日本新聞: 芥川賞に今村夏子さんの「むらさきのスカートの女」

第だい161回かい芥川あくたがわ賞しょうと直木なおき賞しょうの選考せんこう会かいが東京とうきょうで開ひらかれ、芥川あくたがわ賞しょうに今村いまむら夏子なつこさんの

「むらさきのスカートの女おんな」が選えらばれました。直木賞なおきしょうは、今いまも選考せんこうが続つづいています。

芥川あくたがわ賞しょう候補こうほ作さく（５ご作品さくひん）

今回こんかいの選考せんこう会かいでは、芥川賞あくたがわしょうは５いつつの作品さくひんが候補こうほ作さくに選えらばれていました。

今村いまむら夏子なつこさん「むらさきのスカートの女おんな」

「こちらあみ子こ」でデビューした今村いまむらさんは、３さん回かい目めの候補こうほです。

この作品さくひんは、近所きんじょに住すむ「むらさきのスカートの女おんな」と呼よばれる女性じょせいについて「わたし」が見聞みききしたことをつづった小説しょうせつです。

「むらさきのスカートの女おんな」の日常にちじょう生活せいかつや職場しょくばでの仕事しごとぶりが平易へいいな文章ぶんしょうで淡々たんたんと記しるされていくなかで、友ともだちになりたいと思おもって執しつように観察かんさつを続つづける「わたし」の異常いじょうな行動こうどうが、次第しだいに浮き彫うきぼりになっていきます。

高山たかやま羽はね根子ねこさん「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」

高山たかやまさんは前回ぜんかい初はじめて芥川あくたがわ賞しょうの候補こうほになり、２に回かい連続れんぞくです。

この作品さくひんは、主人公しゅじんこうの女性じょせいが幼少ようしょう期きから高校こうこう時代じだいまでの過去かこを回想かいそうしながら、かつて高校こうこうの同級生どうきゅうせいだった男おとこと再会さいかいするまでの出来事できごとを描えがいた物語ものがたりです。

亡なくなった祖母そぼについての思い出おもいでや性的せいてきな嫌いやな記憶きおくなどの回想かいそうが繰り返くりかえし登場とうじょうし、過去かこが現実げんじつと重かさなっていく中なかで、女性じょせいが心こころの内うちに抱かかえていたものが少すこしずつ明あきらかになっていきます。

古市ふるいち憲けん寿ひさしさん「百ひゃくの夜よるは跳はねて」

古市ふるいちさんも、前回ぜんかいに続つづいて２に回かい目めの候補こうほになりました。

候補こうほ作さくは古市ふるいちさんの３さん作さく目めとなる小説しょうせつで、就職しゅうしょく活動かつどうに挫折ざせつしてビルの窓まどガラスの清掃せいそう員いんをしている20代だいの青年せいねんが主人公しゅじんこうです。

危険きけんと隣り合となりあわせの作業さぎょうを続つづけるなか、高層こうそうマンションのガラス越ごしに目めが合あった年老としおいた女性じょせいの部屋へやに通かようようになることで、生いきる気力きりょくをなくしていた青年せいねんが少すこしずつ変かわっていく様子ようすが丁寧ていねいな描写びょうしゃで表現ひょうげんされています。

古川ふるかわ真人まさとさん「ラッコの家いえ」

デビュー作さくが芥川賞あくたがわしょうの候補こうほになった古川ふるかわさんは、３さん回かい目めです。

作品さくひんは、九州きゅうしゅう地方ちほうに住すむ視力しりょくをほとんど失うしなった１いち人にん暮くらしの年老としおいた女性じょせいが主人公しゅじんこうです。

めいと夕食ゆうしょくを食たべたり買い物かいものに出でかけたりするありふれた日常にちじょうが描えがかれる中なかで、過去かこや空想くうそうの世界せかいを交まじえた女性じょせいの意識いしきの流ながれが、改行かいぎょうがほとんどない独特どくとくの文体ぶんたいで丁寧ていねいに表現ひょうげんされています。

李り琴こと峰みねさん「五いつつ数かぞえれば三さん日月じつげつが」

おととしデビューした李りさんは、初はじめて候補こうほに選えらばれています。

作品さくひんは、作者さくしゃ自身じしんと同おなじように日本にっぽんに留学りゅうがくしてそのまま働はたらくようになった台湾たいわん出身しゅっしんの女性じょせいが、台湾たいわんへ留学りゅうがくして現地げんちで家庭かていをもった友人ゆうじんの日本人にっぽんじん女性じょせいと東京とうきょうで５ご年ねんぶりに再会さいかいする物語ものがたりです。

食事しょくじをともにして近況きんきょうを報告ほうこくし合あうなかで、友人ゆうじんに対にたいして長ながく秘ひめていた思おもいを伝つたえられずに悩なやむ主人公しゅじんこうの繊細せんさいな心情しんじょうを、漢詩かんしを織おり交まぜながら表現ひょうげんしています。

