日本新聞: 北海道カート死亡事故浮かび上がった“法律の隙間”とは？

北海道ほっかいどうの森もり町まちで子こどもが乗のったカートがコース脇わきに突っ込つっこみ、2歳さいの男の子おとこのこが死亡しぼうした事故じこから1か月かげつ。

何なにが起おきたのか？対策たいさくはとられていたのか？

公道こうどうではない場所ばしょでの事故じこ。浮かび上うかびあがったのは「法律ほうりつの隙間すきま」でした。

カート突っ込つっこみ2歳児さいじ死亡しぼう

先月せんげつ18日にち、森町もりまちで開ひらかれた子こどもを対象たいしょうに開ひらかれたモータースポーツなどを体験たいけんできるイベントで、子こどもが乗のっていたカートがコース脇わきの見物けんぶつ客きゃく用ようのスペースに突っ込つっこみ、函館はこだて市しの2歳さいの男の子おとこのこが脳のう挫傷ざしょうで死亡しぼうしました。また、4歳さいの男の子おとこのこ2人にんがけがをしました。

事故じこ当時とうじの状況じょうきょうは?

警察けいさつによりますと、事故じこが起おきたコースは1周しゅうおよそ200メートルで、主催しゅさい者しゃによりますと、身長しんちょうが140センチ以上いじょうであれば誰だれでも乗車じょうしゃ体験たいけんができ、制限せいげん時間じかんのあいだコースを自由じゆうに周回しゅうかいできたということです。

事故じこを目撃もくげきした人ひとなどによりますと、事故じこは利用りよう者しゃが乗り降のりおりする場所ばしょの近ちかくで起おきたということで、事故じこを起おこしたカートは、本来ほんらいは右みぎに曲まがる場所ばしょをそのまま直進ちょくしんし、コース脇わきにいた人ひとたちに突っ込つっこんだということです。

事故じこが起おきた場所ばしょとコースとのあいだには、三角さんかくコーンなどでつくられた仕切しきりが設もうけられていましたが、防護ぼうごブロックは設置せっちされていなかったということです。

カートの貸し出かしだしとコースの設営せつえいを行おこなった千歳ちとせ市しにある「新しん千せん歳さいモーターランド」によりますと、事故じこを起おこしたカートは、最高さいこうで60キロほどの速度そくどを出だせる性能せいのうがあるということですが、このコースで出だせる速度そくどは最高さいこうで40キロほどだったのではないかとしています。

警察けいさつは業務ぎょうむ上じょう過失かしつ致死傷ちししょうの疑うたがいで捜査そうさし、イベントの主催しゅさい者しゃ側がわが、事故じこを予防よぼうするために、必要ひつような対策たいさくをとっていたかどうかを調しらべています。

これまでにわかったことは？

捜査そうさ関係かんけい者しゃによりますと、これまでに主催しゅさい者しゃ側がわからイベントの実施じっし計画けいかく書しょのほか、コースの設営せつえい業者ぎょうしゃとやり取やりとりしたメールなどの提出ていしゅつを受うけ、当日とうじつの運営うんえい状況じょうきょうなどについて従業じゅうぎょう員いんらに任意にんいで事情じじょうを聞きいているということです。

また、作成さくせいされた実施じっし計画けいかく書しょにはコースのおおまかな図面ずめんが書かかれていたものの、その長ながさや幅はばなどは具体ぐたい的てきに明記めいきされておらず、事前じぜんに十分じゅうぶんな下見したみをしないままコースを設営せつえいしていたことが主催しゅさい者しゃ側がわの関係かんけい者しゃへの取材しゅざいで新あらたに分わかりました。

キーワードは「法律ほうりつの隙間すきま」

一方いっぽうで、取材しゅざいした複数ふくすうの捜査そうさ関係かんけい者しゃは捜査そうさの難むずかしさを語かたっています。

何なにが捜査そうさを難むずかしくしているのか。「法律ほうりつの隙間すきま」というキーワードが浮かび上うかびあがってきました。

事故じこの現場げんばは公道こうどうではなく、ホテルの駐車ちゅうしゃ場じょう敷地しきち内ないに作つくられた仮設かせつのコースです。警察けいさつなどによりますと、カートは公道こうどう用ようでもないため、

1. 道路どうろ交通こうつう法ほうの速度そくど規制きせいが適用てきようされない

2. シートベルト着用ちゃくようなどの基準きじゅんない

また、今回こんかい設置せっちされたコースは、例たとえば遊園ゆうえん地ちのジェットコースターなどと異ことなり、

3. 建築けんちく基準きじゅん法ほうで安全あんぜん管理かんり基準きじゅんを定さだめる「遊戯ゆうぎ施設しせつ」にも該当がいとうしない

ということです。

こうした点てんについて、遊戯ゆうぎ施設しせつの安全あんぜん管理かんりに詳くわしい日本にっぽん大学だいがくの青木あおき義男よしお教授きょうじゅに話はなしを聞ききました。

