日本新聞: 急速な“円安” 日本経済にとってのプラス面とマイナス面は

急速きゅうそくな“円えん安やす” 日本にっぽん経済けいざいにとってのプラス面めんとマイナス面めんは

May 15, 2022 17:05

Furigana

このところ急速きゅうそくに進すすんだ「円えん安やす」。

「円えん安やす」には海外かいがいへの輸出ゆしゅつで企業きぎょうの利益りえきを押し上おしあげたり外国がいこく人じん観光かんこう客きゃくを呼び込よびこんだりするプラスの面めんと、輸入ゆにゅう品ひんの価格かかくが上昇じょうしょうし企業きぎょうや家庭かていの負担ふたんが重おもくなるマイナスの面めんがあります。

3月つき期き決算けっさん円えん安やすで最終さいしゅう的てきな利益りえきが増加ぞうか約やく7割わり

海外かいがいで事業じぎょうを展開てんかいする大だい企業きぎょうなどにとっては、海外かいがいで稼かせいだドルなどの外貨がいかをより多おおくの円えんに換かえることができるため、日本にっぽん経済けいざいにとって「円えん安やす」は、「追い風おいかぜ」になるとされてきました。

SMBC日興にっこう証券しょうけんが、旧きゅう東証とうしょう1部ぶに上場じょうじょうしていた企業きぎょうのうち今月こんげつ12日にちまでに決算けっさんを発表はっぴょうした891社しゃのことし3月つき期きの決算けっさんを分析ぶんせきしたところ、消費しょうひの持ち直もちなおしや円えん安やすを背景はいけいに前まえの年度ねんどに比くらべて最終さいしゅう的てきな利益りえきが増加ぞうかした企業きぎょうがおよそ7割わりに当にあたる631社しゃに上のぼりました。

トヨタ自動車とよたじどうしゃや三菱みつびし商事しょうじ、三井みつい物産ぶっさんなど、輸出ゆしゅつに強つよみがある企業きぎょうを中心ちゅうしんに最終さいしゅう的てきな利益りえきが過去かこ最高さいこうとなるケースが相次あいついでいます。

しかし、「円えん安やす」で得えられるメリットは以前いぜんより期待きたいできなくなっていると指摘してきされています。

日本にっぽん企業きぎょうは、長ながく続つづいた円えん高だかの局面きょくめんの中なかで為替かわせ相場そうばの影響えいきょうを受うけにくくするため生産せいさん拠点きょてんの海外かいがい移転いてんを進すすめてきました。

日本にっぽん政策せいさく投資とうし銀行ぎんこうが毎年まいとし、大だい企業きぎょうを中心ちゅうしんに行いっている調査ちょうさによりますと、製造せいぞう業ぎょうの企業きぎょうが設備せつび投資とうしした拠点きょてんのうち、海外かいがい拠点きょてんが占しめる割合わりあいは20年ねん前まえの2002年ねんは31.6％でしたが、去年きょねんは52％に増ふえています。

海外かいがいでの生産せいさん比率ひりつが高たかまって日本にっぽんからの輸出ゆしゅつが増ふえず、輸出ゆしゅつ大国たいこくだった以前いぜんと比くらべて直接ちょくせつ的てきな円えん安やすのメリットは薄うすれてきています。

また、国内こくないで事業じぎょうを展開てんかいするケースが多おおい中小ちゅうしょう企業きぎょうにとっては「円えん安やす」が原材料げんざいりょう価格かかくを一段いちだんと押し上おしあげ負担ふたんが増ます形かたちになっていて、日本にっぽん商工しょうこう会議かいぎ所しょの先月せんげつの調査ちょうさでは、円えん安やすについて「デメリットのほうが大おおきい」と回答かいとうした中小ちゅうしょう企業きぎょうが53.3％と半数はんすう以上いじょうに上のぼっています。

海外かいがいでの人件じんけん費ひが高騰こうとう

海外かいがいに拠点きょてんを持もつ日本にっぽん企業きぎょうは、このところの「円えん安やす」で現地げんちで雇用こようする従業じゅうぎょう員いんの人件じんけん費ひなどが高騰こうとうし経営けいえいに影響えいきょうが出でています。

都内とないのIT企業きぎょうは、7年ねん前まえにベトナム・ハノイに子会社こがいしゃをつくり、家計かけい簿ぼアプリなどの開発かいはつ拠点きょてんにしています。

現地げんちでベトナム人じんのエンジニアを採用さいようし、ハノイの拠点きょてんではおよそ10人にんが働はたらいていて、開発かいはつ拠点きょてんの運営うんえい費ひや人件じんけん費ひなどは日本にっぽんから「円えん」で送金そうきんし、現地げんち通貨つうかの「ドン」に交換こうかんされます。

