この中で自民党は「懸念された自動車の追加関税は課されないことが確認され、さらなる交渉による関税撤廃についても協定上、明記されている。農業分野もアメリカ産牛肉と豚肉の関税削減はTPP協定と同じ水準であり、わが国の国益はしっかりと守られ、増進した」と述べました。
一方、立憲民主党などの会派は「自動車、自動車部品の関税撤廃を勝ち取ることができず、今後の交渉でも関税撤廃は確約されていない。日米貿易協定は日米双方にとってウィンウィンの成果物ではなく、日本にとって完全敗北の内容であることは明らかだ」と批判しました。
このあと採決の結果、国会承認を求める議案は自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・承認されました。
またインターネットを使った商取引のルールを定めた日米デジタル貿易協定もあわせて可決・承認されました。
政府は近く、協定の締結を閣議決定し、アメリカに通知する方針です。
日米貿易協定は両政府が合意する日に発効すると定められていて、日米両政府は来年1月1日を協定の発効日とする方向で調整しています。
農産品と工業品の物品関税に関する日米2国間の協定
日米の新たな貿易協定は農産品と工業品の物品関税に関する日米2国間の協定です。
このうち農産品の分野で日本は、アメリカが求める市場開放にTPP=環太平洋パートナーシップ協定の水準を超えない範囲で応じます。
牛肉は現在38.5%の関税を2033年度に9%まで引き下げる一方、国内の畜産農家への影響を抑えるため、一定の数量を超えれば関税を緊急的に引き上げる「セーフガード」と呼ばれる措置が導入されます。
豚肉は価格の安い肉にかけている1キロ当たり最大482円の関税を2027年度に50円に、価格の高い肉にかけている4.3%の関税は2027年度に撤廃します。
小麦については国が一括して輸入し、国内の製粉業者などに販売する「国家貿易」の仕組みは維持したうえで、アメリカに対し、最大で15万トンの輸入枠を新たに設けます。
これらはいずれもTPPの交渉時に日本がアメリカと合意していた内容と同じ水準です。
一方、日本が最も重要な品目として交渉に臨んだコメは1キロ当たり341円という高い関税は維持したうえで、TPP交渉で日本がアメリカに設定した年間最大7万トンの無関税の輸入枠は設けないことになりました。
また乳製品もバターや脱脂粉乳などの低関税の輸入枠は設けないとしていて、いずれもアメリカ側が譲歩した形です。
さらにアメリカへの輸出の分野では、牛肉は低い関税が適用される枠が実質的に拡大することになり、日本産牛肉の輸出の増加が期待されます。
一方、工業品の輸出をめぐっては主要な輸出品である自動車と関連部品の扱いが継続協議となり、国会審議ではこの分野の交渉内容が論点となりました。
政府は協定の付属書に、「関税撤廃に関してさらに交渉する」と記載されたことなどを踏まえ、将来的な関税撤廃は合意事項であり、今後、どのくらいの期間をかけて撤廃するかについてアメリカと交渉していくと説明しています。
これに対し、野党側は自動車関税をめぐる交渉の継続を確認したにすぎず、関税撤廃は確約されたものではないなどと批判しました。
また政府はアメリカが通商拡大法232条に基づく日本車への追加関税や、日本からの自動車の輸出を制限する数量規制を発動しないことを首脳間や閣僚間で確認したとしていますが、野党側は「口約束にすぎない」などと追及しました。
貿易協定の今後は?
日米貿易協定は両国が国内手続きを完了したことを通知した日から30日後、もしくは両国が合意する日に発効すると定められていて、日米両政府は来年1月1日を協定の発効日とする方向で調整しています。
協定の発効後はことし9月の日米共同声明に沿って、発効日から4か月以内に次の交渉分野をめぐる協議を行うとされています。
次の交渉分野をめぐっては、野党側が農産品やサービスなどの分野でアメリカからさらなる譲歩を求められるのではないかと指摘しているのに対し、政府は日本側が交渉対象として想定しているのは継続協議となった自動車分野のみだと説明しています。
一方、共同声明の記載内容が「日米両国は交渉を開始する『意図』である」と断定的な書き方を避けていることなどから、実際に交渉が始まるかどうかは不透明だという指摘も出ています。