「認知にんち症しょう行方ゆくえ不明ふめい者しゃ」の捜索そうさく事業じぎょう 自治体じちたいの6割わり以上いじょうが周知しゅうちに課題かだい

認知にんち症しょうやその疑うたがいがあり、警察けいさつに行方ゆくえ不明ふめい届とどけが出だされた人ひとはおととし、延のべ1万まん8709人にんと過去かこ最多さいたとなっています。

このうち451人にんが亡なくなり、284人にんが所在しょざい不明ふめいになり、深刻しんこくなケースが相次あいついでいます。

国くには、認知にんち症しょう行方ゆくえ不明ふめい者しゃへの対策たいさくとして警察けいさつや行政ぎょうせいに加くわえて、地域ちいきの店舗てんぽやタクシー会社かいしゃ、それに地域ちいき住民じゅうみんなどが認知にんち症しょう行方ゆくえ不明ふめいの人ひとの捜索そうさくに協力きょうりょくする「SOSネットワーク」という見守みまもりの仕組しくみの整備せいびを各地かくちの自治体じちたいに呼よびかけています。

NHKがことし1月つきから2月つきにかけて、全国ぜんこくの都道とどう府県ふけんに「SOSネットワーク」の整備せいび状況じょうきょうや課題かだいについてアンケートを実施じっししたところ、全国ぜんこくの市町村しちょうそんの84.5％にあたる1472の市町村しちょうそんで整備せいびされていることがわかりました。

しかし、SOSネットワークが稼働かどうする上うえでの課題かだいを各かく都道とどう府県ふけんに複数ふくすう回答かいとうで聞きいたところ、

▽「事業じぎょうを知しらない住民じゅうみんが多おおい」が66％

▽「1人にん暮くらしの高齢こうれい者しゃで登録とうろくに至いたらない人ひとが増ふえている」が47％

▽「個人こじん情報じょうほう保護ほごのため情報じょうほうが共有きょうゆうされない」が30％で、

1人にん暮くらしの高齢こうれい者しゃの場合ばあいは、行方ゆくえ不明ふめいになったことに気付きづかず通報つうほうが遅おくれるケースもあり、対策たいさくが追おいついていない実態じったいも明あきらかになりました。

さらに、

「関西かんさいで行方ゆくえ不明ふめいになった人ひとが北陸ほくりくで発見はっけんされた」とか、

「県境けんきょうに住すんでいた人ひとが行方ゆくえ不明ふめいになり、隣となりの県けんへの周知しゅうちに時間じかんがかかった」など、

認知にんち症しょう行方ゆくえ不明ふめい者しゃが県境けんきょうをまたいで広域こういきで移動いどうするケースもあり、自治体じちたい間かんでの情報じょうほう共有きょうゆうで課題かだいがあると指摘してきする声こえがあがりました。

認知にんち症しょうの行方ゆくえ不明ふめい者しゃに詳くわしい国立こくりつ長寿ちょうじゅ医療いりょう研究けんきゅうセンター鈴木すずき隆雄たかお理事りじ長ちょう特とく任にん補佐ほさは「SOSネットワークの整備せいびが進すすんだことは評価ひょうかできるが、自治体じちたい間かんでの連携れんけいも進すすめ、社会しゃかいの変化へんかにあわせてちゃんと機能きのうするものになっているかどうか、検証けんしょうしていく必要ひつようがある」と指摘してきしています。

“事前じぜんに知しっていれば” 当事者とうじしゃからも課題かだい指摘してきする声こえ

認知にんち症しょうの家族かぞくを捜さがす当事者とうじしゃからも「SOSネットワーク」の周知しゅうちについて、課題かだいを指摘してきする声こえが挙あがっています。

長崎ながさき市しの江東こうとう愛子あいこさん（46）は去年きょねん4月つき、認知にんち症しょうの父ちち、坂本さかもと秀夫ひでおさん（74）が行方ゆくえ不明ふめいになり、およそ1年間ねんかん捜さがし続つづけています。

長年ながねん地元じもとの洋食ようしょく店てんでシェフを務つとめていた秀夫ひでおさんは、12年ねん前まえに若年じゃくねん性せいアルツハイマー型がた認知にんち症しょうと診断しんだんされましたが、自分じぶんや家族かぞくの名前なまえ、家いえの住所じゅうしょがはっきり分わかり、日常にちじょう生活せいかつも問題もんだいなく送おくれていたことから、家族かぞくは秀夫ひでおさんの認知にんち症しょうの症状しょうじょうは軽かるいと考かんがえていたといいます。

しかし秀夫ひでおさんは去年きょねん4月つき16日にち、日課にっかの散歩さんぽに出でかけたあと戻もどらなくなりました。

家族かぞくで秀夫ひでおさんを捜さがし、警察けいさつにも通報つうほうして、4日間にちかん警察けいさつの捜索そうさくが行おこなわれましたが、秀夫ひでおさんは見みつかりませんでした。

秀夫ひでおさんが行方ゆくえ不明ふめいになって3日にち後ご、愛子あいこさんは地域ちいきが連携れんけいして認知にんち症しょう行方ゆくえ不明ふめいの人ひとを捜さがす「SOSネットワーク」の存在そんざいを知しりました。

家族かぞくですぐに長崎ながさき市しに登録とうろくして、連携れんけいする市内しないの介護かいご事業じぎょう所しょや地域ちいき包括ほうかつ支援しえんセンターに秀夫ひでおさんの顔かお写真しゃしん付つきの情報じょうほうを周知しゅうちしてもらいました。

