日本新聞: 「教師と生徒」と「師と弟子」のちがい

「教師きょうしと生徒せいと」と「師しと弟子でし」は、位相いそうは似にているようでいて、まったく質しつの異ことなるものである。弟子でしは師しを選えらぶことができるが、生徒せいとは教師きょうしを選えらぶことができない。師しも弟子でしを選えらぶことができるが、教師きょうしは生徒せいとを選えらぶことができない。師しはいわば固有こゆうの独立どくりつした存在そんざいであるのに対たいし、教師きょうしは多数たすうの中なかの偶然的ぐうぜんてきな一人ひとりにすぎない。「師しと弟子でし」は「教師きょうしと生徒せいと」の煮につめられた模範もはんではない。「教師きょうしと生徒せいと」という関係かんけいは近代的きんだいてきなものであるが、「師しと弟子でし」は思想しそう・宗教しゅうきょう・武術ぶじゅつ・技能ぎのう・芸術げいじゅつなどの世界せかいに昔むかしから存在そんざいしてきた。「師しと弟子でし」とは、「特別とくべつに卓越たくえつした人ひと」からその「優すぐれたもの」を真摯しんしに学まなぼうとする、きわめて個別的こべつてきで特別とくべつなつながりである。弟子でしは何なにを学まなぼうとしているかを明確めいかくに意識いしきしているが、生徒せいとの場合ばあい、自分じぶんが学まなぶことになる知識ちしきや技術ぎじゅつ、生活せいかつの広ひろがりについて、ほとんど自覚じかくしていないことが多おおい。「教師きょうしと生徒せいと」の関係かんけいは、私わたし(個人こじん)と私わたし(個人こじん)のつながりではなく、公的こうてきな役割やくわりどうしの関係かんけいであり、心こころのつながりは二次的にじてきなものである。つまり、個人こじんと個人こじんが求もとめ合あって生うまれる関係かんけいではなく、社会しゃかい{システム}によって媒介ばいかいされた関係かんけいである。
それに対たいして、「師しと弟子でし」は本来ほんらい、個人こじん的な結むすびつきであり、「求もとめるもの」「到達とうたつすべきもの」「語かたるべきもの」を共有きょうゆうする関係かんけいである。かなりの精神的せいしんてき部分ぶぶんで同志的どうしてきなつながりをもつと言いえるだろう。
「教師きょうしと生徒せいと」の関係かんけいの目的もくてきは、生徒せいとが社会しゃかいの中なかで一人ひとりの市民しみんとして成長せいちょうすることであり、「師しと弟子でし」のように深ふかく濃密のうみつな関係かんけいに昇華しょうかすることは通常つうじょうありえない。

「教師きょうしと生徒せいと」と「師しと弟子でし」のちがい

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