日本新闻: 【詳しく】思っていたのと違う？誤配信に見るロシアの誤算

ロシアは、ウクライナ東部とうぶに軍事ぐんじ作戦さくせんの重点じゅうてんを置おく方針ほうしんを示しめしました。東部とうぶは親しんロシア派はの武装ぶそう勢力せいりょくが影響えいきょう力りょくを持もつ地域ちいきで、ウクライナ軍ぐんの激はげしい抵抗ていこうを前まえに、方針ほうしん転換てんかんを迫せまられたという見方みかたも出でています。

もともとロシアはどういうシナリオを描えがいていたのか？

その手てがかりになるのが、軍事ぐんじ侵攻しんこう開始かいしのわずか2日にち後ごに国営こくえいの通信つうしん社しゃが配信はいしんし、直後ちょくごに削除さくじょした記事きじです。

「ウクライナは戻もどってきた」と、まるで早々そうそうにロシアの勝利しょうりが決きまったかのような内容ないよう。「誤あやま配信はいしん」とみられる記事きじが伝つたえていた、ロシアが理想りそうとしていた筋書すじがきとは？

8時じちょうどの”予定よてい稿こう”？

国営こくえいの「ロシア通信つうしん」が、その記事きじを配信はいしんしたのは、現地げんち時間じかん2月つき26日にちの午前ごぜん8時じちょうど。ロシア軍ぐんがウクライナに侵攻しんこうを始はじめてから、2日にち後ごのことでした。

「ロシアによる進撃しんげきと新あらたな世界せかいの始はじまり」という壮大そうだいなタイトルの記事きじはすぐに削除さくじょされ、今いまは見みることができません。しかし多おおくの人ひとが記事きじを保存ほぞんしていたことからSNSで瞬時しゅんじに出回でまわります。

「ウクライナは戻もどってきた」と書かかれていますが、この時点じてんどころか、今いまもウクライナは抵抗ていこうを続つづけ、ロシアに屈服くっぷくしていません。

午前ごぜん8時じという切きりのいい時間じかんに配信はいしんされたこともあって、欧米おうべいメディアは、事前じぜんに準備じゅんびしていた「勝利しょうりを祝いわう予定よてい稿こう」が誤あやまって自動じどう配信はいしんされたのではないかという見立みたてを伝つたえました。

予定よてい稿こうとは、メディアがこれから起おこりうるニュースについて、あらかじめ用意よういしておく原稿げんこうのこと。

Aになるかもしれないし、Bになるかもしれない。この場合ばあいはAとB、両方りょうほうの原稿げんこうを用意よういします。例たとえば、裁判さいばんで有罪ゆうざいの場合ばあいと無罪むざいの場合ばあいなどです。

一方いっぽうで、間違まちがいなくAだけれどタイミングは分わからない、という予定よてい稿こうもあります。この場合ばあいは、日時にちじや場所ばしょなどを穴あなあきにした予定よてい稿こうを用意よういします。例たとえば、大雪おおゆきの影響えいきょうで止とまっていた列車れっしゃの運行うんこうが再開さいかいする場合ばあいはこのケースです。

いずれの場合ばあいであっても予定よてい稿こうが世よに出でるなんてあってはならないこと。

極きわめて重大じゅうだいなミスです。

誤あやま配信はいしんだったのか？

重要じゅうような局面きょくめんで、そんなミスが起おきるものでしょうか。権謀けんぼう術数じゅっすうの外交がいこうの世界せかい、誤あやま配信はいしんを装よそおって意図いと的てきに配信はいしんした可能かのう性せいはないのでしょうか。

ロシア政治せいじに詳くわしい法政ほうせい大学だいがくの溝口みぞぐち修平しゅうへい教授きょうじゅは「通信つうしん社しゃが意図いと的てきに配信はいしんするメリットはなく、考かんがえにくい。目的もくてきを達成たっせいしたあとにロシアの勝利しょうりを正当せいとう化かするねらいがあったのではないか」と、誤あやまって配信はいしんされたと考かんがえるのが妥当だとうだと指摘してきしています。

海外かいがいメディアも、おおむね誤あやま配信はいしんという見方みかたを伝つたえています。

ベラルーシの反はん政権せいけん派はのメディアとされるNEXTAは「ロシアのプロパガンダメディアの1つが午前ごぜん8時じちょうどに記事きじを配信はいしん。これは前まえもって計画けいかくされたものだった」「ロシアは2日間にちかんでウクライナを占領せんりょうする計画けいかくだったが、失敗しっぱいした」と伝つたえました。

イギリスの公共こうきょう放送ほうそうBBCは「ロシアの通信つうしん社しゃが勝利しょうりの論説ろんせつを削除さくじょ」という見出みだしで「プーチン大統領だいとうりょうがウクライナ問題もんだいを解決かいけつしたことを称賛しょうさんし『軍事ぐんじ行動こうどうによってウクライナがロシアに戻もどった』としている。これは著者ちょしゃが早期そうきの勝利しょうりを予想よそうしていたことに加くわえ、記事きじの掲載けいさいが時期じき尚早しょうそうだったことを示唆しさしている」と伝つたえています。

幻まぼろしの記事きじその内容ないようは？

削除さくじょされた記事きじは、ほかの一般いっぱん的てきな記事きじに比くらべて2倍ばい以上いじょうの長ながさでした。

「私わたしたちの目めの前まえに新あらたな世界せかいが生うまれている」という書き出かきだしのあと、「ウクライナでのロシア軍ぐんの作戦さくせんは新あらたな時代じだいをもたらした」と始はじまる文章ぶんしょうは、全編ぜんぺんにわたってロシアやプーチン大統領だいとうりょうをたたえる内容ないようになっています。

