決議案は一般の刑事事件の起訴状にあたるもので、トランプ大統領がみずからの政治的利益のためにウクライナに圧力をかけた「権力乱用」と、議会による疑惑の調査を妨害した「議会妨害」を根拠に、「トランプ大統領は憲法への脅威だ」として、大統領の罷免とあらゆる公的地位からの追放を求めています。
11日から行われた審議では、トランプ大統領の不正は弾劾に値すると主張する民主党の議員に対し、与党 共和党の議員は不正の証拠が示されていないと反発していましたが、「権力乱用」と「議会妨害」のいずれの条項も賛成23票、反対17票の賛成多数で可決されました。
決議案は来週にも下院の本会議で採決にかけられ、多数を占める民主党の議員の賛成で可決されるとみられ、これによりトランプ大統領は弾劾訴追される見通しです。
司法委員会で弾劾訴追の決議案が可決されるのは、1860年代のジョンソン大統領、1970年代のニクソン大統領、1990年代のクリントン大統領に次いで4人目で、このうち可決後に辞任したニクソン大統領を除く2人は本会議を経て弾劾訴追されています。
弾劾訴追の決議案は一般の刑事事件の起訴状に当たります。今回の決議案はトランプ大統領の「権力乱用」と「議会妨害」の2つを大きな柱としています。
弾劾訴追の決議案「権力乱用」
権力の乱用では「トランプ大統領がウクライナ政府に対し、政敵であるバイデン前副大統領に関する捜査の公表を不当に要求した」と認定しています。
また、2016年のアメリカ大統領選挙にロシアが介入したとされる疑惑をめぐり、ロシア側が、介入したのはウクライナだと主張していることに関しても調査するよう求めたとしています。
そのうえで、トランプ大統領はこれらの調査の公表が、3億9100万ドルの軍事支援とホワイトハウスでのゼレンスキー大統領との首脳会談の条件だとウクライナ政府に伝えたと指摘しています。
また、トランプ大統領はこれらの行為が明らかになったあと、最終的にウクライナへの軍事支援を実行したものの、ウクライナには公然と調査を要求し続けたとも認定しています。
こうしたことから「トランプ大統領は上記のすべてにおいて、大統領の権限を悪用し、国家安全保障をはじめ重要な国益を損ね、政治的利益を不当に得た。そして民主的な選挙に外国勢力の介入を許し、国家を裏切った」として、権力の乱用にあたるとしています。
弾劾訴追の決議案「議会妨害」
議会への妨害では「トランプ大統領は、唯一議会下院に与えられている弾劾の調査権限による召喚を、いまだかつてない形で完全に無視するよう指示した」と認定しています。
具体的には、ホワイトハウスの職員に法的強制力のある議会の召喚状を無視するよう指示し、議会の委員会が要求した文書の作成を拒んだとしています。
また、そのほかの政府機関に対しても召喚状を無視するよう指示した結果、国務省、行政管理予算局、エネルギー省、国防総省が文書の提出を一切拒否したと指摘しています。
さらに、行政機関の職員や元職員に議会の調査に協力しないよう指示した結果、9人の政権幹部が証言を求める議会の召喚状を無視したとして「アメリカ史上、大統領の弾劾に向けた議会下院の調査権限をこれほどまでに妨害した大統領はいない」としています。
決議案では「トランプ大統領はアメリカ大統領や行政の信頼、法と正義の理念を損ねる行動を取り、アメリカ国民を傷つけた」としたうえで「トランプ大統領が在任し続けた場合、憲法に対する脅威であり続けることが明らかになった」と厳しく非難しています。
そして「トランプ大統領は弾劾裁判を経て大統領職から解任され、いかなる公的な地位からも追放されなければならない」として、大統領の罷免を求めています。
罷免の可能性低い 世論が大統領選に影響か
弾劾訴追の決議案は下院の本会議に送られ、採決にかけられます。
本会議では民主党が多数派を握るため、賛成多数で可決される見通しで、この結果、トランプ大統領が弾劾訴追されることになります。
訴追されたあとは、この制度で裁判所の役割を担う議会上院が弾劾裁判を開いて訴追の内容を審議します。
そして、出席議員の3分の2以上の賛成を得られれば大統領は弾劾され、罷免となりますが、上院は共和党が過半数を占めるため、罷免の可能性は低いとみられています。
民主党としては、一連の手続きを通じてトランプ大統領の資質や適性に疑義を投げかけ、世論を喚起して来年秋の大統領選挙に向けた流れを引き寄せたいねらいです。
これに対しトランプ大統領と共和党は疑惑を徹底して否定し、民主党の政治的な思惑による動きだと非難することで乗り切る構えです。
トランプ大統領の弾劾をめぐっては、最新の世論調査の平均値で賛成が46.5%、反対が46.5%と世論が大きく分かれていて、今後の弾劾手続きでこの世論がどう動くのかが来年のアメリカ大統領選挙の行方にも影響を与えそうです。