毒ガスどくがす兵器へいき 旧きゅう日本にっぽん軍ぐん製造せいぞう所しょの記録きろく見みつかる 工員こういん被災ひさいの記録きろくも

見みつかったのは、旧きゅう日本にっぽん陸軍りくぐんが戦時せんじ中ちゅうに毒ガスどくがす弾だんなどの生産せいさんを行おこなっていた福岡ふくおか県けん北九州きたきゅうしゅう市しの「曽根そね製造せいぞう所しょ」に関にかんする報告ほうこく書しょで、太平洋たいへいよう戦争せんそうが始はじまった1941年度ねんど分ぶんの記録きろくがまとめられています。

それによりますと

▽軍ぐんから動員どういんされて作業さぎょうに当あたった「工員こういん」の数かずは1941年ねん6月つき時点じてんでは305人にんでしたが、翌年よくねんの3月つきには847人にんと3倍ばい近ちかくに増ふえたことが記しるされています。

また

▽製造せいぞう後ごの検査けんさに合格ごうかくした毒ガスどくがす兵器へいきの数かずは、1941年ねん6月つきまでの3か月かげつがおよそ10万まん発はつだったのに対にたいし、同おなじ年としの12月つきまでの3か月かげつではおよそ16万まん発はつに増加ぞうかしていて、生産せいさんを強化きょうかしていたことがうかがえます。

一方いっぽうで

▽皮膚ひふをただれさせる「びらん剤ざい」や、くしゃみや吐き気はきけを引き起ひきおこす「くしゃみ剤ざい」などが原因げんいんで、けがや病気びょうきになった工員こういんが複数ふくすう報告ほうこくされているほか

▽毒ガスどくがす弾だんからガスが噴出ふんしゅつしたり漏ろうえいしたりする事故じこが相次あいついでいたことなどが記録きろくされていました。

戦後せんご、曽根そね製造せいぞう所しょの元もと工員こういんたちの中なかには呼吸こきゅう器き疾患しっかんなどの健康けんこう被害ひがいを訴うったえる人ひとが多おおくいましたが、国くには製造せいぞう所しょに関にかんする公的こうてきな記録きろくがほとんど残のこっておらず事実じじつ確認かくにんが難むずかしいなどとして、1993年ねんに医療いりょう費ひの負担ふたんなどを開始かいしするまでおよそ50年ねんにわたって救済きゅうさいの対象たいしょうとしませんでした。

報告ほうこく書しょは戦後せんご、厚生こうせい労働ろうどう省しょうが保管ほかんし、2018年度ねんどに国立こくりつ公文こうぶん書しょ館かんに移管いかんしていて、閲覧えつらんできるようになったのはおととしからでした。

報告ほうこく書しょを発見はっけんし内容ないようを分析ぶんせきした明治めいじ学院がくいん大学だいがく国際こくさい平和へいわ研究所けんきゅうじょの松野まつの誠まこと也 研究けんきゅう員いんは「報告ほうこく書しょがもっと早はやく確認かくにんされていれば当時とうじ働はたらいていた人々ひとびとの証言しょうげんを裏付うらづける物的ぶってき資料しりょうとして救済きゅうさい措置そちが早はやく始はじまった可能かのう性せいがある」と指摘してきしています。

厚生こうせい労働ろうどう省しょうは「資料しりょうの中身なかみを確認かくにんできていないためコメントできない」としています。

北九州きたきゅうしゅう市し「曽根そね製造せいぞう所しょ」とは

旧きゅう日本にっぽん陸軍りくぐんは第だい1次じ世界せかい大戦たいせんで毒ガスどくがすが使用しようされ始はじめたことをきっかけに、1914年ねんから毒ガスどくがすに関にかんする調査ちょうさ研究けんきゅうを開始かいしし、1929年ねんには広島ひろしま県けんの大久野おおぐの島とうで毒ガスどくがすの生産せいさんを本格ほんかく的てきに始はじめました。

