめて、伝統でんとうの文脈ぶんみゃくを無視むしするような姿勢しせいは慎つつしむべきなのである。
JLPT N1 – Reading Exercise 60
JLPT N1 – Reading Exercise 61
JLPT N1 – Reading Exercise 62