日本新聞: 映画「国宝」 - Todaii: Easy Japanese

映画えいが「国宝こくほう」は架空かくうの歌舞伎かぶき役者やくしゃの半世紀はんせいきにわたる人生じんせいを描えがいた大作たいさくで、日本にほんの大衆文化たいしゅうぶんかから伝統芸能でんとうげいのうが徐々じょじょに姿すがたを消きしていく様子ようすを描えがき出だす。かつては全国的ぜんこくてきに注目ちゅうもくを集あつめた歌舞伎かぶきも、今いまでは高齢こうれいのグループによって演えんじられるニッチな存在そんざいへと変かわってしまった。歌舞伎かぶきは今いま、日本にほんで苦境くきょうに立たたされている。ユネスコ（国連教育科学文化機関こくれんきょういくかがくぶんかきかん）に登録とうろくされている400年ねんの歴史れきしを持もつ古典芸能こてんげいのうは観客かんきゃくの獲得かくとくに苦戦くせんしている。日本芸術文化振興会にほんげいじゅつぶんかしんこうかいのデータによると、国立劇場こくりつげきじょうの来場者数らいじょうしゃすうは大幅おおはばに減少げんしょうし、新型コロナウイルス感染症しんがたころなういるすかんせんしょうの流行前りゅうこうまえの水準すいじゅんに戻もどっていない。歌舞伎かぶきは、この芸術げいじゅつを志こころざす事実上じじつじょうの道みちである弟子でしを引ひきつけることにも失敗しっぱいしている。歴史的れきしてきには、名門めいもんの歌舞伎かぶき役者やくしゃの一族いちぞくが安定あんていした人材じんざいを輩出はいしゅつしてきたが、近年きんねんは国くにがその不足ふそくを補おぎなっている。国立劇場こくりつげきじょうの養成所ようせいじょは、現役げんえきの歌舞伎かぶき俳優はいゆうの3分ぶんの1を育そだててきたが、直近ちょっきんの2年ねん課程かていは応募者おうぼしゃがわずか2人にんにとどまった。そんな中なかで登場とうじょうしたのが映画えいが「国宝こくほう」だ。原作げんさくは吉田よしだ修一しゅういちさんのベストセラー小説しょうせつで、ドラマ「Pachinko　パチンコ」などで知しられる李り相日そうじつ監督かんとくがメガホンを取とった。主演しゅえんは吉沢よしざわ亮りょうさん。カンヌ国際映画祭こくさいえいがさいで初上映はつじょうえいされて以来いらい、観客かんきゃくの心こころをつかんできた。日本にほんでは公開こうかいから半年はんとしがたち、興行収入こうぎょうしゅうにゅうは173.7億円おくえんに達たっして邦画ほうがの実写作品じっしゃさくひんとして歴代れきだい最高興収さいこうこうしゅうとなった。すでに2019年ねん以降いこうで最もっとも好調こうちょうな国内興行こくないこうぎょうにも貢献こうけんしている。国際的こくさいてきにも勢いきおいが増ましている。作品さくひんは米べいアカデミー賞あかでみーしょうの国際長編映画賞部門こくさいちょうへんえいがしょうぶもんの日本代表作品にほんだいひょうさくひんとして注目ちゅうもくを集あつめており、最近さいきんでは米国べいこくの劇場げきじょうで賞レースしょうれーすの対象たいしょうとなる上映じょうえいが行おこなわれた。米国べいこくでは26年ねん初頭しょとうの公開こうかいを控ひかえている。報道ほうどうによれば、東京とうきょうの歌舞伎かぶき役者やくしゃの間あいだでも、この作品さくひんは話題わだいとなっている。だが、それ以上いじょうに、歌舞伎かぶきへの関心かんしんそのものを呼よび起おこしている可能性かのうせいがある。日本芸術文化振興会にほんげいじゅつぶんかしんこうかいの担当者たんとうしゃは、映画えいがの影響えいきょうを示しめす明確めいかくなデータはまだないものの、特とくに若わかい観客かんきゃくの間あいだで歌舞伎かぶきへの関心かんしんが高たかまっているように感かんじていると述のべた。映画えいがに出演しゅつえんして演技指導えんぎしどうも務つとめた四代目よだいめ中村なかむら鴈治郎がんじろうさんが李り監督かんとくとともに国立劇場こくりつげきじょうに登場とうじょうした際さいには、100席せきに対たいし2200人にんの応募おうぼがあったという。振興会しんこうかいは好機こうきをつかもうと、映画えいがの上映館じょうえいかんの外そとで公演こうえんのチラシを配布はいふし、SNSでキャンペーンを展開てんかい。歌舞伎かぶきの名作めいさくを初心者向しょしんしゃむけに手頃てごろな価格かかくの席せきで上演じょうえんし、新規観客しんきかんきゃくの誘致ゆうちを図はかっている。李り監督かんとくは通訳つうやくを通つうじ、自身じしんの作品さくひんが現象げんしょうを起おこし、それが日本にほんの歌舞伎かぶきに与あたえた影響えいきょうにとても驚おどろいたと語かたった。李り監督かんとくによれば、その背景はいけいには美うつくしいものへの普遍的ふへんてきな需要じゅようがあるという。