外国人は日本のどこで増えているのか。NHKが最新のビッグデータで全国各地を独自に分析したところ、意外なエリアが見つかりました。
地図を使ったデータ分析から見る、インバウンド最前線です。
分析に使用したのは、外国人旅行者がどこに多くいるのか、日本全国1キロ四方ごとにわかるデータです。
携帯電話の基地局からプライバシーを保護した形で集めて、その人数を推計しています。(※長期間の滞在については除外。データ詳細は文末に記載)
2024年のデータで、まずは首都圏を詳しく見ていきます。
赤色が濃いほど、外国人が多いエリアです。
東京都内は山手線の周辺のほか、井の頭公園やスタジオジブリの美術館がある吉祥寺周辺、サンリオピューロランドがある多摩など、海外にも人気の観光施設があるエリアに多いことが分かりました。
また、神奈川県では横浜、千葉県は東京ディズニーランドのある浦安や成田空港周辺などが赤くなっています。
続いて、北海道です。
札幌駅周辺に、新千歳空港、小樽、そしてスキーリゾートとして人気のニセコ・ルスツエリアが赤くなっています。
札幌市からアクセスのよい温泉地も人気です。
関西圏です。
大阪府は道頓堀や大阪城、ユニバーサルスタジオジャパンなどが集まる大阪市に加えて、北部では太陽の塔がある万博記念公園などの周辺が赤くなっています。
京都府では京都市内の中心部、西の嵐山、北の鞍馬寺に三千院の周辺。
兵庫県では神戸港に有馬温泉、奈良県は東大寺など有名な寺院が集まる中心部。
やはり、外国人旅行者は、都市部や有名な観光地に集中していることが分かりました。
意外にも 増えたところは…
一方、「多いところ」ではなく「増えたのはどこか」を、コロナ禍前の2019年と比較・分析してみました。
すると…意外とも言える、最新のトレンドが浮かび上がってきました。
▼10%以上の増加は、
▼増減が10%未満は、白
▼10%以上の減少は、
▼そして、2019年には0人だった、つまり新たに外国人が増加したエリアは、で表示しています。
首都圏では、都市部といっても全域が必ずしも増加しているわけではなく、ほぼ変化がない、さらには減少しているエリアも見られました。
千葉県では成田空港周辺から離れた場所にも黄色いエリアが見られ、旅行者の動きがより郊外へと広がっていました。
続いて、北海道。
ニセコ・ルスツエリアはコロナ禍前よりも増えていましたが、札幌市は減少のエリアが多くなっていました。
一方で、新千歳空港の北の恵庭市、南の苫小牧市などでは、増加の赤色にくわえ、新たに外国人が増えた黄色が広がっています。
空港を降りた後、すぐに札幌方面に向かうのではなく途中の恵庭市に立ち寄る、または逆側の苫小牧市に向かうといった行動の変化が表れているといえそうです。
とりわけ、特徴的な変化が見えたのが、静岡県の焼津市周辺です。
市内から沿岸にかけて、増加の赤、そして新たに外国人が来るようになった黄色が広がっています。
いったい何が起きているのか。
現地に向かうと、毎日のように外国人が訪れるという場所が見つかりました。
“町の魚屋”に魅せられて
地元で60年続く老舗の鮮魚店。
店主の前田尚毅さん。
魚の鮮度を保つ技術を徹底的に磨いたそのワザはSNSなどで広がり、海外のレストランやシェフだけでなく、観光客からも注目されていました。
「以前は東京や大阪に行っていましたが、このために来ました。これから毎月来るでしょう」(上海から)
「前田さんの目利きがすごいです」(北京から)
「店を目指して焼津に海外からきてくれてることもうれしいですが、“ほかにおすすめの観光場所はどこか”と聞かれることもあって、食をきっかけに町全体の観光につながっているのもうれしいですね」
日々の食卓を支える町の鮮魚店は、食だけでなく、地域の様々な魅力を伝えるきっかけにもなっていました。
外国人が自転車をレンタルして古い家並みの残る港町を見て回るなど、地域の暮らしや風景を楽しむ動きもあるといいます。
「観光案内所を訪れる外国人もコロナ禍以降増えてきていて、地元の人も知らないような地名を聞いてくることがあり、驚きます。焼津の魅力が世界に広がっていると感じます」
“日本の日常”に魅せられて
さらに、印象的だった地域が関西圏です。
特に大阪府は、中心部の大阪城やテーマパーク周辺など一部の観光地周辺を除いて、減少の青色が目立っていました。
その一方で、目立って増えていたのが、大阪の南部の泉南地域です。
広い範囲で増加し、さらに内陸の山側にかけても新たに外国人が増えた黄色のエリアが広がっています。
インバウンドは都市部への集中が課題とされていますが、より詳細なデータで見ていくと、都市部やその周辺であっても、場所によっては必ずしも増えているわけではないようです。
では、都市部と比べ有名な観光地が多いわけでもない郊外に、外国人は何をもとめて足を運んでいるのでしょうか。
泉南地域にそのヒントを探しに行きました。
商店街は“アニメのような景色”
関西空港からほど近い泉佐野駅の駅前を歩いていると…
喫茶店や青果店、居酒屋が並ぶごく普通の商店街に、オーストラリアから来た男性の姿がありました。
写真を撮りながら周辺を1時間ほど散策しているという男性。
商店街の細い路地を撮影していました。
「日本の風景が好きでローカルな場所を見ている。カメラで風景を撮りながら、日本の日常生活を感じられて楽しい」
うどん店から出てきた、韓国から訪れたこちらの男性。
小さな子どもを連れた家族旅行。最後の2日間を、この地域で楽しんでいるといいます。
どんなものを食べたのか、聞いたところ…
地元の人になじみの店のカツ丼、そしてコンビニで買ったお弁当。
私たちが普段するような食事も楽しんでいました。
「高い建物が建ち並ぶミナミなどの大阪市中心部と違って、この地域は建物が低く、アニメで見た日本の町並みのような景色が広がっているのがいいです。飲食店も日本人客が多かったのでローカルな感じが味わえてよかったです」
現場で話を聞いていると、「日本の日常」というキーワードが見えてきました。
銭湯にも外国人が!?
