日本新聞: 半年たっても息苦しさ「コロナで登山もできない別の体に」

半年はんとしたっても息苦いきぐるしさ「コロナで登山とざんもできない別べつの体からだに」

Jun 10, 2021 17:06 1

Furigana

「コロナでまったく別べつの体からだになってしまった」

そう話はなす70代だいの男性だんせいは北アルプスきたあるぷすの剱岳だけに登頂とうちょうするなど登山とざんが趣味しゅみで、体力たいりょくには自信じしんがありました。

しかし新型しんがたコロナウイルスに感染かんせんして入院にゅういん後ご、急激きゅうげきに症状しょうじょうは悪化あっか。一時いちじは死しも覚悟かくごしました。

感染かんせんから半年はんとし近ちかくたったいまも、息苦いきぐるしさが続つづいているという男性だんせい。

「コロナを甘あまく見みてはいけない」切実せつじつな訴うったえです。

熱ねつにうなされ息いきできないほどのせき

長野ながの県けんに住すむ70代だいの男性だんせいの感染かんせんが確認かくにんされたのは、去年きょねんの年の瀬としのせでした。

職場しょくばの同僚どうりょうが感染かんせんし、念ねんのため受うけた検査けんさで陽性ようせいとわかりました。

はじめは症状しょうじょうがなかったといいます。

自宅じたく療養りょうようを続つづけて4日にち目めの夜よる。

39度ど台だいの熱ねつが出でたため病院びょういんで検査けんさをすると、すでに肺炎はいえんを起おこしていて、そのまま入院にゅういんすることになりました。

男性だんせいを最もっとも苦くるしめたのは、高熱こうねつと激はげしいせきでした。

男性だんせい

「医師いしから1日にち3回かいまでと言いわれて解熱剤げねつざいを飲のむんですけど、3回かい飲のんでも『もっと飲のみたい』、『もっと飲のまないと体からだが持もたない』と熱ねつにうなされました。さらに息いきができないほどのせきが出でて、もしかしたらこのまま死しぬのかなと」

死しを覚悟かくご身の回みのまわりの整理せいりについて息子むすこに電話でんわした

「昔むかし会あった人ひとたちの顔かおが走馬灯そうまとうのように思い出おもいだされたんです」

意識いしきがもうろうとするなか、「このまま症状しょうじょうが悪化あっかした場合ばあい、人工じんこう呼吸こきゅう器きかエクモを使つかう意思いしはありますか」と医師いしから尋たずねられました。

死しを覚悟かくごした男性だんせいは息子むすこに電話でんわをしました。

自分じぶんが死しんだあとの身の回みのまわりの整理せいりについて伝つたえるためです。

男性だんせい

「持ち家もちいえの処理しょりの方法ほうほうとか子こどもたちも困こまるでしょうから知り合しりあいの司法しほう書士しょしに相談そうだんしてくれと。私わたしの職場しょくばに対にたいしてもどんな手続てつづきが必要ひつようかわからないと思おもったので、上司じょうしの名前なまえを教おしえて上司じょうしに従にしたがってやればいいからと伝つたえました」

肺はいに穴あなが空あいて空気くうきが抜ぬける病気びょうきに

男性だんせいは10日にちほど高熱こうねつや激はげしいせきが続つづき、肺はいに穴あなが空あいて空気くうきが抜ぬける「気胸ききょう（ききょう）」という病気びょうきになっていたことがわかりました。

毎年まいとし、健康けんこう診断しんだんを受うけていましたが、それまでは肺はいに病気びょうきがあると言いわれたことは一いち度どもなかったといいます。

長年ながねんタバコを吸すっていたこともあり、「肺気腫はいきしゅ」にもなったことを医師いしから告つげられました。

男性だんせい

「医師いしからは『退院たいいんしても自力じりきで呼吸こきゅうするのが難むずかしく機械きかいで酸素さんそを吸入きゅうにゅうする必要ひつようがあるかもしれない』と言いわれました。なんとか一命いちめいはとりとめましたが仕事しごとには復帰ふっきできないと思おもい、その後そのごの入院にゅういん生活せいかつは、職場しょくばに退職たいしょくの手続てつづきを聞きくなどして過すごしました」

退院たいいん後ごも息苦いきぐるしく頭あたまの中なかは「もや」のような状態じょうたいに

男性だんせいはもともと体力たいりょくには自信じしんがありました。

登山とざんが趣味しゅみで、おととしには北アルプスきたあるぷすの剱岳だけに登頂とうちょう。

日本にっぽん百ひゃく名山めいざんのうち、57の山やまを登のぼってきたといいます。

それなのに。

退院たいいん後ごは、自宅じたく前まえのおよそ100メートルの坂さかを上のぼるだけでも2回かいも休憩きゅうけいが必要ひつようで、深呼吸しんこきゅうしないと息苦いきぐるしくなるといいます。

大好だいすきだった登山とざんはあきらめざるをえませんでした。

さらにコロナに感染かんせんしたあとは常つねに頭あたまの中なかに「もや」がかかったような状態じょうたいで思考しこう能力のうりょくが大おおきく落おちてしまったとも感かんじています。

「幸さいわい『肺気腫はいきしゅ』は重症じゅうしょう化かせず自力じりきで呼吸こきゅうができていますが、息苦いきぐるしくて、長時間ちょうじかん話はなしたり運動うんどうしたりすることはできなくなりました。コロナになってまったく別べつの体からだになってしまったと感かんじています」

死しを意識いしきして考かんがえ変かわる「もっと生いきたい」

取材しゅざいの最後さいご、男性だんせいは5年ねん前まえに書かいたというエンディングノートを見みせてくれました。

当時とうじは、死しぬ前まえに苦くるしい思おもいはしたくないと考かんがえ、ノートには「延命えんめい治療ちりょうは望のぞまない」と記しるしていました。

でもコロナで死しを意識いしきした経験けいけんをへて、今いまでは考かんがえが変かわりました。

男性だんせい

「本気ほんきで死しを覚悟かくごしましたが幸さいわいにも戻もどってくることができたので、救すくわれた命いのちの限かぎり、もっと生いきたいと思おもうようになりました。伝つたえたいのは『コロナを甘あまく見みてはいけない』ということ。私わたしも自分じぶんは大丈夫だいじょうぶだという過信かしんがありましたが、本当ほんとうに怖こわい病気びょうきだということを改あらためて強つよく言いいたいです」