監督かんとくは、それだけではなく、吉沢よしざわさんのような人々ひとびとが限界げんかいを超こえて何なにかを達成たっせいする姿すがたを見みることは大おおきな喜よろこびをもたらし、その美うつくしさは映画えいがと歌舞伎かぶきの両方りょうほうに共通きょうつうするものだと思おもうと語かたった。物語ものがたりは1960年代ねんだいに始はじまり、ヤクザの親分おやぶんの息子むすこで孤児こじの喜久雄きくおが歌舞伎かぶきの世界せかいで一流いちりゅうへとのぼりつめていく道のりみちのりを追おう。15歳さいでの入門にゅうもんは今いまでも遅おそいほうだ。喜久雄きくおは女形おんながたとして舞台ぶたいに立たつ。吉沢よしざわさんは、喜久雄きくおの成人期せいじんきを演えんじるために1年半ねんはんかけて準備じゅんびしたと語かたった。歌舞伎かぶきの歩あるき方かたである「すり足あし」を3～4カ月かげつほど練習れんしゅうして、体からだの動うごかし方かたや脚あしの筋肉きんにくの使つかい方かたを学まなんだ。それから、踊おどりの稽古けいこが始はじまったという。吉沢よしざわさんは、踊おどれば踊おどるほど、本物ほんものの歌舞伎かぶき役者やくしゃの水準すいじゅんに達たっするのがどれだけ難むずかしいかがわかったと語かたった。映画えいがの中なかでは、喜久雄きくおが部外者ぶがいしゃからスターへと順調じゅんちょうにのぼっていく一方いっぽうで、恋愛れんあいや周囲しゅういの嫉妬しっとが人生じんせいに影かげを落おとす。ただ、その摩擦まさつが舞台上ぶたいじょうの緊迫きんぱくしたドラマを覆おおい隠かくすことはほとんどない。脚本きゃくほんは歌舞伎かぶきの定番ていばんの演目えんもくを下敷したじきにし、恋こいの争あらそい、変身へんしん、心中しんじゅうといった筋立すじだてを登場人物とうじょうじんぶつの内面ないめんや物語ものがたりの進行しんこうに呼応こうおうさせる。監督かんとくと出演者しゅつえんしゃは、舞台ぶたいの演技えんぎを映画えいがとして撮影さつえいする難むずかしさにも向むき合あった。吉沢よしざわさんによれば、監督かんとくからは、美うつくしい踊おどりを見みせることが目的もくてきではなく、喜久雄きくおがどんな人間にんげんなのかを真しんに表現ひょうげんすることが重要じゅうようだと言いわれたという。ある瞬間しゅんかんの震ふるえる指ゆびの動うごきなど、喜久雄きくおの精神状態せいしんじょうたいを捉とらえること、そして喜久雄きくおが人生じんせい全すべてを集中しゅうちゅうさせ、それを舞台ぶたいで表現ひょうげんすることが何なによりも重要じゅうようだったという。栄光えいこうの陰かげり物語ものがたりは2014年ねんに幕まくを閉とじる。吉沢よしざわさんは年としを重かさね、喜久雄きくおは偉大いだいさを追おい求もとめる過程かていで自みずからがもたらした傷きずや痛いたみと向むき合あうことを余儀よぎなくされる。吉沢よしざわさんにとって、ただ年老としおいた人物じんぶつを演えんじるのとは事情じじょうが異ことなった。歌舞伎かぶきの女形おんながたを演えんじる者ものが年としを取とるのと、普通ふつうの男性だんせいが年としを取とるのとでは違ちがいがあるという。吉沢よしざわさんは、参考資料さんこうしりょうを見みると女形おんながたの歌舞伎かぶき役者やくしゃは若わかく美うつくしいままで、素晴すばらしい姿勢しせいを保たもっていたと語かたった。歌舞伎界かぶきかいの重鎮じゅうちんが今いまもなお舞台ぶたいに立たっている例れいは数多かずおおくある。今年ことしには、人間国宝にんげんこくほうの七代目ななだいめ尾上おのえ菊五郎きくごろうさんが息子むすこ、孫まごとともに襲名披露興行しゅうめいひろうこうぎょうに出演しゅつえんし、名門めいもんの未来みらいを確たしかなものとした。歌舞伎かぶきの永続的えいぞくてきな発展はってんには、より幅広はばひろい層そうの人々ひとびとの参加さんかが不可欠ふかけつだ。日本芸術文化振興会にほんげいじゅつぶんかしんこうかいによると、「国宝こくほう」公開こうかい以前いぜんから国内外こくないがいの観客かんきゃくの劇場げきじょうへの関心かんしんを高たかめるために、初心者向しょしんしゃむけや親子向おやこむけの教室きょうしつ、学生向がくせいむけなどの講座こうざ、30歳未満向さいみまんむけのチケット割引わりびき、英語えいごのイヤホンガイドなどを導入どうにゅうしてきた。国立劇場養成所こくりつげきじょうようせいじょの広報担当者こうほうたんとうしゃは、新人しんじんに関かんしては、歌舞伎かぶきが受うけている新あたらたな注目ちゅうもくをどう活用かつようするのが最善さいぜんかについてまだ検討中けんとうちゅうだと述のべた。ただ、当然とうぜんながら、多おおくの応募者おうぼしゃが「国宝こくほう」を見みていたことは認みとめた。

映画えいが「国宝こくほう」

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