約12万5000年前に現在のドイツにあたる場所で暮らしていたネアンデルタール人の集団は、計画的に動物の骨から脂肪を抽出し、食用に加工していた。2023年7月2日付の米科学誌『サイエンス・アドバンシーズ』が伝えた。
仏国立科学研究センター(CNRS)の考古学者、リュドビク・スリマク氏は「単に骨に火を使ったのではなく、脂質の抽出を目的とする特定のプロセスを意図的に行ったことが考古学的に確認された」と話している。ネアンデルタール人に関する著作『ネアンデルタール人の声』も持つスリマク氏は、最新の研究には関与していない。
今回の研究で明らかになったのは、現在のドイツ中央部ハレ南郊ノイマルク・ノルドと呼ばれる遺跡から発掘された12万点以上の骨片や1万6000点の石器の分析を通じてのことだった。仏国立科学研究センター(CNRS)などの研究チームの分析によって行われた。
発掘調査の結果、ネアンデルタール人がこの地に少なくとも300年にわたって暮らし、その間、動物の骨から脂肪を抽出していたことが明らかになった。現場で火を使用していた痕跡は、煮るという調理法を用いていた可能性を示唆している。ネアンデルタール人が特定の工程を近くの森林や湖辺で行い、動物の骨を何時間も掛けて煮込むことによって脂肪を回収していたのだという。
「単純にその日暮らしの生活ではなかった。優れた計画を持ち、長い間の展望を持って複雑な作業を組織していた。自分たちが得られるカロリーを最大限に引き出す戦略を立てていたのだ」——こう語るのは、研究論文の共著者である英レディング大学のジェフ・スミス動物考古学上級研究員である。
また、ネアンデルタール人は抽出した湯気を吸い込んで「脂っこいブイヨン」として摂取していた可能性がある。あるいは、香り付けや栄養価を高めるために、植物を加えていた可能性も指摘される。実際、発掘現場からは焦げたヘーゼルナッツやドングリ、スピノサスモモなどの遺物が発見されたという。
赤身肉を主に食べ、脂肪が欠乏しがちなネアンデルタール人にとって、骨髄や脂肪組織を含む骨は重要な栄養源となっていた。ノイマルク・ノルド遺跡で見つかった動物の骨の大多数は馬や鹿、牛に似た絶滅動物オーロックスに由来するものであり、それらの骨から脂肪を抽出していたと考えられている。
ネアンデルタール人の知性や生存技術、さらには社会的な組織力さえも示唆する今回の研究結果は、従来の「文明以前の野蛮な狩猟採集民」というイメージを覆すものであり、かれらがもがきながらも複雑な技術を編み出し生き延びていたことを示す驚きに満ちた一例である。