企業成長の多様性と長期主義
「企業の成長」と一口に言っても、その在り方は決して一様ではない。急速な拡大を目指す企業がある一方で、何代にもわたり事業を継承し、安定的かつ持続的な発展を重視する企業も少なくない。
売上や利益の拡大を最優先する経営方針もあれば、規模の大小にかかわらず、限られた顧客に対して継続的に価値を提供し続けることに意義を見出す企業も存在するのである。どのような成長の形であれ、顧客、従業員、株主、さらには社会全体にとって望ましいものである限り、否定されるべきものではなく、それぞれの企業が自らの価値観に基づいて成長を追求できる社会が理想的だと言える。
先日京都で開催された「AVS 2025(アトツギベンチャーサミット2025)」は、こうした多様な成長観について再考させられる契機となった。本イベントのオープニングセッションには、創業150年を迎えた老舗「開化堂」の代表取締役・八木隆裕氏が登壇した。同社は明治8年よりブリキ製茶筒の製造を始め、以降150年にわたり伝統的な製法と技術を磨き続けてきた。
その結果、蓋と筒が生み出す独特の密閉感は、開化堂の象徴的な技術として国内外で高く評価されている。
開化堂の茶筒は2万円前後と一見高価であるものの、八木氏の経営哲学には深い示唆が含まれていた。特に印象的だったのは、販売を委託する取引先を選定する際、「家族のような関係を築けるかどうか」を重要な判断基準としている点である。家族のような信頼関係を構築することによって、単なる機能や品質のみならず、商品の本質的価値や精神性までも顧客に丁寧に伝えてもらえるようになるのだという。このような、一見非合理的とも思える基準は、実は長期的視点に立った極めて合理的な選択であり、短期的な大量販売に走ることなく、真に価値を理解し共感してくれる顧客へと商品を届ける流通を確立しているのである。まさに「家族が増えていくような成長」とも言え、これこそが企業の理想的な成長の一形態ではないだろうか。
また、アトツギアワードのソーシャルグッド部門でグランプリを受賞したリングスター(1887年創業)の取締役・唐金祐太氏の言葉も、参加者の心に強く残った。同社はプラスチック製の堅牢な工具箱やアウトドア用カゴを展開する一方、近年では対馬の海岸に漂着する大量の海洋プラスチックごみを活用した収納ボックスやバスケットを商品化し、事業を通じて環境保全活動も推進している。全国で環境保全に関する講演活動も行い、プラスチックとの共生を模索する社会づくりに貢献しているのである。
表彰式で唐金氏が述べた「ひ孫が誇る行動を為す」という言葉は、100年後の子孫に誇れる行動を今実践し、後世へバトンをつなぎたいという強い意志を示していた。海洋環境問題は一世代で解決できるものではなく、超長期的な視点で取り組む必要があるとしながらも、自社の強みを生かして社会貢献を果たすため、今できることを着実に実行している。このようなロングターミズムに基づく経営姿勢や未来を見据えたビジョンは、長い歴史の中で事業を継承してきたアトツギ経営者ならではの特徴と言えるだろう。
人の多様性が尊重されるべきであるのと同様に、企業としての多様性を認め合い、それぞれの企業が独自の価値を発揮することこそが、豊かな社会やイノベーションの基盤となるのではないかと考えられる。