今月5日、モスクワの空港で、ロシアの航空会社の旅客機が着陸に失敗して機体が激しく炎上し、乗客乗員78人のうち41人が死亡しました。ロシア国営テレビの映像には、脱出した多くの乗客が大きなスーツケースやカバンを持っている様子が映されていて、現地では、手荷物の持ち出しが脱出の遅れにつながったという指摘が出ています。
これを受けて国土交通省は、旅客機から緊急脱出する時の注意点を改めてホームページに掲載し、手荷物を持つと自分の脱出の遅れだけでなくほかの乗客の妨げになるとして、荷物の持ち出しをしないよう呼びかけています。
緊急時の脱出をめぐっては、日本でも平成28年に新千歳空港や羽田空港で起きた事故の際、客室乗務員が手荷物を持たないよう繰り返し指示したにもかかわらず、多くの乗客が荷物を持ち出し避難・誘導に支障が出ました。
日本でも乗客荷物で脱出に支障
運輸安全委員会によりますと、平成28年2月、新千歳空港で日本航空の旅客機のエンジンから火が出て、乗客らが緊急脱出しました。
客室乗務員が手荷物を持たないよう指示したにもかかわらず、多くの乗客が荷物を持ち出そうとしたため、置いてから脱出するよう指示し、操縦室の扉の前に荷物が積み上げられる結果となりました。このためパイロット自身が客室に出られなくなり、避難・誘導に支障が出ました。
また、同じ年の5月に、羽田空港で大韓航空の旅客機のエンジンから火が出て緊急脱出が行われた際も、多くの乗客が荷物を持ち出していたことが問題点として指摘されました。
運輸安全委員会の前身の航空事故調査委員会が発足した昭和49年以降、脱出スライドを使った緊急脱出は15件行われ、中にはほかの乗客が持ち出したスーツケースが手に当たって骨折する事故も起きています。
荷物を持ってはならない理由
旅客機は緊急時に、乗客が座席に座った状態から90秒以内に全員脱出できるよう設計されていますが、手荷物を持たないことが前提となっています。
ヨーロッパの航空機メーカーのエアバスが行った緊急脱出の試験の映像では、乗客役の人たちが狭い通路を通って非常口に殺到したあと、脱出用のスライドから次々と滑り降りています。
このとき荷物を持ち出そうとするとどのような影響が出るのか、全日空の訓練施設で再現してもらいました。
座席の上の棚から荷物を取り出すためには、通路上に立たなければならず、ほかの乗客の妨げになります。また、肩掛けカバンのような荷物もベルトが座席の手すりなどに引っ掛かり、避難に支障が出るおそれがあります。
このほか、ハイヒールを履いたまま避難すると脱出用のスライドを傷つけて中のガスが抜けてしまうおそれがあるため、必ず脱ぐよう求めています。
全日空は、こうした注意点が乗客の印象に残るよう、機内で上映する安全ビデオの内容を刷新するなどの取り組みを進めています。
全日空客室基準チームの西村裕美子リーダーは「一刻も早く脱出する必要があり、手荷物は持たず、客室乗務員の指示に従ってほしい」と話しています。