とくに、去年からことしにかけては、新型コロナウイルスの影響で子どもが会えないうちに、親の認知症が進行してしまっているケースもあるということです。
推計を行った第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストは「みずからの意思での売却が難しくなってしまう認知症の高齢者の住宅は、いわば『空き家予備軍』とも言えます。すでに膨大な数に上っていますが、ますます増えると予想され、認知症になる前からの事前の対策が重要になってきます」と話しています。
広島市出身でアメリカで生活している河原美加さん(58)もその1人です。 河原さんの82歳の母親は、広島市内のマンションの部屋を所有し、1人で暮らしていましたが、おととし、転倒してけがをしたことなどをきっかけに介護施設で暮らすことになりました。
ところが、その間に新型コロナウイルスの感染が拡大し、介護施設で暮らす母親としばらく会うことができなくなりました。 去年12月にオンラインで面談したとき、母親は以前のような会話ができなくなっていたといいます。
その後、ことし4月に母親は認知症と診断されました。 そのため、所有者である母親の意思が確認できないとして、マンションの部屋の売却手続きは中断してしまっているということです。
整理を進める必要がありますが、新型コロナの影響で、それも中断したままになっています。
この不動産会社によりますと、所有者の認知症によって手続きが滞るケースは複数あるということです。 藤本社長は「コロナの影響で親に会いに行けない間に、空き家の売却に影響が出かねないケースが増えています」と話していました。
首都圏に住む60代の男性は、同じ県内にある妻の実家が3年前から空き家になっています。この家に住んでいた80代の義理の母親が認知症になり、介護施設に入居しているためです。 男性は空き家となっている妻の実家を管理するため、定期的に訪れていますが、去年4月、窓ガラスが割られているのを見つけました。
男性は「被害に気付いたときはひどいことをしてくれたな、困ったなという気持ちでした。周辺も空き家が多く、静かなところなので気付かれにくく狙われたのかもしれません」と話していました。
申し立てをすると、法律や福祉の専門家、それに親族などが家庭裁判所から「成年後見人」などに選任されます。「成年後見人」は本人の財産の管理などを行い、住宅の売買契約も代理で行うことができます。 しかし、手続きが煩雑だったり、継続して費用がかかったりすることから、最高裁判所によりますと、利用者の数は去年の時点でおよそ23万人にとどまっています。 この問題に詳しい司法書士の杉谷範子さんによりますと、住宅の所有者が認知症になっても、成年後見制度の利用に至らず、空き家のままになってしまうケースが多いということです。
千葉市に住む大関雅子さん(57)は、去年4月、80代の父親が1人で暮らす実家について親子で話し合い、父親の判断能力が低下した場合に備えて対策を取ることにしました。
「家族信託」は、健康なうちに財産の管理を家族に託す制度で、成年後見制度と比べて、信託を受けた人が不動産などの財産を幅広く運用できるのが特徴です。 また、「任意後見制度」は、同じく判断能力が低下した場合に備えて財産を管理してくれる「任意後見人」を、あらかじめ選んでおく制度です。判断能力が低下したあとで家庭裁判所から選ばれる成年後見人とは異なり、任意後見人は本人の意思で選べます。
大関さんは、空き家になった実家について、防犯面での心配もあることから売却を検討しています。事前に備えていたため、今後の手続きもスムーズに進めることができる見込みです。 大関さんは「まさか対策をとった1年後に介護施設にすぐ入ることになるとは思っていませんでした。『あと10年は1人で頑張って暮らしていくよ』って言っていた父だったのに、その日は突然きました。早くに対策を取っておいてよかったです」と話していました。
母の認知症が進行 実家売却が中断
犯罪被害や火災などのリスクも
親が元気なうちに話し合って
家族信託や任意後見制度の活用を