イランの核開発をめぐっては、アメリカ側が核兵器の保有を防ごうと核開発の制限を求めているのに対し、イラン側は核開発は発電などの平和利用が目的だとした上で、アメリカが科している制裁の解除を求めています。
こうした中、アメリカのトランプ政権のウィトコフ中東担当特使とイランのアラグチ外相が12日、中東のオマーンで協議を行いました。
イラン外務省によりますと、協議は、両国の交渉団が別々の部屋に待機し、仲介役のオマーンの外相を通して意見を伝える間接協議の形で2時間半余り行われ、建設的だったとしています。
また、間接協議のあと、ウィトコフ特使とアラグチ外相が数分間にわたって直接、対話したということで、両国の高官による直接対話は2018年に1期目のトランプ政権が核合意から離脱して以来、初めてとみられます。
一方、ホワイトハウスも声明を出し、「協議は非常に前向きで建設的なものだった。ウィトコフ特使がアラグチ外相に対し、トランプ大統領から可能であれば、対話と外交を通して両国の相違点を解決するよう指示を受けたことを強調した」としたうえで、1週間後の19日に再び協議することで合意したと明らかにしました。
ただ、これまでの主張には大きな隔たりがあり、今後の協議は難航も予想されます。
トランプ政権の姿勢に変化も
アメリカのトランプ大統領は、敵対するイランに一貫して圧力を強化してきました。
1期目の2018年、核合意の内容が不十分だとして一方的に離脱し、イランに対する制裁を再開しました。
さらに、2020年にはイラン国内で英雄視されていた軍事精鋭部隊・革命防衛隊のソレイマニ司令官を隣国のイラクで殺害しました。
これに対しイランは報復として、イラクにあるアメリカの軍事拠点を弾道ミサイルで攻撃し、一時は全面的な軍事衝突の懸念が高まりました。
トランプ大統領は2期目に入ってからもイランに対する「最大限の圧力」を掲げ、核開発や中東各地の武装組織への支援活動などを抑止するための制裁を強化しています。
その一方で、核開発をめぐるイランとの協議に意欲を示し「ディールができるかどうかみてみよう」と発言したり、イランの経済成長にもつながる協定を結びたい考えを示したりするなど、対話を迫る姿勢も見せるようになりました。
ただ、圧力をかけながら対話を迫るトランプ政権の姿勢に対し、イラン側は当初、猛反発し、最高指導者ハメネイ師が「アメリカとの協議は賢明ではない」と演説して協議に否定的な考えを示していました。
こうした中、トランプ大統領は3月、核開発をめぐり協議を呼びかける書簡をイランに送ったと明らかにしました。
その後、トランプ大統領から受け取った書簡を精査していたイラン側は一転、間接協議であれば応じられるという考えを明らかにし、両国の高官による協議が今月12日に中東のオマーンで行われることになりました。
トランプ大統領は、目指すべき合意について、従来の核合意と比べ「もっと強力なものになるだろう」と述べイランの核開発への制限をより強めたい考えを示していて、妥結に向けては険しい道のりが予想されます。
核合意をめぐるアメリカ・イランの動き
核合意は、イランが核開発を制限する見返りに、欧米などがイランに対する経済制裁を解除するとした国際的な取り決めです。
2015年、イランと、アメリカやロシアなど国連安全保障理事会の常任理事国にドイツを加えた関係6か国との間で結ばれました。
合意を主導したのはアメリカのオバマ政権と、イランで欧米との対話を掲げた穏健派のロウハニ政権で、外交努力によって「中東最大の火種」と言われた危機を防ぐことができたとして、国際社会も歓迎しました。
核合意によって、イランでは世界屈指の埋蔵量を誇る原油の輸出が再開されたほか、ビジネスチャンスの拡大をねらって世界各国の企業が激しい進出競争を繰り広げました。
しかし、2017年、アメリカで1期目のトランプ政権が発足したあと、状況が一変しました。
トランプ政権はイランに厳しい姿勢を示し、2018年には核合意には不備があるとして一方的に離脱した上で、イラン産原油の輸入やイランとの金融取引を禁止するなど制裁を再開したのです。
この影響でイランでは、外国企業の撤退が相次ぎ、世界銀行によりますと、前年の2017年に2.8%だった経済成長率は、2018年にはマイナス1.8%、2019年にはマイナス3.1%まで落ち込みました。
これを受けて、イランは対抗措置として核合意を破る形で核開発を加速させました。
ウランの濃縮度を核合意が定めた上限、3.67%をはるかに上回る60%まで高めるなどし、国際社会は核兵器の製造に近づいているとして懸念を強めました。
こうした中、2021年に発足したアメリカのバイデン政権は、核合意の立て直しに向けてイランの反米・保守強硬派のライシ政権などとの間でEU=ヨーロッパ連合などを仲介役とした間接的な協議を行いましたが、立場の隔たりは埋まらず、交渉は行き詰まっていました。