「ロシアは歴史れきし的てきな完全かんぜん性せいを取り戻とりもどしつつある。反はんロシアのウクライナはもう存在そんざいしない。ウクライナは戻もどってきた」と、ロシア軍ぐんが勝利しょうりしたことを前提ぜんていにしています。

そして「プーチン大統領だいとうりょうはウクライナ問題もんだいの解決かいけつを後世こうせいに残のこさないと決定けっていすることで歴史れきし的てきな責任せきにんを引き受ひきうけたと言いっても過言かごんではない」といった、“プーチン礼賛らいさん”のことばが並ならびます。

プーチン大統領だいとうりょうの思惑おもわくは？

溝口みぞぐち教授きょうじゅは、ロシア通信つうしんが「予定よてい稿こう」を準備じゅんびするにあたっては、ロシア大統領だいとうりょう府ふからある程度あるていどの情報じょうほう提供ていきょうを受うけていただろうと指摘してきします。そのうえで注目ちゅうもくしたのが、ロシア側がわの当初とうしょの名目めいもくと相反そうはんする論理ろんりが展開てんかいされている点てんです。

プーチン大統領だいとうりょうは、2月つき21日にち、ウクライナ東部とうぶの親しんロシア派はが事実じじつ上じょう支配しはいしている地域ちいきについて独立どくりつ国家こっかとして一方いっぽう的てきに承認しょうにんする大統領だいとうりょう令れいに署名しょめい。

国防省こくぼうしょうに対にたいして「平和へいわ維持いじ」を名目めいもくとして、軍ぐんを派遣はけんすることを指示しじしていました。

（法政大ほうせいだい学がく溝口みぞぐち修平しゅうへい教授きょうじゅ）

「ロシアが言いうところの『特別とくべつ軍事ぐんじ作戦さくせん』は、ウクライナで迫害はくがいされているロシア系けいの住民じゅうみんを保護ほごすることを目的もくてきとしているが、記事きじでは『戦争せんそうの結果けっか、ロシア人じんとウクライナ人じんとベラルーシ人じんの結び付むすびつきを取り戻とりもどした』と書かかれている。ロシア人じんやロシア民族みんぞくのための戦たたかいではなく、実態じったいとしては自分じぶんたちの勢力せいりょく圏けんをしっかりと確立かくりつするという帝国ていこく主義しゅぎ的てきなストーリーがここではつくられているように思おもえる」

この考え方かんがえかたは、2021年ねん7月つきにプーチン大統領だいとうりょうが発表はっぴょうした『ロシアとウクライナの歴史れきし的てきな一体いったい性せいについて』という論文ろんぶんの内容ないようとおおむね一致いっちすると言いいます。

（法政大ほうせいだい学がく溝口みぞぐち修平しゅうへい教授きょうじゅ）

「論文ろんぶんでプーチン大統領だいとうりょうは、ロシア人じんとベラルーシ人じん、そして記事きじでは小しょうロシアと書かかれているウクライナ人じんについて、それが1つの民族みんぞく的てきな一体いったい性せいを持もつと主張しゅちょうしている。記事きじにもそういう世界せかい観かんが反映はんえいされ、『その歴史れきし的てきな大だい事業じぎょうがようやく実現じつげんされた』と書かかれているのは、プーチン大統領だいとうりょうの思惑おもわくが反映はんえいされているとみることができる」

2日にち後ごには勝利しょうりと見込みこんでいた？

今回こんかいの記事きじの配信はいしんは、軍事ぐんじ侵攻しんこうが始はじまった2月つき24日にちの2日にち後ご。

「ロシア民族みんぞくの分断ぶんだんの時代じだいは終おわりを告つげようとしている」という内容ないようから、ロシア側がわは早期そうきの終結しゅうけつを想定そうていしていたのではないかと推察すいさつすることもできます。

ただ、現実げんじつに起おきていることは異ことなります。溝口みぞぐち教授きょうじゅは、ロシア側がわのシナリオ通どおりになっていないとすれば、今後こんごウクライナ情勢じょうせいはますます混迷こんめいを深ふかめるおそれがあると指摘してきします。

（法政大ほうせいだい学がく溝口みぞぐち修平しゅうへい教授きょうじゅ）

「ロシアは想定そうていどおりの戦果せんかが得えられずに苦戦くせんしている分ぶん、攻撃こうげきが無む差別さべつになっていると感かんじる。今いままで払はらったコストに見合みあう成果せいかが得えられていないとすると、今後こんごは損害そんがいを度外視どがいしして突き進つきすすみそうな怖こわさがある。こう着こうちゃく状態じょうたいを打開だかいするために、生物せいぶつ・化学かがく兵器へいきのようなもっと過激かげきな兵器へいきを使つかう可能かのう性せいもある」

執筆しっぴつした記事きじが反響はんきょうを呼よんで社会しゃかいを動うごかす一助いちじょになることは、記者きしゃ冥利みょうりに尽つきます。ただ今回こんかい、配信はいしん直後ちょくごに削除さくじょされた記事きじを書かいた記者きしゃは、その後そのごの反響はんきょうをどのような気持きもちで受け止うけとめているのでしょうか。