日本新聞: 御嶽山噴火めぐる国などへの賠償請求訴え退ける長野地裁

平成へいせい26年ねん、多数たすうの犠牲ぎせい者しゃが出でた御嶽山みたけさんの噴火ふんかをめぐり、遺族いぞくなどが噴火ふんか警戒けいかいレベルの引き上ひきあげを怠おこたったとして、国くになどに賠償ばいしょうを求もとめていた裁判さいばんで、長野ながの地方ちほう裁判所さいばんしょ松本まつもと支部しぶは、原告げんこくの訴うったえを退しりぞけました。

判決はんけつでは「直前ちょくぜんに噴火ふんか警戒けいかいレベルを据え置すえおいた気象庁きしょうちょうの判断はんだんは合理ごうり性せいに欠かけ違法いほうだ」と指摘してきした一方いっぽう、「その段階だんかいから対応たいおうしていたとしても、被害ひがいを防ふせげたとは言いえない」として、賠償ばいしょうを認みとめませんでした。

8年ねん前まえの平成へいせい26年ねん9月つき、長野ながの県けんと岐阜ぎふ県けんにまたがる御嶽山みたけさんが噴火ふんかし、死者ししゃ・行方ゆくえ不明ふめい者しゃは63人にんにのぼりました。

この噴火ふんかをめぐり、一部いちぶの遺族いぞくなど、合あわせて32人にんは「気象庁きしょうちょうが事前じぜんに噴火ふんか警戒けいかいレベルを1から2に引き上ひきあげるのを怠おこたり、被災ひさいした」などとして、国くになどに合あわせて3億おく7600万まん円えんの賠償ばいしょうを求もとめていました。

これに対にたいし、国くには「当時とうじの判断はんだんの過程かていが合理ごうり性せいを欠かいていたとはいえない」などとして、訴うったえを退しりぞけるよう求もとめました。

13日にちの判決はんけつで、長野ながの地方ちほう裁判所さいばんしょ松本まつもと支部しぶの山城やましろ司つかさ裁判さいばん長ちょうは「火山かざん性せい地震じしんが増ふえていた2週間しゅうかん余あまり前まえの段階だんかいでは、気象庁きしょうちょうに、直ただちに噴火ふんか警戒けいかいレベルを引き上ひきあげる注意ちゅうい義務ぎむがあったとは言いえない。しかし、噴火ふんか2日にち前まえに地殻ちかく変動へんどうの可能かのう性せいが指摘してきされた際さい、十分じゅうぶん検討けんとうをせず、レベルを漫然まんぜんと据え置すえおいた判断はんだんは合理ごうり性せいに欠かけ違法いほうだ」と指摘してきしました。

一方いっぽうで、「その段階だんかいから気象庁きしょうちょうが対応たいおうしていたとしても、立ち入たちいり規制きせいなどが間に合まにあったとは言いえず、被害ひがいを防ふせぐことができたとは言いえない」として、賠償ばいしょうを求もとめる訴うったえを退しりぞけました。

原告げんこく控訴こうその意向いこう示しめす

裁判さいばんのあと、会見かいけんを開ひらいた遺族いぞくらは「判決はんけつに納得なっとくできない」などとして、控訴こうそする意向いこうを示しめしました。

当時とうじ、一緒いっしょに登のぼっていた友人ゆうじんが亡なくなり、自身じしんも大だいけがをした田幸たこう秀敏ひでとしさんは、「気象庁きしょうちょうの職員しょくいんの違法いほう性せいが認みとめられているのに、われわれの訴うったえが認みとめられないというのでは、安全あんぜんを守まもる義務ぎむや責任せきにんの所在しょざいはどこにあるのかと疑問ぎもんに思おもった。控訴こうそしてこれからも闘たたかっていきたい」と話はなしました。

当時とうじ小学しょうがく5年生ねんせいだった娘むすめの照あきら利としさんを亡なくした長山ながやま幸嗣こうじさんは、「火山かざん予知よちは難むずかしいと国くには主張しゅちょうしていたが、それなら異常いじょうがある時点じてんで、なぜレベルを上あげなかったのか。国くにや気象庁きしょうちょうは違法いほう性せいが指摘してきされた今回こんかいの判決はんけつを今後こんごの防災ぼうさいに役立やくだてて欲ほしい」と、国くにへの対応たいおうを求もとめました。

また、長男ちょうなんの英樹ひできさんを亡なくした堀口ほりぐち純一じゅんいちさんは、「いい判決はんけつを期待きたいして息子むすこと一緒いっしょに判決はんけつを聞ききたいとの思おもいで息子むすこのネクタイ締しめて来きた。しかし、賠償ばいしょうが認みとめられなかったので、控訴こうそして最後さいごまで闘たたかいたい」と述のべました。

訴訟そしょうの経過けいか

8年ねん前まえの平成へいせい26年ねん9月つき。

長野ながの県けんと岐阜ぎふ県けんにまたがる御嶽山みたけさんが噴火ふんかし、死者ししゃ・行方ゆくえ不明ふめい者しゃが63人にんに上のぼり、戦後せんご最悪さいあくの噴火ふんか災害さいがいとなりました。

