JLPT N2 – Reading Exercise 83
子どもを持ったことのある人なら、五歳の娘が「手紙」というものに強い興味を持つ時期があることをご存じだと思う。自分の書いた文字が誰かに届き、返事が来るという仕組みが不思議でたまらない時期である。文字を覚え始めたばかりの娘にとって、家の玄関にある郵便受けは、外の世界とつながる魔法の箱となっていった。
初めのうちは、遠くに住む祖父母への誕生日カードをいっしょに出して喜んでいるだけであったが、そのうち自分から誰かに(1)手紙を書きたがるようになった。
次に彼女は、宛先のない手紙を出すことに興味を覚えたようである。一年前、彼女が一番懐いていた隣の家の「おじいちゃん」が亡くなったとき、私は彼女に「おじいちゃんは空の上の遠い町に引っ越したんだよ」と教えた。彼女はそれを信じ、空の上の町へ手紙を届けたいと言い出したのだ。私は、使わなくなった古い小さな箱を「空へのポスト」として庭の隅に置いてあげて、そこに(2)手紙を入れさせておいた。
彼女はほとんど毎日、その箱に(3)何かを投函した。
「おじいちゃん、げんきですか」「きょうね、さかあがりができるようになったよ」とか、「こんどね、あかいはなを植えるの。お空からも見えるかな」などなど。たわいもない内容ばかりだが、娘が一生懸命に鉛筆を動かしている姿を見て、私は(4)微笑ましく思っていた。
「おじいちゃん、おてがみ読んでくれたかな」「お空の上は寒くないかな」
ある日、庭の手入れをしていたとき、ポストの箱の中に一通の封筒が入っているのに気づいた。
「いつもお嬢さんから温かいお手紙をいただいております。勝手に箱を開けて読んでしまったこと、まずはお詫び申し上げます。(5)私は、そのお隣に住む者です。実は、一昨年に家内を亡くしまして、独りでこの広い家に住むのが耐えられないほど寂しく、生きる希望を失っておりました。
そんな時、庭の隙間から見えるこの箱に、小さなお手紙が入れられているのを見つけました。亡くなった家内も子どもが大好きで、もし二人に孫がいたら、ちょうどお嬢さんくらいの年齢だったはずです。お手紙を読むたびに、まるで天国の家内が私に語りかけてくれているような、あるいは(6)孫ができたような不思議な気持ちになり、明日もまた頑張ろうと思えるようになりました。
もしお許しいただけるなら、これからもお嬢さんの「お空へのお便り」を読ませていただけないでしょうか。あの子の純粋な言葉に、私は(7)救われているのです」
こんな手紙を読んでしまったら、断ることなどできないだろう。娘は「おじいちゃんにお手紙が届いたんだ!」と目を輝かせている。私は、その手紙の主が、以前の隣人ではなく、新しく引っ越してきた寂しそうなお年寄りだったことを知った。そして娘はいまでも、庭の隅のポストに「空への手紙」を入れ続けている。
(創作:『心の架け橋』による)