一方、どのように日本を出国したかについては一切、明かしませんでした。日産自動車の元会長のカルロス・ゴーン被告は8日、逃亡先のレバノンの首都、ベイルートで各国のメディアを集めて記者会見を行いました。
会見でゴーン元会長は日本から逃亡した理由について「公正な裁判を受けられる望みがなかった。正義から逃げたのではなく不正義と迫害から逃げたのだ」と述べ、不正な手段であっても日本を出国したことを正当化する主張を行いました。
一方で、どのように出国し、レバノンに到着したかについては「協力してくれた人を危険にさらしたくない」などとして一切、明かしませんでした。
また、特別背任の罪などで起訴されたことについて「いずれも根拠がなく日産から支出された資金は正当なものだ」と述べて改めて無罪を主張しました。
各国の主要メディアはゴーン元会長が会見で行った発言についてこれまでのところ具体的な論評はしていませんが、捜査にあたった東京地方検察庁が会見を受けて発表した反論の声明を掲載するなど大きく取り扱っていて、世界的な関心の高さをうかがわせています。
記者会見の主な質疑
8日の記者会見では、英語やフランス語など4か国語を交えて1時間余りにわたって各国の記者の質問に答えました。
会見では、日本で特別背任などの罪で起訴されたことへの受け止めについて質問が集中しました。
ゴーン元会長は、日本で初公判を前に争点を整理する手続きを進めていたさなかに逃亡しましたが、記者から今後レバノンで裁判を受けるかと尋ねられると、「公正な裁判が受けられる国ではどこででも裁判を受ける」と答え、公正さが保たれるならば裁判に臨むという考えを示しました。
また、ゴーン元会長には、日本の弁護士がついていますが、事件に関する証拠について、「手元にあるものについてはレバノンの弁護士に渡している。日本とレバノンの弁護士は今後も協力していく」と述べ、引き続き無罪を主張する考えを示しました。
また、会見では日本からどのような方法で逃亡したかについても質問が相次ぎましたが、明らかにしませんでした。
ただ逃亡を決断した理由については「去年の年末、弁護士から裁判の開始まで時間がかかると聞かされた。心の支えである妻にも会えず、日本にとどまる必要はもうないと思った」と説明しました。
また、ゴーン元会長は、ルノーが求める日産との経営統合に関しては「完全な統合を求めるフランス側と自立性を求める日産との間でバランスをとっていた。完全な経営統合を提案していたわけではない」と説明し、日産側が一方的に自分を追い出そうと画策したと主張しました。
今後について問われると、「私はこれまでにもミッション・インポッシブルを何度も実現させてきた。数週間以内に汚名を返上する行動に出る」と説明しましたが具体的にどのような対応にでるのかは明らかにしませんでした。
今回の会見では日本からは一部の報道機関のみが出席を認められましたが、その理由について問われると、「会見に出席できるのは事実に基づいて報じているメディアだ。ほかのメディアは日産や検察側の言い分を分析や批判をせずそのまますべて報じている」と述べて出席を認める報道機関を意図的に選別したことを示唆しました。
ルノーとの経営統合 自主性保った形を目指していた
記者会見では、おととし、日産とルノーの経営統合を進めようとしたことで、これに反対する日産の幹部の策略によって失脚させられたと主張しました。
この経営統合についてゴーン元会長は、「完全な経営統合と言えば2つの会社が何もかも1つになることだが、私はそういう提案はしていない。フランス政府が完全な経営統合を求めているのは知っていたが、私は、自立を求める日産とのバランスの取れた提案をしていた」と述べて、持ち株会社を設立して日産とルノーを傘下に置くなど、自主性を保った形での統合を目指していたと説明しました。
一方、日産は、ゴーン元会長の不正は内部調査で確認されたものだとして、経営統合の検討とは関係なく、コンプライアンス上の問題でゴーン元会長の職を解き、責任を追及するという立場を示しています。
フィアット・クライスラーとの連合を考えていた
また記者会見の中でみずからが職を解かれたあとの日産自動車とルノー、三菱自動車工業の3社の連合について、「利益は落ち込んでおり方向性が見えない」などと批判しました。
ゴーン元会長は、日産のトップだった時期にフィアット・クライスラーを連合に加えて成長を図ることを考えていたとし、「実際にコンタクトをして、よい対話をしていたが、残念ながら結論が出る前に逮捕された。本来は大きなチャンスだった」と話しました。
フィアット・クライスラーは、ゴーン元会長が逮捕されたあとの去年5月、日産と連合を組むルノーに経営統合を提案しましたが、日産の賛成が得られなかったことなどから実現しませんでした。
先月、フィアット・クライスラーはプジョー・シトロエンと経営統合することで合意しました。
メディア関係者の反応は
記者会見には地元レバノンをはじめ欧米など各国から、ゴーン元会長側が選んだメディア関係者およそ100人が参加しました。
このうちドバイの経済誌で働く女性は、「2時間以上の会見で各国のメディアの質問に答えていました。公正な会見だったと思います」と話していました。
またイギリスのプロデューサーの男性は、「彼は自信にあふれていて、みずからの無実を信じていることはよく分かりました。説得力はあったと思います」と話していました。
一方、フランスのテレビ局の女性は、日本からは限られた数のメディアだけが会見への参加を認められたことについて、「日本のメディアは最初に事実関係を知りたいはずなので、もっと大きな部屋をと取って、参加を許されるべきだったと思います」と話していました。
航空会社が日本政府に協力申し出
ゴーン元会長は日本からレバノンに逃亡する際、トルコの航空会社「MNG Jet」のプライベートジェットを使用したことが明らかになっています。
「MNG Jet」は8日、NHKの取材に対し、幹部らが首都アンカラでトルコに駐在する宮島昭夫大使に面会し、日本政府への協力を申し出たことを明らかにしました。「MNG Jet」は、ゴーン元会長の逃亡に自社のプライベートジェットが違法に使われたとして、トルコの捜査当局に刑事告訴していますが、ゴーン元会長がどのように逃亡したかを明らかにするためには日本政府に必要な協力を行うとしています。
一方、これについてアンカラにある日本大使館は「コメントを差し控える」としています。