JLPT N1 – Reading Exercise 113
午後の図書館での出来事だった。静かな空間に突然、若い男性が本を机に叩きつける音が響いた。周囲の利用者が驚いて顔を上げる。彼の隣に座っていた女性が立ち上がり、涙声で叫ぶ。
「もう我慢できない!」
他の利用者がひそひそと話す声が耳に入る。
「まるで映画のワンシーンみたいだね」
少し芝居がかった印象だったが、「1」女性は「感情を表に出すこと」で気持ちが軽くなったのかもしれない。
現実離れした出来事に対して、人はよく「映画みたい」と口にする。
10年前の夜のことだった。自宅のリビングで父が突然倒れ、意識を失った。家族は慌てて救急車を呼んだ。
救急隊員が到着し、専門用語が飛び交う中、父への応急処置が始まる。青い毛布がかけられた父は、微動だにしない。その時、玄関のドアが開いていたせいで、飼い犬が外へ走り出してしまった。
当時、高校生だった妹が、とっさに犬を追いかけて捕まえた。しかし、「2」妹は犬を抱えたまま動けずにいた。
その後、「かかりつけの医者は?」と、急かすように聞かれたことしか記憶に残っていない。
もしこれが映画なら、きっと「家族全員でお父さんのもとへ!」と演出されるだろう。
人は、予期せぬ状況で思いがけない行動をとる。長年、他者の感情を観察してきた自分でも、人間の本質は依然としてつかみきれないでいる。