芥川あくたがわ賞しょうに砂川すながわ文ぶん次じさん 直木なおき賞しょうに今村いまむら翔しょう吾われさんと米澤よねざわ穂みのる信しんさん

大学だいがく卒業そつぎょう後ごに自衛じえい官かんになったあと小説しょうせつを書かき始はじめ、2016年ねんに「市街しがい戦せん」で文芸ぶんげい誌しの新人しんじん賞しょうを受賞じゅしょうしてデビューしました。

現在げんざいは東京とうきょう都内とないの区役所くやくしょに勤つとめながら創作そうさく活動かつどうを続つづけていて、芥川賞あくたがわしょうは今回こんかい、3回かい目めの候補こうほでの受賞じゅしょうとなりました。

受賞じゅしょう作さくの「ブラックボックス」は、新型しんがたコロナウイルスの感染かんせんが拡大かくだいしている世の中よのなかで、荷物にもつを自転車じてんしゃなどで運はこぶ「メッセンジャー」として働はたらいている男性だんせいが主人公しゅじんこうです。

これまで職しょくを転々てんてんとしてきた主人公しゅじんこうが日々ひび感かんじている他人たにんや世間せけんへの不満ふまん、そして、“なぜ、突発とっぱつ的てきに怒いかりの感情かんじょうを爆発ばくはつさせてしまうのか”という自身じしんへの問といかけが、独白どくはくのように淡々たんたんとした文章ぶんしょうで書かかれています。

ダンスのインストラクターや滋賀しが県けん守山もりやま市しの埋蔵まいぞう文化財ぶんかざいセンターの調査ちょうさ員いんなどを経へて、2017年ねんに「火ひ喰鳥とり 羽はね州しゅうぼろ鳶とび組ぐみ」でデビューしました。

直木なおき賞しょうは2018年ねんに発表はっぴょうした「童わらべの神かみ」、おととしの「じんかん」に続つづいて、3回かい目めの候補こうほでの受賞じゅしょうとなりました。

受賞じゅしょう作さくの「塞王おうの楯たて」は、戦国せんごく時代じだい、武将ぶしょうたちの活躍かつやくの陰かげで城しろの石垣いしがき作づくりに命いのちをかける職人しょくにん集団しゅうだん「穴太あのう衆しゅう」の姿すがたを描えがいた歴史れきし小説しょうせつで、幼おさない頃ころ、戦乱せんらんで家族かぞくを失うしない、「穴太あのう衆しゅう」に育そだてられた石垣いしがき職人しょくにん・匡介きょうすけが主人公しゅじんこうです。

豊臣とよとみ秀吉ひでよしの死後しご、戦乱せんらんの気配けはいが迫せまる中なか、大軍たいぐんに囲かこまれた大津おおつ城じょうを舞台ぶたいに絶対ぜったいに破やぶられない石垣いしがきこそが戦せんの無ない世よを作つくると考かんがえる匡介きょうすけと、どんな城しろでも落おとせる鉄砲てっぽうができれば、戦たたかは無なくなると信しんじる鉄砲てっぽう職人しょくにんの集団しゅうだん「国友くにとも衆しゅう」の頭目とうもくとの互たがいの信念しんねんをかけた対決たいけつを躍動やくどう感かんのある文章ぶんしょうで描き出えがきだしています。

大学生だいがくせいのころからウェブ上じょうに自分じぶんの作品さくひんを発表はっぴょうし、2001年ねんには「古典こてん部ぶ」に入部にゅうぶした高校生こうこうせいが日常にちじょうに秘ひめられた謎なぞに挑いどむ「氷菓ひょうか」が、角川かどかわ学園がくえん小説しょうせつ大賞たいしょうの奨励しょうれい賞しょうを受賞じゅしょうして作家さっかとしてデビューしました。

その後そのご、2010年ねんに発表はっぴょうした「折おれた竜骨りゅうこつ」で日本にっぽん推理すいり作家さっか協会きょうかい賞しょうを、2014年ねんに刊行かんこうされた短たん編集へんしゅうの「満願まんがん」で山本やまもと周五郎しゅうごろう賞しょうを受賞じゅしょうして、人気にんき作家さっかとしての地位ちいを確立かくりつしました。

直木なおき賞しょうについては「満願まんがん」と、その翌年よくねんに刊行かんこうされた「真実しんじつの10メートル手前てまえ」で候補こうほに選えらばれましたが受賞じゅしょうはならず、いわば“三さん度目どめの正直しょうじき”で今回こんかいの受賞じゅしょうとなりました。