直木なおき賞しょう候補こうほ作さく（６ろく作品さくひん）

今回こんかいの選考せんこう会かいでは、直木なおき賞しょうは６むっつの作品さくひんが候補こうほ作さくに選えらばれていました。

朝倉あさくらかすみさん「平場ひらばの月つき」

朝倉あさくらさんは、今回こんかい初はじめて候補こうほとなりました。

この作品さくひんは、印刷いんさつ会社かいしゃに勤つとめる50歳さいを過すぎた男性だんせいが主人公しゅじんこうです。

妻つまと離婚りこんしたあと中学校ちゅうがっこうの同級生どうきゅうせいだった女性じょせいと偶然ぐうぜん再会さいかいし、２に人にんの距離きょりが近ちかづいていくなかで、男性だんせいがさまざまな思おもいを抱だいて日々ひびを過すごしていく様子ようすが、丁寧ていねいに描えがかれています。

大島おおしま真寿美ますみさん「渦うず妹背山しはいやま婦女ふじょ庭訓ていきん魂たましい結むすび」

大島おおしまさんは「あなたの本当ほんとうの人生じんせいは」以来いらい、２に回かい目めの候補こうほです。

この作品さくひんは、江戸えど時代じだいの大坂おおさか・道頓堀どうとんぼりを舞台ぶたいに活躍かつやくした人形にんぎょう浄瑠璃じょうるりの作者さくしゃ、近松ちかまつ半二はんじを主人公しゅじんこうにした時代じだい小説しょうせつです。

現代げんだいの文楽ぶんらくでも愛あいされる演目えんもくを生み出うみだした半二はんじが、逆境ぎゃっきょうを乗り越のりこえて作品さくひんを作り出つくりだしていく様子ようすを、大阪おおさか弁べんを駆使くししたテンポのよい文体ぶんたいで描えがいています。

窪くぼ美よし澄きよしさん「トリニティ」

窪くぼさんも、前々回ぜんぜんかいの「じっと手てを見みる」に続つづいて２に回かい目めです。

作品さくひんは、1960年代ねんだいに同おなじ出版しゅっぱん社しゃで出会であった３さん人にんの女性じょせいたちの半生はんせいを、昭和しょうわから平成へいせいにかけての時代じだい背景はいけいを織おり交まぜながら描えがいた物語ものがたりです。

フリーライター、イラストレーター、そして専業せんぎょう主婦しゅふとして異ことなる道みちを歩あゆんでいく３さん人にんが、今いまよりもはるかに男性だんせい中心ちゅうしんだった社会しゃかいの中なかで、仕事しごとや結婚けっこん、子育こそだてなどを巡めぐるさまざまな問題もんだいに直面ちょくめんしながらそれぞれの生き方いきかたを選えらび取とっていくさまが、繊細せんさいな筆致ひっちで描えがかれています。

澤田さわだ瞳子とうこさん「落花らっか」

歴史れきし・時代じだい小説しょうせつを手てがける澤田さわださんは、３さん回かい目めの候補こうほに。

作品さくひんは、平安へいあん時代じだい中期ちゅうき、独特どくとくの節ふしをつけて経けいを唱となえる「梵唄ぼんばい（ぼんばい）」の第だい一いち人にん者しゃと言いわれた僧そうの「寛ひろし朝あさ（かんちょう）」が主人公しゅじんこうです。

京きょうを離はなれ、平将門たいらのまさかどが勢力せいりょくを広ひろげる関東かんとうにやってきた寛ひろし朝あさが、戦せんに巻き込まきこまれながら究極きゅうきょくの音楽おんがくを探し求さがしもとめる姿すがたを、フィクションを交まじえながら丁寧ていねいに描き出えがきだしています。

原田はらだマハさん「美うつくしき愚おろかものたちのタブロー」

原田はらださんは、４よん回かい目めの候補こうほです。

この作品さくひんは、ことし開館かいかん60周年しゅうねんを迎むかえた国立こくりつ西洋せいよう美術館びじゅつかんの礎いしずえとなった「松方まつかたコレクション」を巡めぐる物語ものがたりです。

大正たいしょう時代じだいに美術館びじゅつかんの設立せつりつを夢見ゆめみてパリなどで名画めいがを収集しゅうしゅうした実業じつぎょう家かの松方まつかた幸次郎こうじろうの足跡あしあとと、その後そのご、戦争せんそうの動乱どうらんに巻き込まきこまれたコレクションの数奇すうきな運命うんめいが描えがかれ、アートが持もつ「力ちから」や文化財ぶんかざいを後世こうせいに残のこしていく意味いみについても問といかけます。