駅から離れて、すこし郊外に向かいます。
幹線道路に沿って車を走らせると、よく見るような銭湯が見えてきました。
地元の人たちが利用しているいわゆる“お風呂屋さん”でしたが、この銭湯、地図アプリのレビューでいくつも外国語の書き込みがありました。
「素晴らしい浴場」(ロシア語)
「家族と一緒にリラックスできる素敵な場所。接客はいつも親切です」(スペイン語)
「リーズナブルで施設も充実。休憩するには最適です」(中国語)
店長
「関西国際空港に近く、以前は中国からの観光客のバスツアーが訪れることも多かったのですが、最近では、それに加えて家族旅行で訪れるアジア系のお客やヨーロッパ、ロシアなどからも来るようになりました」
観光地の温泉街だけでなく、私たちも利用する身近な銭湯も外国人にとっては魅力のようです。
さらに山手に向かうと、見えてきたのは泉南市のゴルフ場。ここにも外国人が訪れていました。
この日、グリーンにいたのは韓国から来た4人組。
「韓国ではゴルフはお金持ちがやる遊びで、すごく高いからできません。だからゴルフを楽しむために日本にきています。友達に教えられてこのゴルフ場に来ましたが、安いのにすごくよかったので、帰国したらゴルフ友達に広めたいです」
韓国ではコロナ禍で密を避ける流れからゴルフ人気が高まり、今は若い世代にも広がっているそうです。
「インバウンドの呼び込みは全くしていないのですが、去年の4月ごろから急に増え始めました。特に韓国からの方が多く、向こうでは日本の数倍の料金がかかるようです。韓国との直行便が多い九州では増えてきたと聞いてたのですが、まさかこちらでも増えてくるとは全然思っていませんでした」
地元の商店街に、うどん店、銭湯、そしてゴルフ。
「めっちゃ普通の町やねんけど、何してんねん」
そう話す地元の人も少なくありませんでしたが、“日本の普通の景色や”、“日常の生活”が外国人の目には新鮮に映っているようです。
こうした外国人の動きの変化に専門家は。
「日本への旅行はリピーターが増えていて、定番の観光地ではなくその周辺まで足を延ばしたくなる傾向がデータにも現れているといえる。そして、日本人がどのような日常を過ごしているのか自分たちも体感したい、という観光客も増えていて、“高級な店よりも地元に人気のある店”、“有名な観光地よりも日本人の日常に近い町”というトレンドが強まっていると考えられる」
共存のために
「日本の日常」を求めて訪れる人たちが増えている一方で、取材のなかで戸惑いの声も聞かれました。
飲食店
「店が外国人客ばかりで埋まってしまうと地元の常連客が入れなくなる。一過性のものになる可能性があるインバウンドを重視しすぎるのもリスクだと考えている」
会員制のスーパー
「会員じゃないと買えないが、言葉の壁があり外国人にはうまく理解してもらえず、やむなくレジに通してしまったことがある」
ゴルフ場
「風呂場でのマナーや料理の細かい説明などに苦労している。既存のお客さんが離れてしまわないかは心配」
こうした事態にどう対応すべきか。
「本来は観光地ではない場所に観光客が集まってしまうと、ごみや景観、安全の問題が出てきてしまう。後手にならないように、“最近外国人が多いな”というタイミングでの先手の対策が必要。インバウンドに前向きに対応する場合は、日本のマナーに沿ったうえで日本の日常を体験してほしいと、多言語の張り紙などで案内をしてみるのもよい」
そのうえで、データ分析はオーバーツーリズムを緩和するひとつのヒントにもなりうると指摘します。
「観光地以外でも外国人をひきつけている地域をデータから見つけ、その背景を探ることで、有名な観光地だけにインバウンドを集中させるのではなく、より広い地域で受け入れることができるのではないか」
地元の人たちの“普通の暮らし”を守ることが、“ローカル感”の需要を満たすことにもつながります。
お互いが歩み寄りどう共存していけるか、今後の鍵となりそうです。
(機動展開プロジェクト 齋藤恵二郎 / 新潟局 奥村敬子 / ニュースメディア部 堀内新)
データ詳細
データ提供:「モバイル空間統計」(ドコモ・インサイトマーケティング)
※携帯電話の基地局からプライバシーを保護した形でデータを集め、1キロ四方ごとに外国人旅行者の人数を推計。なお、長期間の滞在については推計から除外し、また、推計値が一定数を下回るデータについては分析から除外している。