昔、広島の山の中に川戸村という村がありました。そこに、留吉とみよという夫婦と赤ちゃんが住んでいました。ある年、村では雨がふらず、山の木や草がかれて、動物たちも食べ物がなくてこまりました。でも、留吉たちの田んぼだけは、少しだけ作物がとれました。
秋になって、みよは留吉のためにキビ餅を作っていました。そのとき、赤ちゃんが急に泣きだしました。みよがふりむくと、こわい顔のきつねがふすまのかげから見ていました。そして、きつねはキビ餅のほうへ近づいてきました。
みよはキビ餅をとられたくなくて、いろりの火でやいている木をきつねに投げました。木はきつねにあたり、きつねはうめいてにげていきました。
夕方、山から帰った留吉は、家に赤ちゃんがいないことに気がつきました。みよは仕事をしていたので、気がつきませんでした。みよは昼のきつねの話を留吉にしました。二人は赤ちゃんをさがしはじめました。この村では、きつねが人にうらみをもつと「きつねのあたん」といって、こわがっていました。
留吉は山にくわしいので、きつねがよく出る場所に行きました。みよも村の人たちといっしょにさがしました。でも、なかなか赤ちゃんは見つかりません。
夜になったとき、大きな岩のあいだから赤ちゃんの泣き声が聞こえました。行ってみると、赤ちゃんは元気に泣いていました。留吉とみよはとてもよろこびました。
「きっと、きつねも子どもにキビ餅を食べさせたかったんだね」と留吉が言いました。みよもうなずきました。次の日、二人はそっと大きな岩のあいだにキビ餅をおいて帰りました。