JLPT N1 – Reading Exercise 32

#259
Furigana

人類じんるいは、「都市とし」という空間くうかんをつくったときに、それまでの部族ぶぞく的、あるいは村落そんらく的な社会しゃかい空間くうかんとは本質ほんしつ的にことなる社会しゃかい空間くうかん経験けいけんした。村落そんらくにおいては人々ひとびとは、ともき、ともんでいくものとして、たがいのこと、そのまたおや世代せだいのこと、祖先そせんのことまで熟知じゅくちしていることを前提ぜんていとした社会しゃかい的な関係かんけい形成けいせいする。「都市とし」の街頭がいとうにおいては、人々ひとびとは、たがいの匿名性とくめいせい前提ぜんていとして、らずの他人たにん同士どうし視線しせんによるコミュニケーションをわす。「都市とし」のなかの市場いちばでは相手あいて人柄ひとがら家族かぞくのことなどなにもらないことを前提ぜんていとした商品しょうひん売買ばいばい機能きのう的なむすびつきを形成けいせいする。さらにそれを恒常化こうじょうかした組織そしきも、村落そんらくひとひと関係かんけいとはちがって人々ひとびと分業ぶんぎょう最適さいてき状態じょうたい実現じつげんするための機能きのう的なつながりである。
都市とし社会しゃかい空間くうかん経験けいけんは、人類じんるいにとっての社会しゃかいのイメージを決定的けっていてきえたし、したがって自己じこのイメージもえた。人々ひとびとは、自分じぶん個人こじんという単位たんいとして意識いしきする機会きかいおおくなり、ざい一族いちぞく集団しゅうだんのものではなく、個人こじんのものと意識いしきされ、才能さいのう個々ここ人間にんげん属性ぞくせいとしてかんがえられるようになった。「都市とし」の人間にんげんあいだにも、うわさがうような口頭こうとうのコミュニケーションは発達はったつしたが、都市とし社会しゃかい大型化おおがたかし、複雑化ふくざつかするにしたがって、それだけでは情報じょうほう共有きょうゆう不安定性ふあんていせい拡大かくだいしてくる。マスメデイアは、だれでもアクセス可能かのうであることを原理げんりとする一方向いちほうこう公開型こうかいがたメデイアである。そのため、「都市型としがた」のコミュニケーションを補完ほかんし、あるいはそれを強化きょうかする機能きのうをになっている。
成田なりた康昭やすあき『メデイア空間くうかん文化論ぶんかろん―いくつものわたしとの遭遇そうぐう』による)

Vocabulary (39)
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1
都市の社会空間の特徴について、筆者はどのように述べているか。
1. 人々が他人に関心を持たず、社会的なつながりが希薄になっている。
2. 人々が互を知らないことを前提として、機能で結びついている。
3. 人々が相手との親密さより、機能的なつながりを優先している。
4. 人々が匿名性を前提としたコミュニケーションを好んでいる。
2
都市の社会空間の経験によって、人々の自己に対する意識はどう変わったか。
1. 集団のなかの一員という立場を意識するようになった。
2. 個人であるということをより強く自覚するようになった。
3. 自分が果たすべき義務をより明確に意識するようになった。
4. 自分の才能は社会のなかで生かすべきものだと考えるようになった。
3
都市社会におけるマスメディアについて、筆者はどのようにとらえているか。
1. 人々の間の情報共有を安定させている。
2. 人々の社会的な関係を強化している。
3. 情報の複雑化を抑制している。
4. 口頭のコミュニケーションの発達を促している。