噴火ふんかから2年ねん余あまりがたった平成へいせい29年ねん1月つき、噴火ふんかで亡なくなった5人にんの遺族いぞくの11人にんが、噴火ふんか前まえに噴火ふんか警戒けいかいレベルを引き上ひきあげなかったほか、山頂さんちょう付近ふきんにある地震じしん計けいの故障こしょうを放置ほうちしていたとして、損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめる訴うったえを起おこしました。

裁判さいばんは同おなじ年としの3月つきに始はじまり、その後そのご、けがをした人ひとや、他たの遺族いぞくも追加ついかで提訴ていそ。

遺族いぞく30人にんと、けがをした2人にんの合あわせて32人にんが原告げんこくとなっています。

裁判さいばんでは、気象庁きしょうちょうで御嶽山みたけさんの噴火ふんか警戒けいかいレベルの判断はんだんに関かかわった当時とうじの火山かざん課長かちょうや、観測かんそくを行おこなっていた職員しょくいん、専門せんもん家かなど、書面しょめんを含ふくめると11人にんの証人しょうにん尋問じんもんが行おこなわれました。

また、遺族いぞくや大だいけがをした人ひとがそれぞれ証言しょうげんし、警戒けいかいレベルを引き上ひきあげなかった責任せきにんと、この噴火ふんか災害さいがいの検証けんしょうを求もとめてきました。

一方いっぽう、国くにと県けんは「噴火ふんか警戒けいかいレベルの据え置すえおきは総合そうごう的てきに検討けんとうした結果けっかで、法的ほうてきな違反いはんはない」などとして訴うったえを退しりぞけるよう求もとめてきました。

およそ5年間ねんかんに合あわせて23回かいの審理しんりが開ひらかれことし2月つきに結審けっしんしていました。

裁判さいばんの主おもな争点そうてん

主おもな争点そうてんは、御嶽山みたけさんの噴火ふんか警戒けいかいレベルを1に据え置すえおいた気象庁きしょうちょうの当時とうじの判断はんだんが適切てきせつだったかという点てんです。

原告げんこく側がわは、噴火ふんかの2週間しゅうかん余あまり前まえに気象庁きしょうちょうが引き上ひきあげ基準きじゅんの目安めやすの1つとしていた、一いち日にちの火山かざん性せい地震じしんの回数かいすうが50回かいを超こえたとき、もしくは、山やま体たいの膨張ぼうちょうを示しめすデータが観測かんそくされたと評価ひょうかできる噴火ふんかの2日にち前まえまでに警戒けいかいレベルを引き上ひきあげるべきだったと主張しゅちょうしています。

これに対にたいし国くに側がわは、火山かざん性せい地震じしんの回数かいすうはレベル判断はんだんの目安めやすの1つにすぎないほか、山やま体たいの膨張ぼうちょうを示しめす確実かくじつなデータはなく「判断はんだんは、ほかの観測かんそくデータも考慮こうりょして総合そうごう的てきに行いったもので、著いちじるしく合理ごうり性せいを欠かくものではない」として訴うったえを退しりぞけるよう求もとめています。

一方いっぽう、県けんに対にたいして原告げんこくは、故障こしょうした2つの地震じしん計けいを放置ほうちしていたのは違法いほうだと主張しゅちょうしています。

これに対にたいし県けんは、砂防さぼうのために設置せっちしていたもので火山かざん活動かつどうを観測かんそくする法的ほうてき義務ぎむがないとして訴うったえを退しりぞけるよう求もとめています。

専門せんもん家か「気象庁きしょうちょうは予測よそく技術ぎじゅつの限界げんかい伝つたえるべき」

今回こんかいの判決はんけつについて、災害さいがい情報じょうほうに詳くわしい東京とうきょう大学だいがく大学院だいがくいんの関谷せきや直也なおや准じゅん教授きょうじゅは、「観測かんそくした結果けっかを伝つたえることが気象庁きしょうちょうの一いち次じ的てきな役割やくわりだが、目的もくてきは、避難ひなんや防災ぼうさい活動かつどうにつなげて人ひとの命いのちを守まもることにある。その点てんで、火山かざん現象げんしょうすべてを予測よそくできるものではないと、気象庁きしょうちょうが十分じゅうぶんに周知しゅうちしていないことは問題もんだいで、今回こんかいの判決はんけつを踏ふまえ、限界げんかいがあることを伝つたえていくべきだ。技術ぎじゅつ的てきな限界げんかいを前提ぜんていに、人々ひとびとに予防よぼう的てきな行動こうどうをとってもらうことは防災ぼうさい上じょう重要じゅうようで、気象庁きしょうちょうは、自分じぶんたちの情報じょうほうを、どう避難ひなんに結び付むすびつけてもらうのか考かんがえて、受け手うけて側がわとコミュニケーションをとってほしい」と話はなしています。