日本新聞: 舟に100億円？舟運にかける水都・大阪いったいなぜ？

大阪おおさかといえば「水みずの都と」

豊臣とよとみ秀吉ひでよしの時代じだいには多おおくの舟ふねが淀川よどがわを行き交いきかい、経済けいざいや文化ぶんかが発展はってんしてきました。

今いまではほとんど見みられなくなった淀川よどがわの舟運しゅううん。

それを復活ふっかつさせようという大だい規模きぼプロジェクトが始はじまっています。

費用ひようは、なんと100億おく円えん超ちょう！

道路どうろも鉄道てつどうもある令りょう和わの今いま、舟ふねのために100億おく円えん？

いったいなぜ？調しらべてみました。

（NHK大阪おおさか放送ほうそう局きょく記者きしゃ宗像むねかた玄げん徳とく）

閘門もんって読よめますか？

3つの一いち級きゅう河川かせんが合流ごうりゅうして大阪おおさか湾わんに注そそぐ淀川よどがわ。

そこに今いま、あるものが造つくられています。

それは…「閘門もん」

見慣みなれない漢字かんじですが、「こうもん」と読よみます。

船ふねを通過つうかさせるために運河うんがや河川かせんの水位すいいを調節ちょうせつする施設しせつのことです。

河口かこうから約やく10キロの地点ちてんの「淀川よどがわ大堰おおせぎ」に設もうけられ、総そう事業じぎょう費ひは100億おく円えんを超こえます。

完成かんせいするとどうなるのか？

国土こくど交通こうつう省しょう近畿きんき地方ちほう整備せいび局きょくが作製さくせいしたVR動画どうがを見みてみると…

こちらが淀川よどがわ大堰おおせぎ閘門もんです。

ポイントは、ゲートとゲートの間まに挟はさまれた部分ぶぶんです。

この部分ぶぶんに船ふねが入はいると、ゲートを閉とじて水位すいいを調節ちょうせつします。

まるでエレベーターのように水位すいいを上げ下あげさげすることで、川かわの水位すいいが違ちがっても船ふねが行き来いききできるようになります。

完成かんせいすると閘門もんに一いち度どに4隻せきの観光かんこう船せんが入はいり、移動いどうできるようになります。

2025年ねん春はるまでの完成かんせいを目指めざしていて、日本にっぽん最大さいだいの閘門もんになる見込みこみです。

かつて京都きょうととつながっていた舟運しゅううん

でも、なぜ舟ふねにこだわるのでしょうか？

淀川よどがわは、かつて京都きょうとの伏見ふしみと大阪おおさかを結むすぶ舟ふねが行き交いきかう大動脈だいどうみゃくでした。

しかし、時代じだいが進すすむにつれて船ふねは車くるまや鉄道てつどうに役割やくわりを奪うばわれ、1962年ねんに伏見ふしみ・大阪おおさか間かんの船ふねによる貨物かもつ輸送ゆそうは終おわりを告つげました。

一方いっぽうで、流域りゅういき人口じんこうは増ふえ続つづけ、今いまでは1000万まん人にんを超こえ、淀川よどがわは、生活せいかつ用水ようすいや工業こうぎょう用水ようすいの水源すいげんにもなっています。そこで1983年ねんに設もうけられたのが全長ぜんちょうおよそ700mの「淀川よどがわ大堰おおせぎ」です。

「淀川よどがわ大堰おおせぎ」の完成かんせいで安定あんていした取水しゅすいが可能かのうになる一方いっぽうで、巨大きょだいな堰せきが水上すいじょうの往来おうらいを阻はばむ形かたちとなり、船ふねの行き来いききができなくなってしまいました。

