世界有数の高額家賃で知られる香港、「事故物件」に商機をみいだす投資家
70代のベテラン投資家、ン氏は死に商機を見いだしている。売却を切望するオーナーから、いわゆる「幽霊屋敷」を買い取り、市場価格より最大30%値引いて貸し出しているのだ。ン氏によれば、多くの人はそれほど事故物件に拒否感は持っておらず、結局は割引額次第なのだという。それでも、近づかないように、あるいは少なくとも慎重になるようにという空気感は広まっている。特に、香港有数の凄惨な殺人事件に関係する物件については、その傾向が顕著だ。英国人銀行家のルリック・ジャッティング被告は14年、香港のナイトライフで人気のワンチャイにある高級マンションでインドネシア人女性2人を惨殺。そのうち1人の遺体をスーツケースに隠した。殺人事件の全容が明らかになるにつれ、現場となったワンベッドルーム物件の価格は推定116万ドル(現在のレートで約1億7900万円)から77万ドルに暴落。月額3740ドルの家賃は半額に落ち込んだと当時ブルームバーグ通信は報じていた。地元報道によると、新界近郊の住宅街にある別の物件は、当初の価格から40%値下げして売却され、14万2000ドルの損失が生じた。この物件では16年、金銭をめぐり男3人が友人を殺害し、遺体をセメントでかため住居内に保管していた。こうした物件の所有者が損失を被るのはほぼ確実で、「幽霊屋敷」として登録されている物件の買い手を見つけるのは非常に困難だ。この背景には銀行が敬遠する傾向にあることも挙げられる。香港の不動産大手リカコープ・プロパティーズのシニアアソシエイトディレクター、エリック・ポー氏はCNNに対し、多くの銀行がこうした物件を高リスク投資と見なしていると指摘。「ほとんどの場合、住宅ローンは承認されない」という。しかし、中にはこれを投資機会と捉えている人もいる。ン氏の戦略は、購入する「幽霊屋敷」の種類を厳選することだ。ン氏は、残忍な殺人事件に関わる物件はできる限り避け、しばらく前に死亡事案のあった物件を探す。「幽霊屋敷」の中には、長い期間が経過し、何が起きたか忘れ去られているものもあるという。「重要なのは、人々に悲しみや不快感を与えないようにすることだ」しかし、あらゆる投資と同様にリスクは存在し、ン氏にも薄気味悪い失敗談がある。入居者が引っ越しからわずか数日で賃貸契約を破棄したことがあるというのだ。借り主が一切理由を説明しなかったため、ン氏は隣の部屋の住民に話しを聞いた。「隣人から聞いた話では、その借り主の3歳の息子が真夜中にひどく難解な本を開いて熱心に読んでいた」とン氏は当時を振り返る。「彼は息子が何かに取りつかれたと思ったらしい」