JLPT N1 – Reading Exercise 106
20世紀初頭、世界の平均寿命はわずか40年程度であった。それが現在では70年を超えている。医学や衛生環境の進歩が人類の寿命を大きく伸ばしたのである。
私たちがバケツの中の水だと考えてみよう。水が蒸発せずにどんどん注ぎ足されれば、いずれあふれてしまうように、寿命が延びて人口が減らなければ、社会にさまざまな影響が及ぶのは当然である。「1」このまま寿命が伸びるのが止まればまだよいのだが、(中略)今もなお世界中で平均寿命は伸び続けている。2020年時点での世界の平均寿命の伸び率は年0.3%とされており、このまま進めば数十年でさらに数年延びることになる。この傾向を見直すためには、地球規模での「2」健康観や生活習慣の再考が急務である。それにはどのような課題があるのだろうか。
(中略)
一つは私たちの死生観の問題である。伝統的な考え方として「長寿は祝福されるべきもの」と見なす文化は世界中に多い。私たちの社会でもそうである。長寿を祝う気持ちは今も根強く、百歳を超える人が増えることを喜ばしいとする傾向がある。2010年に、百歳以上の高齢者が4万人を超えたとき、「3」その話題も、この価値観と関連している。その際、「長生きは素晴らしい」「家族の誇りだ」といった声が多く聞かれた。高齢者の増加に対する社会の期待や不安は非常に強いのである。もちろん、ここで論じているのは社会全体の価値観であり、個人の生き方の良し悪しを論じているのではない。
二つ目の問題は社会保障制度の問題である。特に高齢化と格差について考える必要がある。年金や医療制度が十分でない国では、老後の生活に不安を抱き、「4」市民は自助努力で備えようとする。また、貧困層では高齢者の家族内での役割が重要視され、長寿が家族の経済的支えとなる場合もある。
さまざまな格差が寿命や生活習慣に影響を与えるが、特にジェンダー格差は直接的な影響を持つ。国際機関がまとめた報告書では、女性の教育水準の向上が健康寿命の延伸につながると指摘されているが、これは重要な点である。女性の教育が進めば、健康に関する知識や選択肢が増え、「5」そのような社会では健康寿命がさらに延びる。また、女性の社会進出が進んでいる国では、生活習慣病の予防や健康管理が普及し、結果として平均寿命の上昇につながっているという。