今回こんかい、閘門もんを造つくることで、国くには再ふたたび大阪おおさかから伏見ふしみまでの船ふねの行き来いききを可能かのうにさせたいとしています。

ロマンのためじゃありません

かつての舟運しゅううんの復活ふっかつ。

うーう-ん、歴史れきしロマンと夢ゆめを感かんじます。

でも、ちょっと待まって！

ロマンに100億おく円えん超ちょう？巨額きょがくすぎますよね。

実じつはこの事業じぎょうには大おおきな目的もくてきがあるんです。

その構想こうそうは、1995年ねんの阪神はんしん・淡路あわじ大震災だいしんさいにさかのぼります。

大だい都市としを直撃ちょくげきしたM7.3の直下ちょっか型がた地震じしん。

大阪おおさかと神戸こうべを結むすぶ、阪神はんしん間かんの交通こうつうは寸断すんだんされました。

主要しゅような鉄道てつどうの復旧ふっきゅうには2か月かげつから半年はんとしかかりました。

道路どうろが崩落ほうらくした阪神はんしん高速こうそくの全線ぜんせん復旧ふっきゅうは1年ねん半はん以上いじょう。

震災しんさいは、都市とし交通こうつうのもろさを突つきつけました。

このときに重要じゅうよう性せいが再さい認識にんしきされた交通こうつうが船ふねだったのです。

支援しえん物資ぶっしの一部いちぶは船ふねによって運はこばれました。

渋滞じゅうたいせずにスイスイ

淀川よどがわでも実じつはこのとき舟運しゅううんが活躍かつやくしました。

震災しんさいでは、淀川よどがわの河口かこう近ちかくの堤防ていぼうが崩くずれました。

1月つきの震災しんさい後ご、氾濫はんらんや洪水こうずいのおそれがある梅雨つゆの時期じきまでに何なにとしても復旧ふっきゅう工事こうじを終おえなくてはなりません。

崩くずれたのは、淀川よどがわ大堰おおせぎよりも海うみ側がわで船ふねの往来おうらいができる場所ばしょでした。

そこで、補修ほしゅう工事こうじの資材しざいを現場げんばまで船ふねで運はこんだのです。

道路どうろ渋滞じゅうたいに悩なやまされることはなく、工事こうじはスムーズに進すすみ、堤防ていぼうはわずか半年はんとしで仮かり復旧ふっきゅうまでこぎつけました。

これをきっかけに、流域りゅういきでは「淀川よどがわ舟運しゅううん」復活ふっかつを求もとめる声こえが上あがるようになりました。

災害さいがい時じの支援しえんに当あたる人ひとたちや帰宅きたく困難こんなん者しゃの輸送ゆそうにも役立やくだつとも考かんがえられました。

舟運しゅううん復活ふっかつへ進すすむきっかけは？

しかし、船ふねの往来おうらいに必要ひつような、淀川よどがわ大堰おおせぎに閘門もんを造つくる工事こうじには巨額きょがくの費用ひようが。

震災しんさいから20年ねん以上いじょうたっても、「淀川よどがわ舟運しゅううん」が実現じつげんすることはありませんでした。

川かわ沿ぞいの自治体じちたいの担当たんとう者しゃも「実現じつげんするとは思おもっていなかった」と振り返ふりかえります。

事態じたいが一気いっきに動うごいたのが2025年ねんの大阪おおさか・関西かんさい万博ばんぱくの開催かいさい決定けっていでした。

万博ばんぱくで世界せかいが関西かんさいに注目ちゅうもくするなか、「淀川よどがわ舟運しゅううん」復活ふっかつは「水みずの都と・大阪おおさか」の魅力みりょくを広ひろく発信はっしんできる絶好ぜっこうの機会きかいになると考かんがえられたのです。

これまでの防災ぼうさいだけでなく観光かんこうへの期待きたいも加くわわったことで事業じぎょうは一気いっきに動うごきだしました。

万博ばんぱく期間きかん中ちゅう、会場かいじょうの大阪おおさか・夢ゆめ洲しゅうまで淀川よどがわから来場らいじょう者しゃを運はこぶ計画けいかくが持ち上もちあがり、本格ほんかく的てきな工事こうじが始はじまりました。

船ふねの行方ゆくえを阻はばむやっかいもの

ただ、京都きょうとと大阪おおさかを観光かんこう船せんで結むすぶことになった場合ばあい、関係かんけい者しゃを悩なやませている壁かべがあります。

淀川よどがわ舟運しゅううんが栄さかえた江戸えど時代じだい、大阪おおさかと伏見ふしみの間まの港みなととして栄さかえた大阪おおさか枚方ひらかた市し。

橋はしの上うえから撮影さつえいしたこの写真しゃしん、何なにかわかりますか？

上流じょうりゅうから流ながれてきた土砂どしゃがたまっている「砂州さす」です。

水面すいめんに現あらわれるほどのものがいくつも見みえます。

このあたりでは川かわの深ふかさが、わずか70センチ以下いかという場所ばしょも。

「川かわの浅あささ」が問題もんだいになっています。

枚方ひらかたからさらに上流じょうりゅうの京都きょうとに向むけて観光かんこう船せんを航行こうこうさせるには、この土砂どしゃを取り除とりのぞかなくてはなりません。

船ふねが行き来いききできる水深すいしんを確保かくほするには、絶たえず流れ込ながれこむ土砂どしゃを定期ていき的てきに取り除とりのぞいたり、川かわの流ながれを速はやめて土砂どしゃをたまりにくくする大だい規模きぼな川かわの改修かいしゅうをしたりする必要ひつようがあります。さらに予算よさんがかかるのです。

（近畿きんき地方ちほう整備せいび局きょく淀川よどがわ河川かせん事務所じむしょ・林はやし貴宏たかひろ総括そうかつ地域ちいき防災ぼうさい調整ちょうせい官かん）

「やらなければならない課題かだいが目めの前まえに山積やまづみになっている状態じょうたいです。閘門もんを整備せいびして終おわりではありません。まずは万博ばんぱく開催かいさいまでに京都きょうと伏見ふしみと大阪おおさか湾わんまでを結むすぶ淀川よどがわ舟運しゅううんを復活ふっかつさせたいと考かんがえています」