日本新聞: 終戦後にも死者が…戦没者資料デジタル解析で見えた戦争の傷痕

故郷こきょうを離はなれ戦地せんちに赴おもむいた兵士へいしたちはいつどこで亡なくなったのか。

戦後せんご80年はちじゅうねんとなることし、兵士へいしが亡なくなった場所ばしょやその日付ひづけを、AIなどのデジタル技術ぎじゅつで解析かいせきしました。

そこから見みえてきたのは、戦争せんそうが終おわってからも続つづく悲惨ひさんな実態じったいでした。

福岡ふくおか市し中央ちゅうおう区くに、ある名簿めいぼが保管ほかんされています。
「福岡ふくおか県けん戦没せんぼつ者しゃ名簿めいぼ」。
今いまから30年さんじゅうねん前まえ、戦後せんご50年ごじゅうねんの節目ふしめに、福岡ふくおか県けん遺族いぞく連合れんごう会かいが福岡ふくおか出身しゅっしんやゆかりの戦没せんぼつ者しゃの記録きろくをとりまとめた資料しりょうです。

6万ろくまん4000人よんせんにんを超こえる兵士へいしたちがどこで亡なくなったのかや、亡なくなった日付ひづけ、そして遺族いぞくの名前なまえなどが記録きろくされています。

戦後せんご80年はちじゅうねんとなることし、NHKは福岡ふくおか市しに本社ほんしゃがある西日本にしにほん新聞しんぶん社しゃと連携れんけいし、貴重きちょうな資料しりょうのデジタル化かに取とり組くみました。
AIでデジタルデータ化か
今回こんかい私わたしたちは、遺族いぞく連合れんごう会かいから許可きょかを得えて、冊子さっし1ページぺーじ1ページぺーじをスキャンし、その画像がぞうデータをAIで解析かいせきしました。

個人こじん情報じょうほうに配慮はいりょしたうえで、ページぺーじに記載きさいされている兵士へいしたち一いち人にん一いち人にんの戦没せんぼつ地ちとその日時にちじを、データとして抽出ちゅうしゅつし、集計しゅうけい・分析ぶんせきが可能かのうなデジタルデータベースとして整理せいりしました。

抽出ちゅうしゅつできたのはおよそ6万ろくまん1000人せんにん分ぶんの記録きろく。彼かれらがいつ亡なくなったのか、集計しゅうけいし分析ぶんせきすると、兵士へいしたちの悲惨ひさんな最期さいごの痕跡こんせきが見みえてきました。
終戦しゅうせん前まえ1年いちねんに死者ししゃが集中しゅうちゅう
兵士へいしたちがいつ亡なくなったのかを月別つきべつにまとめたグラフです。
1944年せんきゅうひゃくよんじゅうよねんと1945年せんきゅうひゃくよんじゅうごねんに亡なくなった兵士へいしたちの数かずが急増きゅうぞう。全体ぜんたいの半数はんすう近ちかくにあたる2万にまん9000人きゅうせんにん余あまりが終戦しゅうせんまでの1年間いちねんかんに亡なくなっていたことが分わかりました。
激戦げきせん地ちで死者ししゃが急増きゅうぞう
いつ亡なくなったか、どこで亡なくなったのか、データベースから可視かし化かしました。

記載きさいされた「戦没せんぼつ地ち」の表記ひょうきをもとに、大おおきく7ななつに分類ぶんるいしたグラフがこちらです。
出征しゅっせいした兵士へいしたちは故郷こきょうから遠とおく離はなれたさまざまな場所ばしょで亡なくなっていました。

亡なくなった兵士へいしの数かずが最もっとも多おおかった1945年せんきゅうひゃくよんじゅうごねん3月さんがつは「フィリピン」「ビルマ（現在げんざいのミャンマー）」に加くわえて、日にち米べい両りょう軍ぐんで激はげしい戦闘せんとうが行おこなわれた「硫黄いおう島とう」が多おおくなっていました。