1937年ねんには、大久野おおぐの島とうで生産せいさんした毒ガスどくがすを砲弾ほうだんなどに充填じゅうてん（じゅうてん）するため、福岡ふくおか県けん北九州きたきゅうしゅう市しに「曽根そね製造せいぞう所しょ」を開設かいせつします。

およそ5万まん坪つぼの敷地しきちには、7棟むねの建物たてものなどが配置はいちされ、皮膚ひふをただれさせる「イペリット」や、窒息ちっそく性せいのある「ホスゲン」などの毒ガスどくがすを砲弾ほうだんや爆弾ばくだんに詰つめる作業さぎょうが行おこなわれました。

戦後せんごは陸上りくじょう自衛隊じえいたいの訓練くんれん場じょうとして使用しようされてきましたが、現在げんざいは閉鎖へいさされています。

防衛ぼうえい省しょう防衛ぼうえい研究所けんきゅうじょによりますと、「曽根そね製造せいぞう所しょ」をめぐっては、毒ガスどくがす兵器へいきの生産せいさん能力のうりょくなどを示しめす記録きろくは見みつかっているものの、工員こういんたちがどのような作業さぎょうに従事じゅうじしていたかや、毒ガスどくがすの漏ろうえい事故じこが起おきていたことを示しめす記録きろくは確認かくにんされていなかったということです。

元もと工員こういんたちの証言しょうげん

曽根そね製造せいぞう所しょで働はたらいていた元もと工員こういんたちは戦後せんごになって毒ガスどくがすが原因げんいんとみられる後遺症こういしょうに苦くるしめられ、1989年ねんにはおよそ300人にんの元もと工員こういんたちが「毒ガスどくがす傷害しょうがい者しゃ互助ごじょ会かい」を結成けっせいし、国くにに補償ほしょうを求もとめる活動かつどうを始はじめました。

互助ごじょ会かいの会長かいちょうを務つとめた岡田おかだ清きよしさんは当時とうじの取材しゅざいに、「高齢こうれい者しゃになるにしたがって後遺症こういしょうがかさみ、心臓しんぞうやぜんそくなどガスが原因げんいんではなかろうかとみられる重症じゅうしょう患者かんじゃがいて、その人ひとたちも入退院にゅうたいいんを繰り返くりかえして、家庭かていの経済けいざいを大おおきく圧迫あっぱくしている状態じょうたいだ」と訴うったえていました。

また、1991年ねんに放送ほうそうされたNHKの番組ばんぐみには、当時とうじ、曽根そね製造せいぞう所しょで働はたらいていた人ひとたちの証言しょうげんが記録きろくされています。

製造せいぞう所しょが開設かいせつされた1937年ねんから8年間ねんかん、毒ガスどくがすを砲弾ほうだんに詰つめる作業さぎょうを行おこなっていた畠山はたけやま治郎じろうさんは「当時とうじは毒ガスどくがすを予防よぼうするようなことは考かんがえておらず、せきが出でる、のどが痛いたくなる、目めが赤あかく充血じゅうけつするくらいで、直接ちょくせつ苦痛くつうを感かんじないから、何なんとも思おもっていなかった」と証言しょうげんしていました。

戦後せんごになって慢性まんせい的てきな気管支きかんし炎えんに苦くるしめられたという畠山はたけやまさんは、「友達ともだちの中なかには早はやくに亡なくなった人ひともいるし、すまないなという気持きもちもあります」と話はなしていました。

また、製造せいぞう所しょの事務所じむしょで働はたらいていたという男性だんせいは、毒ガスどくがす弾だんを製造せいぞうしていることを口外こうがいしてはならないと命令めいれいされていたと証言しょうげんし、「戦時せんじ中ちゅうはもちろん戦後せんごもこういうことは一切いっさいお互おたがい言いうまいぞということで別わかれたのです。