テロで崩壊した世界貿易センタービルの跡地では現地時間の11日午前8時半すぎ、日本時間の11日午後9時半すぎから追悼式典が始まり、遺族のほかバイデン大統領とジル夫人、オバマ元大統領やクリントン元大統領などが出席しました。
式典では、4機の旅客機がそれぞれ世界貿易センタービルなどに激突した時間と2つのビルが崩壊した時間に合わせて6回、黙とうがささげられ、犠牲になった一人ひとりの名前の読み上げが続いています。
アメリカの政治経済の中枢が標的となった同時多発テロ事件は、世界に衝撃を与え、アメリカがアフガニスタンで軍事作戦に乗り出すきっかけにもなりました。
その後20年と長期化し、アメリカが大きな犠牲を払った「テロとの戦い」は、バイデン政権が8月、軍を撤退させて区切りをつけましたが、その判断についてはアメリカ国民の間でも評価が分かれ、議論が続いています。
南部ジョージア州から訪れた26歳の男性は「アメリカが事件で負った心の傷は癒えておらず、20年たった今も人々に痛みを呼び起こしています」と話していました。 西部ワシントン州から来たという元消防士の66歳の男性は「多くの仲間たちが命を落としたあの日から20年がたったとは信じられません。二度とあのような事件が起きないよう、記憶を若い世代に語り継いでいくことが大切です」と話していました。 退役軍人の44歳の女性は、テロ事件をきっかけに始まったアフガニスタンでの軍事作戦が、アメリカ軍の撤退で終わったとしたうえで「アメリカは20年もの長い間戦い、できるかぎりのことをしてきたとは思いますが、世界の治安を守ることはできませんでした」と話し、複雑な心境をのぞかせました。
南部ウエストバージニア州に住むドン・マーシャルさん(56)は20年前、国防総省への攻撃で妻のシェリーさん(当時37)を亡くしました。 2人はともに国防総省の情報機関の職員でしたが、ハイジャックされた旅客機がシェリーさんのオフィスに突っ込んだのです。 アメリカは事件から10年後の2011年、首謀者と断定したオサマ・ビンラディン容疑者を殺害しましたが、マーシャルさんは「ビンラディン容疑者の殺害は象徴的な意味で重要なことだったが、妻が戻ってくる訳ではなく、私にとってはむなしく感じた。アルカイダは今も存在しており、終わりのない戦いだ」と話し、世界各地でテロがなくならない現状に、複雑な心境を抱いてきました。 マーシャルさんは今月10日、事件から20年となるのを前に、地元の中学校の生徒たちにオンラインで講演しました。 この中では、同時多発テロ事件の現場で、多くの人が人種や宗教などの違いを超えて団結し助け合ったことを語りながら、「平和な世界を作るにはお互いを尊重し合うことが必要だ」と伝えました。 その一方で、アメリカがアフガニスタンへの軍事作戦に続いて2003年から始めたイラク戦争で、大量破壊兵器が見つからず、戦争の大義が問われたことを踏まえ「真実ではない情報に惑わされず正しい証拠にもとづいて判断することが大切だ」と子どもたちに呼びかけました。 マーシャルさんは「思いやりの心は誰もが持っている。お互いに手を差し伸べ、助け合うのが私たちの自然な本能だ。アルカイダのような悪事をはたらく者もいるが、私たちがそれに対抗して悪になる必要はない。軍事的な対応をとらなければならないときもあるが、アメリカ国民だけでなく、お互いの国を大切にし合うことも考えるべきだ」と話しています。
アメリカでは冷戦の終えんに伴って軍事費が大幅に削減されたことなどからテロが起こった2001年度まで4年間、財政黒字が続いていました。 しかし、事件を受けてアフガニスタンに対する軍事作戦に踏み切ったことで、再び、多額の軍事費を投じることになり、2002年度以降、財政赤字に陥りました。 その後、イラクに対する戦争に入り「2つの戦争」を進めるために軍事費の負担が一段と膨らみました。 さらに2008年のリーマンショックで経済対策として巨額の財政支出を余儀なくされたこととあいまって財政は2020年度までの19年間、一度も黒字にならない状況が続きました。 また、2021年度も新型コロナウイルスに対応した経済対策で支出が増えた影響が加わって3兆30億ドル、日本円で330兆円あまりの巨額の財政赤字に陥る見通しで、アメリカ経済の重荷となっています。 一方で、株価は、テロ事件のあともIT分野の技術革新や中央銀行による大規模な金融緩和策などを背景に堅調に推移し、リーマンショックや新型コロナウイルスの感染拡大といった危機を経験しながらも上昇を続けてきました。 ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価は8月16日の終値で史上最高値となる3万5625ドル40セントをつけ、テロ事件の前日の9605ドル51セントから3.7倍の水準に値上がりしました。 ただ、株価が上昇を続ける中で資産を持つ人と持たない人との間で経済格差が拡大していて、財政の立て直しとともにアメリカ経済が抱える大きな課題になっています。
そして、最近のアフガニスタン情勢に触れ、自由や民主主義は常に勝利するという決意を新たにしたと強調しました。 また、イギリスのエリザベス女王は、アメリカのバイデン大統領に宛てたメッセージを公表し、みずからが2010年に事件の跡地を訪れたことは強く記憶に残っていると振り返りました。 そして、事件の犠牲者や当時、現場で救助活動にあたった人々などに思いを寄せた上で、ともに前に進んでいこうという地域や人々の決意に敬意を表しました。 アメリカ同時多発テロ事件では、イギリス人67人が犠牲になっています。
世界貿易センタービル跡地に犠牲者を悼む人たち
国防総省勤務で妻を亡くした男性 教訓を語り継ぐ
アメリカ財政の20年は
イギリス ジョンソン首相「自由の信念揺るがず」