1審は、トイレの使用制限は違法だと判断しましたが、2審は逆に違法ではないとしたため職員側が上告していました。
6月、最高裁で開かれた弁論で職員側は「女性として社会生活を送る原告の尊厳を深く傷つけた」として、国の対応は違法だと主張した一方、国側は「当時、トランスジェンダーの性自認に従ったトイレの自由な使用を認めるべきという社会的な理解は存在していなかった」と反論しました。
判決は、11日午後3時に言い渡される予定で、トイレの使用制限を認めた2審判決が見直される可能性があります。
最高裁が性的マイノリティーの人たちの職場環境に関する訴訟で判断を示すのは初めてで、判決は、ほかの公的機関や企業の対応などにも影響を与えるとみられます。
訴えを起こした経済産業省の50代の職員は、戸籍上は男性ですが、性同一性障害と診断されていることを2009年に上司に打ち明け、女性として働きたいと要望しました。 経済産業省は、ほかの職員にも説明したうえで、女性用の休憩室や更衣室の使用は認めましたが、女性用トイレに関しては、トラブルを避けるためとして執務室があるフロアから2階以上離れたところしか認めませんでした。 この対応を不服として、職員は処遇の改善を勧告するよう人事院に求めましたが、2015年、「要求を認めない」と判定されました。 裁判では、トイレの使用を制限した経済産業省の対応に問題はないとした人事院の判断が、不当かどうかが争われています。 1審は、「自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的な利益だ」と指摘したうえで、国の対応は違法だと判断し、人事院の判定を取り消しました。 一方、2審は、「経済産業省は、ほかの職員が持つ不安などもあわせて考慮し、適切な職場環境を構築する責任がある」と指摘して、職員側の主張を退けました。 最高裁の判決は、性的マイノリティーの人たちの職場環境に大きな影響を及ぼす可能性があります。 原告の職員は「当時の経済産業省の対応や、人事院の判定のいいかげんさを最高裁がしっかりと指摘してくれることを願っています」と話しています。
金沢大学と民間企業で作る「トイレのオールジェンダー利用に関する研究会」では、職場や公共施設のトイレ使用に関するインターネット調査を、去年11月、トランスジェンダー325人を含む、1325人を対象に行い、ことし6月に公表しました。 トランスジェンダーの人が自認する性別に沿ったトイレを使うことをどう思うかについて、トランスジェンダーではない人に尋ねたところ、 ◇「抵抗はない」「どちらかといえば抵抗はない」という回答が、 ▽「職場のトイレ」に関しては合わせて71.5% ▽「公共施設のトイレ」は66.9%で、 「抵抗がある」「どちらかといえば抵抗がある」と答えた人の割合を、大きく上回りました。 2017年に公表された調査結果に比べ、「職場のトイレ」に関しては、使用に理解を示す回答がおよそ6ポイント高く、研究会では「性自認に沿ったトイレの利用に理解が進んでいることがうかがえる」と分析しています。 一方、トランスジェンダーの人で、実際に利用しているトイレと利用したいトイレが一致していない割合は、 ▽「職場のトイレ」が42.2%と ▽「公共施設」の29.5%に比べて多くなっていて、 顔見知りがいる職場のほうが、周囲の目を気にして利用しづらい状況がうかがえるということです。 トランスジェンダーの人たちが、職場や公共施設で利用したいトイレとして回答したのは、 ◇「男女別」が、 ▽職場で52% ▽公共施設で55% ◇「性別問わず使えるトイレ」が、 ▽職場で46% ▽公共施設で42%と、 ほぼ半々で、研究会は「多様な選択肢を設けることが重要だ」としています。 調査を行った金沢大学の岩本健良准教授は「トランスジェンダーの人が自認する性別に沿ったトイレを使う場合、人事や上司の了解が必要となるケースがほとんどだが、職場でカミングアウトすることは難しく、できたとしても理解や許可がなかなか得られない実情もある。さまざまな人がいるからこそ、会社も社会全体も力を発揮できることを改めて考えてほしい」と話しています。
訴訟の経緯と争点
トイレ使用についての調査結果