若いうちでなければ新しい言語を学ぶのは難しいと考える人は少なくありません。しかし、70代の日本人翻訳者である宮崎伸二氏は、49歳から語学学習を始めることで、その考えを覆しました。その後13年間、ほぼ一日も休むことなく学び続けてきました。
宮崎氏の一日は、毎朝6時半に地元のカフェで始まり、そこで2時間の勉強に取り組みます。移動中もスマートフォンを使ってリスニングや発音の練習を欠かしません。1日平均6時間を語学学習に充てる生活を13年間続け、さらに週に4回ほど語学クラスにも通っています。
学習方法については、新しい言語に触れる際、色や数字、曜日といったテーマごとに語彙をまとめて覚えることを重視しているといいます。また、自作の単語カード(フラッシュカード)を使って隙間時間に復習し、覚えきれていない単語はノートに書き留めて管理しています。
現在までに宮崎氏は、ドイツ語、フランス語、中国語をはじめ、タイ語やインドネシア語など、計9言語を学んできました。すべての言語で通訳レベルに達しているわけではありませんが、中国語で新聞や映画を楽しんだり、ドイツ語で日常会話ができる実力を身につけています。
幼い頃は読書好きではなかった宮崎氏ですが、青山学院大学在学中に文学と出会い、作家になる夢を抱くようになりました。しかし作家として成功するのは容易ではなく、英語力を活かしてまずは翻訳者の道を志します。大学卒業後は英語翻訳者として働き、その後イギリスへ留学して言語学を学びました。
帰国後は出版翻訳の分野に進みましたが、市場の厳しさから多くの翻訳作品が出版前に中止されるという経験を重ね、42歳のときに新たな道を模索し始めます。
その後、慶應義塾大学やロンドン大学の通信教育で哲学・法学・商学を学ぶ中で、日本語に未翻訳の外国語書籍を読むことに魅力を感じ、語学への関心が一層高まりました。「外国語を学ぶことで、原語のまま素晴らしい本を読むことができる」と宮崎氏は語ります。これをきっかけに、フランス語、スペイン語、イタリア語などのヨーロッパ言語に加え、韓国語、中国語、タイ語、インドネシア語といったアジア言語にも挑戦するようになりました。
複数の言語を同時に学ぶことは、記憶力や集中力の向上だけでなく、思考の柔軟性を高める効果もあるといいます。宮崎氏は多言語学習の経験をまとめた初の著書も出版し、作家としての夢の一端を実現しました。60代を迎えた現在も、新たな分野への挑戦を続けており、ピアノの習得にも取り組み始めています。
中高年になってから学び直そうとしている人々に向けて、宮崎氏はこう語ります。「持続するモチベーションは、名声や外的な報酬からではなく、自分自身の価値観に沿って生きたいという内なる願いから生まれるものです。内面の力が強ければ、どんな困難や試練も乗り越えることができます。」