次ついで多おおかったのは、1945年せんきゅうひゃくよんじゅうごねん6月ろくがつ。「沖縄おきなわ」で亡なくなった人ひとたちが急増きゅうぞうしていました。

また、1944年せんきゅうひゃくよんじゅうよねん6月ろくがつから9月くがつにかけて「ビルマ」で亡なくなった人ひとが多おおくなっていました。

これは何なにを物語ものがたっているのか。専門せんもん家かとともに読よみ解ときました。
補給ほきゅうなく餓死がし・病死びょうしか
なぜ、1944年せんきゅうひゃくよんじゅうよねん6月ろくがつ以降いこうにビルマで亡なくなった兵士へいしが急増きゅうぞうしているのか。

軍事ぐんじ史しの専門せんもん家かで、明治めいじ大学だいがく平和へいわ教育きょういく登戸のぼりと研究所けんきゅうじょ資料しりょう館かんの館長かんちょうもつとめる山田やまだ朗あきら教授きょうじゅは、背景はいけいには「インパール作戦さくせん」があるといいます。
インパール作戦さくせんは、当時とうじビルマを占領せんりょうしていた旧きゅう日本にっぽん軍ぐんが隣国りんごくインド北東ほくとう部ぶの攻略こうりゃくを目指めざした作戦さくせんです。

補給ほきゅうを度外視どがいしした作戦さくせんは惨敗ざんぱいに終おわり、その後ごの撤退てったいでも大勢たいせいの兵士へいしが命いのちを落おとしました。
山田やまだ朗あきら教授きょうじゅ
「インパール作戦さくせんの失敗しっぱいで日本にっぽん側がわの防衛ぼうえいラインが総崩そうくずれになってしまった。作戦さくせん自体じたいは7月しちがつに中止ちゅうしになっているが、その後ごビルマに侵入しんにゅうしてきたイギリス軍ぐんとの戦闘せんとうが継続けいぞくしたことに加くわえて、日本にっぽん軍ぐんが撤退てったいするなかで、補給ほきゅうもなく、けがや病気びょうきになった兵士へいしのケアがうまくできずにどんどん犠牲ぎせいが増ふえていったことが読よみ取とれます」
山田やまだ教授きょうじゅは1944年せんきゅうひゃくよんじゅうよねん9月くがつのデータにも注目ちゅうもくしました。

特定とくていの日付ひづけに亡なくなった兵士へいしたちが突出とっしゅつして多おおくなっていて、あまり知しられていない過酷かこくな戦たたかいが関係かんけいしていることが推測すいそくされるとしています。

「拉孟たけし・騰あが越こし（らもう・とうえつ）の戦たたかい」。

ビルマでの劣勢れっせいが続つづく中なか、中国ちゅうごくの雲南うんなん省しょうにある国境こっきょう付近ふきんの2につの町まちで旧きゅう日本にっぽん軍ぐんの守備しゅび隊たいが”玉砕ぎょくさい”したとされる戦闘せんとうです。

この日ひ亡なくなった兵士へいしの記録きろくにも戦没せんぼつ地ちとして「拉孟たけし」「騰あが越えつ」と書かかれた人ひとがいました。
山田やまだ教授きょうじゅ
「救援きゅうえんがないなかで後退こうたいもできず、部隊ぶたいが全滅ぜんめつしてしまったことで、その時点じてんに犠牲ぎせい者しゃが急激きゅうげきに増ふえていると考かんがえられます。同じように1945年せんきゅうひゃくよんじゅうごねん3月さんがつの硫黄いおう島とうでも、逃にげ場ばがない島しまという環境かんきょうの中なかで旧きゅう日本にっぽん軍ぐんが玉砕ぎょくさいしていて、グラフでもその時期じきに死者ししゃが急増きゅうぞうしていると考かんがえられます」
終戦しゅうせん後ごも続つづく犠牲ぎせい
さらに、終戦しゅうせんを告つげる昭和しょうわ天皇てんのうの玉音ぎょくおん放送ほうそうがあった1945年せんきゅうひゃくよんじゅうごねん8月はちがつ15日じゅうごにちの後のちにも記録きろくされていて、この日ひ以降いこう、その年としの年末ねんまつまでに3000人さんぜんにん近ちかくが亡なくなっていました。