しかし、円えんはアメリカのドルだけではなく、さまざまな通貨つうかに対にたいしても値下ねさがりしていて、去年きょねんは1円えん＝200ドン～210ドン台だいで主おもに取り引とりひきされていましたが、先月せんげつ以降いこう、一段いちだんと円えん安やすが進すすみ、今月こんげつ頭あたまには1円えん＝173ドン台だいに下落げらくしました。

このため、人件じんけん費ひやベトナムの拠点きょてんで使つかう設備せつび費ひ、オフィスの賃料ちんりょうなどの運営うんえい費ひが去年きょねんよりおよそ20％上昇じょうしょうしています。

銀行ぎんこうに為替かわせ予約よやくをして変動へんどうの影響えいきょうを抑おさえる方法ほうほうもありましたが、予算よさんが限かぎられる中なかで手数料てすうりょうの負担ふたんが高たかくなるため、対策たいさくを講こうじることができなかったといいます。

このため、会社かいしゃはことし計画けいかくしていた現地げんちでの新卒しんそつ採用さいようの人数にんずうを減へらすことを検討けんとうしていますが、経済けいざい成長せいちょうが続つづくベトナムでは各国かっこくの企業きぎょうの間までITエンジニアを奪い合うばいあう状況じょうきょうが続つづいているため、このままでは海外かいがいの企業きぎょうに採用さいよう力りょくで負まけ、競争きょうそう力りょく低下ていかにつながるおそれがあると懸念けねんしています。

スマートアイデアの江尻えじり尚しょう平ひら社長しゃちょうは「ベトナム国内こくないで物価ぶっかが上あがっているのでその分ぶん、従業じゅうぎょう員いんの給与きゅうよを上あげなければならないが、円えん安やすの影響えいきょうが重かさなって非常ひじょうに悩なやましい状況じょうきょうだ。欧米おうべいの企業きぎょうがどんどん進出しんしゅつしてきているが、ドルが高たかくなる中なかで給与きゅうよ水準すいじゅんで競争きょうそうしていくのが難むずかしくなってきている」と話はなしています。

専門せんもん家か「円えん安やす水準すいじゅん続つづく可能かのう性せい利益りえき率りつ下さげない工夫くふうを」

マクロ経済けいざいが専門せんもんの日本にっぽん政策せいさく投資とうし銀行ぎんこうの宮永みやなが径経済けいざい調査ちょうさ室長しつちょうは「円えん安やすによって日本にっぽんへの渡航とこうや不動産ふどうさん投資とうしを押し上おしあげる効果こうかが期待きたいできるほか、海外かいがいでもうけたドルを円えんに換算かんさんしてリターンを得えるという構造こうぞうが定着ていちゃくしているので、円えん安やすによって収益しゅうえきが増ふえ全体ぜんたいとしてみれば日本にっぽん経済けいざいにとってプラスの効果こうかがある。ただ、恩恵おんけいを受うけるのは輸出ゆしゅつ・製造せいぞう業ぎょうなどの大だい企業きぎょうが中心ちゅうしんで、経済けいざい全体ぜんたいでプラスだったとしても各かく企業きぎょうや消費しょうひ者しゃに均等きんとうに恩恵おんけいが行き渡いきわたるわけでない。円えん安やすの恩恵おんけいが下請したうけ企業きぎょうに波及はきゅうし、賃金ちんぎんの引き上ひきあげなどのプラスの影響えいきょうをもたらすことが重要じゅうようだ」と指摘してきしています。

一方いっぽうで、宮永みやなが氏しは「日本にっぽん企業きぎょうが海外かいがいへの展開てんかいを進すすめて輸出ゆしゅつ基盤きばんが前まえと比くらべて小ちいさくなり、日本にっぽんはかつてのような貿易ぼうえき黒字くろじの国くにではなくなっているので、円えん安やすのプラスの効果こうかは年々ねんねん縮小しゅくしょうしているのも事実じじつだ。日本にっぽん企業きぎょうは近年きんねん、M＆Aを含ふくめて海外かいがいへの投資とうしを増ふやしてきたが、円えん安やすになれば海外かいがいのモノを買かう力ちからも相対そうたい的てきに小ちいさくなってしまう」としています。

そして、日本にっぽん経済けいざいの先行さきゆきについては「コロナ渦うずを抜ぬけて明あかるい兆きざしが出でてくるかと思おもっていたところに、世界せかい的てきなインフレと円えん安やすが重かさなって原材料げんざいりょう価格かかくの高騰こうとうが大おおきな波なみになり、企業きぎょう活動かつどうにおいて円えん安やすのマイナスの面めんが意識いしきされる機会きかいが多おおくなっている。この円えん安やす水準すいじゅんは続つづく可能かのう性せいがあるので、高こう付加ふか価値かち化かを一段いちだんと進すすめて、利益りえき率りつを下さげない工夫くふうをするなど、単たんなるコストダウン以外いがいの対応たいおうも考かんがえなければいけない局面きょくめんがきている」と話はなしています。