受賞じゅしょう作さくの「黒くろ牢ろう城じょう」は、戦国せんごく時代じだい、織田おだ信長のぶながに背そむいて「有岡ありおか城じょう」に立たてこもった荒木あらき村重むらしげが、翻意ほんいを促うながすためにやってきた黒田くろだ官兵衛かんべえを牢獄ろうごくに幽閉ゆうへいしたという史実しじつを下敷したじきにした小説しょうせつです。

織田おだ方かたに包囲ほういされた城内きうちでは、密室みっしつ殺人さつじんをはじめとする不可解ふかかいな事件じけんが次々つぎつぎと起おきて、村重むらしげは牢ろうの中なかの官兵衛かんべえに対にたいして謎なぞ解ときを求もとめるようになり、その場ばでほのめかされたヒントを基もとに解決かいけつを図はかります。

村重むらしげと官兵衛かんべえの心理しんり戦せんが緻密ちみつに描えがかれるだけでなく、事件じけんの謎なぞ解ときという推理すいり小説しょうせつとしての要素ようそと、戦国せんごくの世よの価値かち観かんや慣習かんしゅうを盛り込もりこんだ歴史れきし小説しょうせつとしての要素ようそを併せ持あわせもつ作品さくひんとして話題わだいになりました。

メッセンジャーを主人公しゅじんこうとした受賞じゅしょう作さくについては「最初さいしょの着想ちゃくそうは好すきなものを詰め込つめこもうということで、自分じぶんが自転車じてんしゃ好すきということから始はじまりました。自分じぶんが小説しょうせつを書かく上うえで足たりないものを掘り下ほりさげたいという思おもいで書かいた作品さくひんであり、今いま作さくでは人ひとのことを掘り下ほりさげ、あまり観念かんねん的てきにならずに実地じっちでその人ひとから離はなれないようにということを意識いしきして書かきました」と説明せつめいしました。

元もと自衛じえい官かんという経歴けいれきや現在げんざいの公務員こうむいんという立場たちばが作品さくひんに反映はんえいされたかという質問しつもんに対にたいしては「書かいている時ときに過去かこに経験けいけんしている何なにかが出でていることもあるかもしれませんが、職業しょくぎょうや立場たちばにかかわらず、日々ひび目めの前まえの何なにかに向むかって行動こうどうしていくということが、ある種たねの身体しんたい性せいだと考かんがえています」と述のべました。

今後こんごに向むけては「賞しょうを取とるかどうかにかかわらず作品さくひんを書かくために集中しゅうちゅうしないといけないと思おもっています。これから変かわることもあるとは思おもうが、変かえてはいけないものは変かえることなく、このあとも引き続ひきつづき書かいていきたいです」と抱負ほうふを述のべました。

そして、これまでミステリーを書かいてきたことについて「ミステリーは非常ひじょうに大おおきな軸じく足あしで、その軸じく足あしがあったからこそ、どのような世界せかいのことでも小説しょうせつに書かいてこられた。これから先さき、自分じぶんがどういう小説しょうせつに出会であい、どういう小説しょうせつが浮かび上うかびあがるのかはわからないが、ミステリーが自分じぶんにとっての大事だいじな軸じく足あしであり、自分じぶんの柱はしらだということは変かわらない」と述のべたうえで、作家さっかとしての姿勢しせいについて「私わたしは岐阜ぎふ県けんの飛騨ひだの生うまれで、飛騨ひだは江戸えど時代じだいに幕府ばくふ領りょうだったが、どうして飛騨ひだが幕府ばくふ領りょうなのか、学校がっこうの先生せんせいに聞きいたり、自分じぶんで疑問ぎもんを深ふかめていった。自分じぶんの生うまれ育そだったところをもっと知しりたいという経験けいけんは自分じぶんが小説しょうせつを書かく最もっとも基礎きそ的てきな姿勢しせいになった」と話はなしました。

今後こんごについては「なんとかいい小説しょうせつを書かきたいと思おもってきた。本当ほんとうに自分じぶんが書かいていくべき小説しょうせつがどういうものか、漠ばくとしてわからないところがあるが、この賞しょうを、ここまでは間違まちがっていなかったというメッセージと受け止うけとめ、次つぎの仕事しごとを始はじめていきたい」と抱負ほうふを述のべました。

直木なおき賞しょうへの思おもいについて「野球やきゅう少年しょうねんが首位しゅい打者だしゃを取とりたいというような純粋じゅんすいな憧あこがれがあり、自分じぶんの始はじまりとなった池波いけなみ正太郎しょうたろう先生せんせいをはじめ、いろんな作家さっかが取とられている憧あこがれの賞しょうでした」と説明せつめいしたうえで「30歳さいになってから小説しょうせつを書かき始はじめる時ときに、それまで勤つとめていたダンススクールの子こどもたちに直木なおき賞しょうを取とると公言こうげんしていたので、うそがまことになって30歳さいになってからでも夢ゆめがかなうんだということを証明しょうめいできました。子こどもたちを裏切うらぎらずにすんだことに安堵あんどしています」と述のべました。

