▽フィリピンのインターネットメディア「ラップラー」の代表でドゥテルテ政権を批判してきたマリア・レッサ氏と、
▽ロシアの新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長を務めプーチン政権に批判的な報道姿勢を貫いてきたドミトリー・ムラートフ氏が、選ばれました。
授賞理由について選考委員会は、「民主主義と報道の自由が逆境にあるなか、理想的な世界の実現のために立ち上がったすべてのジャーナリストの代表だ」としています。
そして、「ロシアでは、議会が多くの国民の声を代表しているわけではなく、メディアが少数派の意見を伝えてきた」と述べ、プーチン政権の与党が多くの国民から支持されているわけではないとして、抑圧された人たちの声をメディアが伝えていく意義を強調しました。
ノーベル平和賞の選考委員会は1935年、ドイツ人ジャーナリストのカール・フォンオシエツキー氏にノーベル平和賞を贈りました。 フォンオシエツキー氏は、第二次世界大戦が始まる前にナチス・ドイツが国際条約に反して再軍備を進めている動きを伝え、ナチスによって投獄されました。 受賞の知らせを聞いたヒトラーは激怒し、すべてのドイツ人にノーベル賞の受賞を禁じ、締めつけを強化しました。 今回のノーベル平和賞の授賞理由について、選考委員会は「民主主義と報道の自由が脅かされている世界において、理想のために立ち上がったジャーナリストたちだ」と説明していて、世界で再び報道の自由が危機的な状況にあるという認識を示しています。
ゴルバチョフ氏はこれまで「ノーバヤ・ガゼータ」への支援を行うなどその活動に深く関わっていて、ムラートフ氏について「勇敢で誠実なジャーナリストだ」とたたえたうえで、今の報道姿勢を貫くよう促しました。
このうち、フィリピン・ジャーナリスト全国連合は、ドゥテルテ政権によって報道が抑圧され、レッサ氏も名誉毀損の罪で有罪判決が言い渡されていることなどを踏まえ、「困難な状況の中でも報道の自由を守り抜いていることを称賛したい」とする声明を出しました。 そのうえで「基本的な自由と民主主義への攻撃が続けられている中でも、真実の追求をやめないフィリピンのすべてのジャーナリストに対し、この賞が光をもたらすことを願う」としています。 またフィリピン外国特派員協会は「フィリピンの記者はオンライン上での嫌がらせだけではなく、拘束や殺害などの暴力にさらされている。レッサ氏の受賞によりこうした窮状に国際的な注目が集まることを期待している」とする声明を出しました。
そのうえで世論を誤解させたり暴力をあおったりする情報が増えていると指摘し「自由で独立したジャーナリズムは、誤った情報と闘ううえでの最大の味方だ。ジャーナリストの役割を認識し 多様なメディアを支援する取り組みを強化しなければならない」と国際社会に呼びかけました。
この中でムラートフ氏は、プーチン政権に批判的な報道を続け、15年前、何者かに殺害された同僚のポリトコフスカヤ記者に触れて「ノーベル賞の選考委員会は、第三者を介して彼女が受賞できるよう工夫したのだろう」と述べ、今回の平和賞は亡くなった多くの同僚たちに授けられるべきものだという認識を示しました。 そして「ロシアでは、議会が多くの国民の声を代表しているわけではなく、メディアが少数派の意見を伝えてきた」と述べ、先月行われたロシアの議会選挙で圧勝したプーチン政権の与党が多くの国民から支持されているわけではないとして、抑圧された人たちの意見をメディアが伝える意義を訴えました。 一方、「ノーバヤ・ガゼータ」がロシア政府から外国のスパイを意味する「外国の代理人」に指定され、活動が制限される可能性について聞かれると「そうなれば記事の署名欄に『外国の代理人=ノーベル賞受賞者』と書いてみせる」と述べ、権力に屈しない姿勢を強調しました。
今回、新たに「外国の代理人」に指定されたのは、反体制派の指導者ナワリヌイ氏の毒殺未遂とされる事件にロシアの治安機関が関与したと伝えた、国際的な調査報道グループ、ベリングキャットや、イギリスの公共放送BBCの記者などです。 「外国の代理人」に指定されると、資金の収支について詳細に報告することが求められるなど当局の監視が強まり、ロシアのメディアは、スポンサーが資金の提供を停止して経営難に陥り、事実上、取材活動が制限されることになります。 ロシア法務省によりますと、2017年以降、今回の分もあわせて85の報道機関と記者が「外国の代理人」に指定されているということです。 プーチン政権は、批判的なメディアに対して「外国の代理人」に指定するなど圧力を強めていて、これに対し、「ノーバヤ・ガゼータ」などの独立系のメディアは、ことし8月、プーチン政権に対して、公開書簡を送り、報道の自由を保障するよう求めています。
同様の受賞はナチス時代にも
ゴルバチョフ氏も祝福
フィリピンのネットメディア「賞が報道に光を」
国連「報道の自由は不可欠」
ムラートフ氏「亡き同僚のため」
受賞日もロシア法務省は「外国スパイ」を指定