父ちちが行方ゆくえ不明ふめいになって半年はんとしがたった去年きょねん10月つき、長崎ながさき県内けんないを捜さがし尽つくしたと感かんじた愛子あいこさんは、SOSネットワークが県けん外がいの都道とどう府県ふけんにも情報じょうほうを提供ていきょうできることを知しって捜索そうさく協力きょうりょくの範囲はんいを広ひろげてもらいました。

愛子あいこさんは、SOSネットワークを事前じぜんに知しっていれば、初動しょどうの段階だんかいでスムーズに捜索そうさくができたのではと後悔こうかいしているといいます。

愛子あいこさんは「父ちちを見みつけたい。残のこされた家族かぞくとして苦くるしい思おもいを抱かかえている。SOSネットワークの事業じぎょうを事前じぜんに知しっていれば、行方ゆくえ不明ふめいになった直後ちょくごに探さがす人ひとを増ふやせたり、スムーズに捜索そうさくをお願おねがいできて父ちちも見みつかったかもしれないと思おもうとすごく残念ざんねんだ。行政ぎょうせいは当事者とうじしゃの声こえを聞きいて、事業じぎょうの周知しゅうちやSOSネットワークの改善かいぜんを進すすめてほしい」と話はなしていました。

長崎ながさき市しは、愛子あいこさんのケースを受うけて「SOSネットワーク」の仕組しくみを広ひろく周知しゅうちするため、認知にんち症しょうの行方ゆくえ不明ふめい者しゃを捜さがす人ひとに向むけて制度せいどや連絡れんらく先さきを一覧いちらんにまとめたシートを作成さくせいしたということです。

行方ゆくえ不明ふめい者しゃを減へらす取り組とりくみも

認知にんち症しょうやその疑うたがいがあり、行方ゆくえ不明ふめいになる人ひとが増ふえ、命いのちを落おとすケースも起おきていることを受うけて、地域ちいきでは取り組とりくみが進すすめられてきました。

「SOSネットワーク」は、主おもに事前じぜんに家族かぞくなどが登録とうろくした認知にんち症しょうの人ひとが行方ゆくえ不明ふめいになった場合ばあいに、警察けいさつや行政ぎょうせいに加くわえて地域ちいきのコンビニエンスストアやタクシー会社かいしゃなどの企業きぎょう、そして地域ちいき住民じゅうみんなどが認知にんち症しょう行方ゆくえ不明ふめいの人ひとの捜索そうさくに協力きょうりょくする取り組とりくみです。

北海道ほっかいどう釧路くしろ市しで1994年ねんに国内こくないで初はじめて「SOSネットワーク」が発足ほっそくし、1995年ねんには警察庁けいさつちょうが全国ぜんこくの警察けいさつ本部ほんぶに呼よびかけたことをきっかけに全国ぜんこく的てきに広ひろがりました。

厚生こうせい労働ろうどう省しょうも自治体じちたいへの財政ざいせい支援しえんや先進せんしん的てきな取り組とりくみを周知しゅうちするなどして、ネットワーク作づくりを促うながしてきました。

一方いっぽう、ネットワークを作つくってもほとんど稼働かどうしていない地域ちいきもあり、1人にん暮くらしの高齢こうれい者しゃの増加ぞうかや、県境けんきょうをまたぐなど広域こういきに移動いどうするケースでは、個人こじん情報じょうほう保護ほごのため情報じょうほう共有きょうゆうがされずに対応たいおうできない事例じれいの増加ぞうかも指摘してきされています。

このため、家族かぞくに限かぎらずケアマネージャーを通をつうじて1人にん暮くらしの認知にんち症しょうの人ひとの事前じぜん登録とうろくを進すすめる自治体じちたいや、本人ほんにんが外出がいしゅつしたときに、緊急きんきゅう連絡れんらく先さきや戻もどりたい場所ばしょを書かいた「ヘルプカード」を持参じさんしてもらう取り組とりくみも広ひろがっています。

さらに、電話でんわ番号ばんごうなどの個人こじん情報じょうほうを明あかさずに、行方ゆくえ不明ふめい者しゃを見みつけた人ひとと家族かぞくが連絡れんらくを取とりあえるアプリも開発かいはつされています。

専門せんもん家か「どう役割やくわり分担ぶんたんし情報じょうほう共有きょうゆうしていくかが重要じゅうよう」

認知にんち症しょうの行方ゆくえ不明ふめい者しゃに詳くわしい国立こくりつ長寿ちょうじゅ医療いりょう研究けんきゅうセンターの鈴木すずき隆雄たかお理事りじ長ちょう特とく任にん補佐ほさは「自治体じちたいも、認知にんち症しょうの人ひとが1人にんで出でかけて行方ゆくえ不明ふめいになることについては非常ひじょうに問題もんだい意識いしきを持もっている。しかし、行方ゆくえ不明ふめいによって重大じゅうだいな事故じこが起おきていない地域ちいきでは取り組とりくみについて見直みなおしが進すすまず、対策たいさくに温度おんど差さがあるのが実態じったいだ」と指摘してきしています。

そのうえで「認知にんち症しょう行方ゆくえ不明ふめい者しゃの捜索そうさくは難むずかしく、SOSネットワークの整備せいびで家族かぞくだけでなくさまざまな機関きかんが連携れんけいして捜さがす必要ひつようがあり、どう役割やくわり分担ぶんたんし、情報じょうほう共有きょうゆうをしていくかが重要じゅうようだ。今後こんごも行方ゆくえ不明ふめい者しゃの増加ぞうかが見込みこまれる中なかで、市町村しちょうそんや都道とどう府県ふけんをまたいで広域こういきに移動いどうした場合ばあいの自治体じちたい間かんでの情報じょうほう共有きょうゆうのほか、当事者とうじしゃが使つかいやすいようなネットワークの構築こうちくが求もとめられている」と訴うったえています。