場所ばしょをみると「満州まんしゅう」や「中国ちゅうごく」「ソ連（それん）」などの記録きろくが多おおくなっていました。

山田やまだ朗あきら教授きょうじゅ
「グラフで見みてもかなりの兵士へいしたちが”戦後せんご”に亡なくなっています。8月はちがつ15日じゅうごにちに戦争せんそうが終おわりましたが、その後ごも犠牲ぎせい者しゃが出でていないということではありません。私わたしたちはどうしても見落みおとしてしまうことがあるので、それを含ふくめてきちんと語かたり継ついでいかないといけない」
遺族いぞくの思おもいは
データから見みえてきた悲惨ひさんな戦たたかいの痕跡こんせき。遺族いぞくはどのように受うけ止とめるのか。
戦没せんぼつ者しゃの遺族いぞくの1人ひとり、福岡ふくおか県けんの荒川あらかわ恒ひさし光ひかりさん（86はちじゅうろく）。

父親ちちおやの一いち登とうさんは激戦げきせん地ちとなった沖縄おきなわで通信つうしん兵へいとして従軍じゅうぐんし、「沖縄県民斯ク戦ヘリおきなわけんみんかくせんへり」と沖縄おきなわ戦せんの惨状さんじょうを記しるした司令しれい官かんの電文でんぶんを打電だでんしたとされています。

名簿めいぼには一いち登とうさんの名前なまえとともに「沖縄おきなわ海軍かいぐん司令しれい部ぶ」が戦没せんぼつ地ちとして記録きろくされています。

荒川あらかわ恒ひさし光ひかりさん
「平和へいわを考かんがえるうえで、あの戦争せんそうのなかで最初さいしょはこれくらいの人ひとが亡なくなって、終盤しゅうばんになって負まけるときにはこんなに多おおくの人ひとが亡なくなったということがデータで言いえることは大事だいじだと思おもいます」
荒川あらかわさんは沖縄おきなわで戦没せんぼつ者しゃの遺骨いこつ収集しゅうしゅうなどに携たずさわっていて、当時とうじを知しる人ひとが減へることで戦争せんそうの記憶きおくが失うしなわれていくことに危機きき感かんを抱だいているといいます。

戦争せんそうの記録きろくをデジタル化かすることは、次世代じせだいに記憶きおくをつなげる新あらたな手段しゅだんになると感かんじています。
荒川あらかわ恒ひさし光ひかりさん
「データを残のこすこと自体じたいは大事だいじで、あの当時とうじどうだったのか将来しょうらいの方々かたがたが歴史れきしを振ふり返かえってみる場合ばあいに参考さんこうになると思おもう」
各地かくちで取とり組くみ広ひろがる
今回こんかい、NHKが共同きょうどうでデジタルデータ化かした戦没せんぼつ者しゃ名簿めいぼについては、今月こんげつ中旬ちゅうじゅんにも西日本にしにほん新聞しんぶん社しゃの紙面しめんやアプリ、ウェブサイトで詳くわしい分析ぶんせき結果けっかを公開こうかい予定よていです。

また、秋田あきた県けんの「秋田魁新報社あきたさきがけしんぽうしゃ」でも、秋田あきた県けん出身しゅっしんの兵士へいしたちの亡なくなった場所ばしょや推移すいいを特設とくせつサイトで公開こうかいしています。

戦争せんそう資料しりょうの保存ほぞんに取とり組くんできた山田やまだ教授きょうじゅも、戦没せんぼつ者しゃなど戦争せんそうの記録きろくをデジタル化かすることは今後こんごも進すすめていく必要ひつようがあると指摘してきしています。

山田やまだ教授きょうじゅ
「戦後せんごこれだけ時間じかんが経たってしまうと、資料しりょう自体じたいが失うしなわれてしまうということも考かんがえられます。戦争せんそうは個人こじんが行おこなったものではなく、まさに国家こっかの選択せんたくとして行おこなったものであるわけなので、その後ご始末しまつということも含ふくめて、きちんと国くにが記録きろくを保存ほぞん・継承けいしょうしていくことが大事だいじだと考かんがえます」
（機動きどう展開てんかいプロジェクト・斉藤さいとう直哉なおや / 福岡ふくおか局きょく・小島こじま萌もえ衣ころも）

終戦しゅうせん後ごにも死者ししゃが…戦没せんぼつ者しゃ資料しりょうデジタル解析かいせきで見みえた戦争せんそうの傷痕きずあと

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