中国のスタートアップ企業、「ディープシーク」が低コストの生成AIを開発したことを受けて、投資家の間でアメリカの大手IT企業のAI分野での優位性が失われるという懸念が広がったためです。
なかでも、AI向けの半導体を提供している「エヌビディア」の株価が16%余り下落するなど、このところの株高をけん引してきた銘柄で売り注文が広がりました。
アメリカの経済チャンネル CNBCによりますと、エヌビディアの時価総額は6000億ドル近く、日本円にしておよそ92兆円減少したということで、1日あたりとしてはアメリカ史上、最も大きな額だとしています。
市場関係者は「ディープシークの登場によって今後、AI開発のコスト面の競争が一段と激しくなるという受け止めが広がった。これまで開発に巨額の資金を投じてきた大手IT各社が今週から始まる決算発表に合わせて、どのような説明をするかが今後の株価の動向を左右しそうだ」と話しています。
一方、外国為替市場では、ハイテク関連の株価の下落を受けてドルを売って比較的、安全な資産とされる円を買う動きが広がり、円相場は一時、1ドル=153円台後半まで円高ドル安が進みました。
「ディープシーク」開発費用 “メタの10分の1ほど”
アメリカメディアによりますと、「ディープシーク」は、中国の東部 浙江省杭州で2023年に設立されたスタートアップ企業です。
1月に発表されたモデルは、アメリカの「オープンAI」が手がける「ChatGPT」に匹敵するとも伝えられ、アメリカでは27日、アップルのアプリストアのランキングで、ChatGPTを上回り、1位となりました。
アメリカのIT大手が生成AIの開発に巨額の資金を投じるなか、注目されているのはその開発費用です。
有力紙ニューヨーク・タイムズは、中国の開発者が明らかにした開発費用は、およそ600万ドル、日本円で9億円余りだとした上で「IT大手・メタが最新AIの開発に投じた費用の10分の1ほどだ」と伝えています。
また、ウォール・ストリート・ジャーナルは「中国の新興企業は高性能なAIモデルを安く、最新の半導体を使わずに作り上げたとしている」と伝えています。
ディープシークの最新モデルについて、オープンAIのサム・アルトマンCEOは、27日、自身のXに「特に価格に見合った機能を提供しているという点で、印象的なモデルだ。私たちはもちろん、もっと優れたモデルを提供する。新しい競合相手が出てくるのは本当に刺激的だ」と投稿しました。
一方、株価が大幅に下落した半導体大手「エヌビディア」は、27日、NHKの取材に対し「優れたAIの進歩だ。広く利用可能なモデルや、アメリカの輸出規制に完全に準拠した方法で、どのように新しいモデルが作成できるかを示している」とコメントしました。
「ディープシーク」 回答しないケースも
「ディープシーク」の生成AIは、知りたい情報について、キーワードを入力したり、質問したりすると、対話形式で回答を表示します。
28日、NHKの記者が日本語で「万里の長城」と入力すると、長さは2万1000キロあまりなどと表示されたほか、「故宮」と入力すると、世界遺産に登録された明・清時代の宮殿で、面積はおよそ72万平方メートルなどと、詳しい回答が表示されました。
一方、1989年に民主化を求める学生らの運動が武力で鎮圧された「天安門事件」や、2014年に香港で民主的な選挙を求めた「雨傘運動」について尋ねると、中国語で「この質問は回答できません。話題を変えてください」などと表示されました。
また、習近平国家主席のほか、「毛沢東」「※トウ小平」といった中国の指導者の名前を入力しても、同じように「回答できない」と表示されました。
※「トウ」は「登」に「おおざと」
トランプ大統領「中国企業のAI アメリカの産業界にとって警鐘」
アメリカのトランプ大統領は27日、南部フロリダ州での演説の中で中国のスタートアップ企業「ディープシーク」に言及し、「『ディープシーク』という中国企業のAIの登場をアメリカの産業界にとっての警鐘として受け止め、競争に勝ち抜くため焦点をさらに絞っていく必要がある」と述べ、AI開発でのアメリカの競争力を高める必要があると強調しました。