国内では、東日本大震災以降、地域おこしや、新たな商品開発などさまざまなプロジェクトで活用されるようになり、新型コロナの影響で資金繰りに苦しむ企業が増える中、さらに普及が進んでいます。
中でも最近広がっているのが「購入型」と呼ばれるクラウドファンディングです。
「購入型」は、支援をしてもらった見返りに、プロジェクトで開発した商品やサービスなどを提供するもので、元手が少ない個人やベンチャー企業などが大きなリスクを負わずに資金を集めることができます。
また、お金を出す人にとっては、買い物に近い感覚で、まだ市場に流通していない商品の開発などを支援でき、魅力的なリターンも期待できます。
業界団体の「日本クラウドファンディング協会」によりますと、購入型クラウドファンディングの市場規模は、2019年は169億円、2020年には501億円と、急速に拡大しています。
国民生活センターによりますと、ことしに入って先月までの半年間に、クラウドファンディングをめぐる相談や苦情は少なくとも120件寄せられていますが、その半数以上は、 ▼返礼品が期日どおりに届かないとか、 ▼発送の延期が繰り返される、 ▼想定したものと違う返礼品が届いたなど、 「購入型」をめぐる相談や苦情だということです。 プロジェクト自体に問題があるケースに加えて、購入型クラウドファンディングと一般的な売買の違いについて説明が不足していたり、支援者側の理解が不十分だったりするケースがみられるとしています。 国民生活センターは今月、ホームページに購入型クラウドファンディングのトラブル事例などを紹介する情報を新たに掲載し、支援を行う前にプロジェクトの説明や、運営会社の規約を確認すること、困ったときには、各消費生活センターに相談することなどを呼びかけています。
投稿を寄せた千葉県の30代の男性は、2020年の夏、ペット型のAIロボットの開発を支援する購入型のクラウドファンディングに4万円余りを振り込みました。 AIロボットは、東京のベンチャー企業が開発を進めていて、見た目がふわふわしていてかわいらしく「癒し系」のデザインです。 人の接し方によってロボットの「性格」まで変わっていくといい、男性は、家族を亡くしたばかりで気落ちしていた自分の母にプレゼントしようと考えていました。 当初は去年の春ごろ手元に届くはずだったというAIロボット。 しかし「新型コロナの影響による部品調達の遅れ」や「海外の都市のロックダウンの影響」などを理由に、これまで5度にわたって発送が延期されました。 企業側はたびたびメールで「開発は最終段階にある」などと伝えてきましたが、月に1回あるはずの情報の更新が無いときもあり、男性は不安を感じるようになりました。
記者が確認したところ、クラウドファンディングのウェブサイトには、ほかにも、お金を払ったという人からロボットが届かないことへの怒りや、返金を求める声などが書き込まれていました。 男性は「量産されている商品を買うわけではないので、必ず届く保証がないのは理解していますが、お金を出した側としては、やはり来てほしいと思う」と話していました。
山中代表によりますと、プロジェクトのAIロボットは、去年行われた世界最大規模の技術の見本市で、高い評価を受けました。 ただ、市場での競争力がまだ未知数で、ベンチャー企業が金融機関から融資を受けるには「ハードルが高い」として、クラウドファンディングによる資金調達で開発を進めることを選択したということです。 これまでに、およそ1800人の支援者から9000万円ほどの資金が集まっているということです。 世界的な半導体不足や、コロナ禍による製造や流通への影響、さらに品質を検証する最終的な検査でも改善点が見つかったことから、遅れていた発送のスケジュールをさらに後ろ倒しにして、現在はことし9月中の出荷を目指し作業を進めているということです。 山中代表はスケジュールの遅れや、その後の対応をめぐり「支援者への説明が不足していた」としたうえで「クラウドファンディングは不確実な部分もはらむもので、プロジェクトの成り立ちや仕組みをもっと伝える努力をすべきだったと反省しているし、スケジュールを守ることも期待されていたと思う。発送が遅れていることはとても申し訳なく、少しでも早く支援者の元にロボットをお届けできるよう動いている」と話しています。
一方、法規制の在り方などについては「クラウドファンディング自体は社会にとって大切なもので、あまり規制を加えるのは望ましくなく、ある程度ルールやガイドラインを作りながら、自由に取り引きできる場を維持していくのがよいと思う」と話しています。
国内大手のプラットフォーマー、東京 渋谷区の「CAMPFIRE」にも「購入型」のプロジェクトの返礼品が届かない、不具合があるなどといった支援者からの問い合わせが寄せられています。
また、支援者の元に返礼品が届かなかった場合、支援金の8割を上限に補償を行う独自の取り組みも行っているということです。
プロジェクトの実施者は、商品を引き渡す時期などをインターネットのホームページなどで明示する義務を負い、著しく事実と異なる広告を行うことなどは禁止されています。 一方、購入型クラウドファンディングの場合、すでに完成している商品を販売する一般的な取り引きなどとは異なり、プロジェクトの成否という、不確実性を伴っています。 プロジェクトの内容そのものを規制するような法令はなく、オンラインの商取引に詳しい木村康紀弁護士は「プロジェクトが失敗する可能性があるなら、それを必ず明示することを求めるようなルール作りが必要ではないか」と指摘しています。
AIロボット開発を支援した人 発送延期が何度も繰り返され…
開発の企業“支援者にもっと伝える努力すべきだった”
オンライン商取引に詳しい弁護士「コミュニケーションが重要」
トラブルを未然に防ぎ 信頼性高めるための取り組み
購入型クラウドファンディングと“法規制”