「大会を楽しみにされていた皆さんには大変申し訳ない」
東京都 小池知事
「断腸の思い」
8日夜、大会準備をけん引してきた2人からは、苦しい言葉がこぼれました。
国内の観客については6月、政府の基準に沿って、まん延防止等重点措置が解除された場合には、会場の収容定員の50%以内で上限1万人を原則とすることを決めました。 この時、緊急事態宣言や重点措置が出された場合は、「無観客も含めて対応する」としていましたが、組織委員会や政府は、あえて「含めて」という表現を使い、あくまで観客を入れることを目指して調整が進められていました。
▽東京などで重点措置が延長される場合は、1都3県は50%以内で上限5000人のセッションのみ観客を入れ、それを上回るセッションは、再抽せんが困難なので、無観客とする。あるいは、すべて無観客とする。 ▽緊急事態宣言の場合は、5000人まで入れることができるが自治体の判断による、など。 無観客も選択肢の1つではありましたが、あくまで観客を入れる案が基本線でした。
世の中には届きにくかった、期待する声。 橋本会長は自身も選手として、オリンピックに7回出場し、誰よりも、観客に力をもらい、観客にも力を与えるオリンピックの輝かしい面を、人一倍感じていました。だからこそ、観客を入れることにこだわりを持っていました。
大会関係者から、 「緊急事態宣言が出るのではないか」 「総理が揺れているらしい」 などの声が聞こえてきました。 組織委員会の幹部の1人は、 「6日の火曜くらいから『政府の間でどうも、動きがある』と耳に入ってきた」 と明かします。 そして、翌7日の水曜日。 政府は、東京都に4回目の緊急事態宣言を出す方針を固めました。これにより、組織委員会や政府の間では、1都3県の会場の観客は、本命視されていた5000人までとする案に対し、無観客とする案が急浮上したのです。 最後の決め手は何になるのか。 組織委員会や政府の関係者が口をそろえたのは、政府のイベント制限の基準に基づいたうえで、最後は会場を抱える自治体の判断、つまり、首長がどう決断するか、という点でした。
大会関係者の間では、 「小池知事が夜のぶら下がり会見で、都内会場の考え方を表明するのではないか」 という噂が一気に駆け巡りました。 夜8時半すぎ。 報道陣の前に姿を現した小池知事は、オリンピックの観客について言及しませんでした。
大会関係者の多くが、不安に駆られました。 その後、組織委員会の幹部の1人は取材に対し、 「あす、政府のイベント制限がどうなるのか。そして、知事の考えも聞かないといけない」 と答えました。 8日朝。 7日夜から8日朝にかけて、橋本会長に小池知事が無観客を示唆したらしいという話が永田町で流れました。 都内会場はすべて無観客となる公算が強まりました。 残る焦点は、神奈川、埼玉、千葉の周辺3県がどう判断するかでした。 3県は、まん延防止等重点措置が延長されることが決まっていました。従来から千葉や埼玉は、夜間に行われる競技で観客を入れることには否定的でした。それでも昼間の競技は、イベント制限に沿って5000人の観客を入れるのか。それともすべて無観客へと舵を切るのか。
5者会談が始まりました。まずはここで都内会場の無観客が決定しました。 3県を含む東京以外の地域の会場の観客は、5者会談に続いて開かれた関係する自治体の連絡協議会で結論が出されることになりました。 非公開で行われた協議会の様子を、出席した関係者の1人は、 「文字どおり『協議』をした会議だった」 としたうえで、3県の判断の背景をこう説明しました。 「3県でいうと、2つの県は昼間は観客を入れたがっていたが、1つの県が難しい、と。さらに、1都と3県でいうと、宣言と重点措置とは異なるがイベント制限は上限5000人で同じ。自分のところだけ別の動きはできない、みんながそろわないといけないと思っている。最後は、東京にそろえざるをえなくなったのではないか」 こうして、新型コロナによる史上初の大会の延期決定以来、東京オリンピックの最大の課題だった観客の扱いは、開催都市を含む競技会場の大部分で観客が不在になるという、極めて異例の形で決着したのです。 開幕は、2週間後に迫っています。
期待する声も…
急浮上した“無観客”案
“協議”で導かれた結論