Q.原因げんいんはどこにあった？

事故じこを起おこした車両しゃりょうはゴーカートと言いいながら、レース場じょうにあるようなばっちりとしたレースカートですから、スピードが出でていれば衝撃しょうげきを吸収きゅうしゅうできないバリアだと、容易よういに跳はね飛とばしてしまいます。

事故じこが起おきた地点ちてんでは防護ぼうごブロックのようなバリアが観客かんきゃくとの間まに設置せっちされていませんでした。代かわりに三角さんかくコーンとポールが置おかれていましたが、あくまで場所ばしょの区分くわけに使つかわれるもので、カートの衝突しょうとつを想定そうていしたバリアにはなりえませんでした。

また、カートを運転うんてんしていたのは小学生しょうがくせいですから、アクセルとブレーキの使い方つかいかた以外いがいに事前じぜんの安全あんぜん指導しどうが十分じゅうぶんだったのか、疑問ぎもんが残のこります。

Q.法律ほうりつの問題もんだいはどう見みる？

今回こんかいのケースというのは、ある意味いみ「法律ほうりつの隙間すきま」にあたります。

建築けんちく基準きじゅん法ほうの中なかでの「遊戯ゆうぎ施設しせつ」は、軌道きどう・レールといった走路そうろを勝手かってにそれないのが前提ぜんていで、動力どうりょくが付ついているものではスピードや回転かいてん数すうなどの規制きせいを踏ふまえて、安全あんぜん対策たいさくを議論ぎろんします。

今回こんかいのようなカートは、運転うんてん者しゃのハンドルさばき1つで、いかにでも走路そうろを変かえられるというのは自動車じどうしゃに近ちかく、従来じゅうらいの「遊戯ゆうぎ施設しせつ」の範疇はんちゅうからかなり外はずれたものになっていて、建築けんちく基準きじゅん法ほうとはなじみが悪わるいと思おもいます。

現行げんこうの法律ほうりつでは縛しばりきることができていないので、いわゆる乗り物のりものに近ちかい法令ほうれいの中なかで規制きせいをかける方ほうが適切てきせつではないかと思おもいます。

国会こっかいでも議論ぎろんに

今月こんげつ5日にち、岸田きしだ総理そうり大臣だいじんも衆議院しゅうぎいん本ほん会議かいぎで「法律ほうりつの隙間すきま」について答弁とうべんしています。

立憲りっけん民主党みんしゅとう西村にしむら智さとし奈美なみ議員ぎいん

「これまで何なんらの規制きせいを行おこなってこなかった責任せきにんをどうお考かんがえですか？また、再発さいはつ防止ぼうしのため何なんらかの法規ほうき制せいを検討けんとうすべきと考かんがえますがいかがでしょうか？」

岸田きしだ首相しゅしょう

「人ひとが死傷ししょうする事案じあんについては、それが過失かしつにより発生はっせいしたものであったとしても、従前じゅうぜんより刑法けいほうの業務ぎょうむ上じょう過失かしつ致死傷ちししょう罪ざい等とうによる処罰しょばつの対象たいしょうとすることにより、その予防よぼうを図はかってきたところであり、必要ひつような法ほう制度せいどが設もうけられているものと考かんがえております」

Q.この答弁とうべんをどう受け止うけとめたか？

岸田きしだ首相しゅしょうが言いわれたのでは「事後じごの安全あんぜん」「事後じごの処罰しょばつ」っていう話はなしになってしまいますけれども、やっぱり事前じぜんの規制きせいとセットでないとなかなかこういう事故じこを根絶ねだやしにすることはできません。

Q.事故じこを防ふせぐにはどうしたら？

法律ほうりつをこれから制定せいていするというようなことは、なかなか時間じかんもかかり、すぐには難むずかしいのかなと思おもいます。

ですから、すぐにできることとしては、やはり業界ぎょうかい団体だんたいの意識いしき改革かいかくです。

今回こんかいの事故じこはいわゆる業界ぎょうかい団体だんたいが主催しゅさいしているわけですから、国くにに言いわれたことや法ほうで決きまったことを守まもっていればいいやという受け身うけみの姿勢しせいではなく、現場げんばの人ひとたちが自力じりきで事故じこを起おこさないという意識いしきを持もたないといけません。

現場げんばが大変たいへん忙いそがしいことは重々じゅうじゅう承知しょうちしていますが、事故じこを防ふせぐ技術ぎじゅつが現場げんばで共有きょうゆうされ、継承けいしょうしなければ事故じこのリスクは高たかまります。

情報じょうほう交流こうりゅう会かいのように、業界ぎょうかい団体だんたいの人ひとたちが年としに一いち度どでもよいから集あつまって、そこで自分じぶんたちが意識いしきしているインシデントやヒヤリハット事例じれいを共有きょうゆうし、工夫くふうを考かんがえていくことで、国くに任まかせではない事故じこの抑制よくせいができてくると思おもいます。