そして会見かいけんの最後さいごには「憧あこがれの人ひとである池波いけなみ正太郎しょうたろう先生せんせいと同おなじ37歳さいで受賞じゅしょうできたことは本当ほんとうにうれしく、感慨深かんがいぶかいです。これからも迷まよいながら進すすみ、面白おもしろい作品さくひんを届とどけていきますので、僕ぼくに飽あきなければどうぞおつきあい下ください」と今後こんごの抱負ほうふを述のべました。

そのうえで、砂川すなかわさんの作品さくひん「ブラックボックス」について「自転車じてんしゃ配達はいたつ員いんを主人公しゅじんこうに据すえ、格差かくさ社会しゃかいの中なかで底辺ていへんの方ほうで生いきる人物じんぶつを描えがいたある意味いみで、現代げんだいのプロレタリア文学ぶんがくという評価ひょうかもあった。古風こふうなリアリズムで書かかれていて、批判ひはん的てきな意見いけんとしては小説しょうせつ的てきな冒険ぼうけんや驚おどろきのようなものが少すくないという評価ひょうかも一方いっぽうではあったが、他方たほうで、古風こふうなリアリズムを前提ぜんていとした書かかれるべき切実せつじつさが間違まちがいなくにじみ出にじみでてくる小説しょうせつだった」と評価ひょうかしました。

そして、今後こんごについて「芥川賞あくたがわしょうはある意味いみ作家さっかにとっての登竜門とうりゅうもんとして大おおきなもので、環境かんきょうが変かわることがある。しかし、芥川あくたがわ賞しょうにこだわるものでもないし、芥川あくたがわ賞しょうのしっこくから逃のがれて砂川すなかわさんがおもしろいと思おもう小説しょうせつを書かいてほしい」と激励げきれいしました。

今村いまむら翔しょう吾われさんの「塞王おうの楯たて」については「熱量ねつりょうが高たかく、体力たいりょく気力きりょくの充実じゅうじつした力強ちからづよい作品さくひんで、職人しょくにんたちの戦せんという極きわめて独創どくそう的てきでとても楽たのしいエンターテインメント作さくだ」と評価ひょうかしました。

また、米澤よねざわ穂みのる信しんさんの「黒くろ牢ろう城じょう」については「戦国せんごく時代じだいの籠かご城じょう戦せんを背景はいけいにした良質りょうしつなミステリーで、極きわめてユニークな作品さくひんだ。選考せんこう委員いいんからも黒田くろだ官兵衛かんべえが極きわめて存在そんざい感かんがあり、作品さくひんが読よみやすい、セリフ回まわしがうまいなどの意見いけんが寄よせられた」と説明せつめいしました。

最後さいごに浅田あさださんは「2人にんともお忙おいそがしい方かただが、直木なおき賞しょうの受賞じゅしょうによってこれから落ち着おちついてすばらしい作品さくひんを書かいていかれると確信かくしんしています」と今後こんごの活躍かつやくに期待きたいを寄よせました。

米澤よねざわ穂みのる信しんさんは大学だいがくを卒業そつぎょうしてからおよそ2年間ねんかん、高山たかやま市しの書店しょてんでアルバイトをしていた時ときに作家さっかとしてデビューしました。

19日にち、受賞じゅしょう作品さくひんが発表はっぴょうされる直前ちょくぜん、当時とうじ、一緒いっしょにアルバイトをしていて現在げんざいも書店しょてんで働はたらいている林崎はやしざき尚子しょうこさんは当時とうじを振り返ふりかえり、米澤よねざわさんは勤務きんむ中ちゅうに店みせの客きゃくからサインを求もとめられてれながら応おうじたり、ミステリー作品さくひんのトリックが思おもい浮うかぶと、近ちかくにあった紙かみにメモをしたりしていたことが印象いんしょうに残のこっていると話はなしていました。

この書店しょてんでは17日にちから「黒くろ牢ろう城じょう」など米澤よねざわさんの作品さくひんを特設とくせつコーナーで紹介しょうかいしていましたが、19日にち午後ごご6時じごろ「黒くろ牢ろう城じょう」が直木なおき賞しょうに選えらばれたことが発表はっぴょうされると、店員てんいんからは「すごい」などと喜よろこびの声こえが上あがり、受賞じゅしょうを知しらせる紙かみの横断幕おうだんまくが特設とくせつコーナーに設置せっちされました。

林崎はやしざきさんは「受賞じゅしょうはとてもうれしいです。米澤よねざわさんとここで一緒いっしょに働はたらいていたことを自慢じまんしたいです」と話はなしていました。