1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件で、有罪が確定して服役した前川彰司さん(59)について、名古屋高裁金沢支部は去年10月、再審を認める決定を出し、最初の申し立てから20年を経てやり直しの裁判が開かれることになりました。
再審の初公判は、名古屋高裁金沢支部で午後2時すぎに開廷しました。
逮捕から一貫して無実を訴え続けてきた前川さんは初公判で意見陳述を行い、事件はえん罪だとして無罪を求めることにしています。
弁護団は、有罪の決め手とされた複数の関係者の目撃証言について、「捜査機関が誘導したもので信用できない」として、無罪を主張する方針です。
これに対し検察は、有罪の主張を維持する一方で、再審に向けて新たな証拠は提出しない方針で、1日ですべての審理が終わる見通しです。
検察が新しい証拠を提出しないまま、再審開始決定で示された裁判所の判断を覆すことは難しいとみられ、前川さんは無罪となる公算が大きくなっています。
判決はことし7月ごろに言い渡される見通しです。
再審開始 法廷では
検察は改めて有罪を主張
再審の初公判で、検察は改めて有罪を求める主張をしました。
この中で、「懲役7年とした確定判決は妥当であり、再審請求の審理を経ても結論の妥当性に変わりはない。知人らの目撃証言は、信用性を互いに支え合っている。前川さんが犯人であることに合理的な疑いはない」などと主張しました。
弁護団 “前川彰司さんは無罪”
再審の初公判で、弁護団は「前川彰司さんは無罪です。逮捕されて以降、現在に至るまで一貫して無罪を主張しています」と述べました。
そのうえで、有罪の決め手とされた知人らの目撃証言について、「多数の重大な変遷があり、到底信用できるものではない」と主張しました。
弁護団 “検察の訴訟活動は不当”
また、弁護団は有罪の決め手とされた目撃証言をした前川さんの知人が「事件当日に見た」と話していたテレビ番組のシーンについて、実際には事件当日に放送されていなかったことを、検察はもとの裁判の1審の時点で把握していたと主張しました。
そのうえで「検察は1審の無罪判決を確定させるべきだったにもかかわらず控訴した。控訴や2審での訴訟活動は不当なものだったというほかない」と批判しました。
さらに、重要な証拠が開示されないまま検察の控訴や再審開始決定に対する異議申し立てが行われたとして、「重要な証拠が1回目の再審請求の中で開示されていたら、遅くとも2011年の再審開始のときに確定していたかもしれない」と述べました。
弁護団 “警察官らが不当な誘導”
そして、弁護団は弁論の最後に、「この事件は、警察官らが誘導に乗りやすい関係者に対し不当な誘導を行い、事実に反する誤った証言で前川さんを無実の罪に陥れたえん罪事件だ。逮捕されてからおよそ38年の年月が経過し、その間、前川さんはえん罪被害者として苦しんできた。一日も早く前川さんが無罪であることを確定させなければならない」と訴えました。
前川さん “39年の長い年月をこの事件のために犠牲に”
再審の初公判の最後に前川さんは意見陳述を行い、「私は決して犯人ではありません。この事件はえん罪であり、私はここに無実であることを主張し、無罪を求めるものです。39年にわたる長い年月を私はこの事件のために犠牲にしました」と訴えました。
また、検察に対しては「本来なら、再審公判において検察が無罪を主張すべきで、それ以前の問題として起訴すべき案件ではなかった。検察は判断を最初から誤っていたのです」と述べました。
判決は7月18日
前川彰司さん(59)の再審=やり直しの裁判は、午後3時半ごろにすべての審理が終わり、判決は7月18日に言い渡されることになりました。
前川さんの父親 “今は静かに判決を待ちたい”
再審の初公判が開かれたことについて、前川彰司さんの父親の禮三さん(92)は、「あまり多くは語りたくはない。まだ裁判がすべて終わったわけではないが、ひとまずよかった。余計なことは考えずに今は静かに判決を待ちたいと思います」というコメントを出しました。
傍聴した女性 “無罪しかない”
裁判を傍聴した東京都の70代の女性は「前川さんが法廷で話した言葉からも、今までの苦しさが伝わってきて、つらかったんだろうなと感じました。弁護団が指摘していたことがより明らかになってきていて、判決は無罪しかないと感じています」と話していました。
傍聴した男性 “自分の目で確かめたいと思い傍聴”
裁判を傍聴した金沢市の80代の男性は「世間の関心が高まる中で、裁判でどういうやり取りが行われるのか自分の目で確かめたいと思い、傍聴しました。前川さんはきょうの法廷でもきぜんとした態度で無罪だと訴えていて、判決は無罪しか考えられないと思いました」と話していました。
再審前に集会 “再審法変われば えん罪の被害者が救われる”
前川さんは再審の初公判を前に正午すぎから、全国から集まった支援者と決起集会を行い、各地で再審を求める動きがあることを踏まえ、「この事件が先陣となるよう、無罪を確定させたい」と意気込みを語りました。
そのうえで、「再審法が変われば、世の中が変わる。えん罪の被害者が救われる」と述べ、再審制度の法改正の必要性を訴えました。
また、1995年に大阪 東住吉区の住宅で女の子が死亡した火事で放火や殺人などの罪に問われ、無期懲役の刑で服役したものの、再審で無罪が確定した青木惠子さんが駆けつけ、「検察には間違っていたということを認めてもらいたい。ひとりでも多くの仲間が無罪になってほしい。判決の日に一緒に笑い合えることを期待している」と話していました。