長男ちょうなんの暴力ぼうりょくは中学ちゅうがくから 父親ちちおやの元もと農水のうすい次官じかん「身みの危険きけん感かんじた」

熊澤くまさわ容疑ようぎ者しゃは「長男ちょうなんは引ひきこもりがちで家庭かてい内ない暴力ぼうりょくがあった」と供述きょうじゅつしていますが、その後そのごの調しらべで、暴力ぼうりょくは中学ちゅうがく時代じだいから始はじまり、最初さいしょは母親ははおやに、その後そのご、父親ちちおやにも行おこなわれ、「身みの危険きけんを感かんじた」と供述きょうじゅつしていることが警視庁けいしちょうへの取材しゅざいで分わかりました。

さらに、先週せんしゅう、川崎かわさき市しで51歳さいの男おとこが小学生しょうがくせいらを包丁ほうちょうで殺傷さっしょうした事件じけんを見みて、「息子むすこも周まわりに危害きがいを加くわえるかもしれないと不安ふあんに思おもった」という趣旨しゅしの供述きょうじゅつをしているということです。

事件じけん直前ちょくぜんには、長男ちょうなんが小しょう学校がっこうの運動うんどう会かいの音おとがうるさいと腹はらを立たてたのに対にたいし父親ちちおやが注意ちゅういし、「周囲しゅういに迷惑めいわくをかけてはいけないと思おもった」と供述きょうじゅつしているということです。警視庁けいしちょうは、川崎かわさきの事件じけんを受うけて家庭かてい内ない暴力ぼうりょくが外そとに向むかうことを恐おそれた可能かのう性せいもあるとみて調しらべています。

長男ちょうなんのものと見みられるツイッターには

死亡しぼうした熊澤くまさわ英一郎えいいちろうさんのものとみられるツイッターのアカウントには、８はち年ねん前まえから連日れんじつ数すう十じゅう件けんの投稿とうこうが残のこされていました。

その中なかには、両親りょうしんについて書かいたとみられる内容ないようも含ふくまれていました。

父親ちちおやについては「庶民しょみんが、私わたしの父ちちと直接ちょくせつ会話かいわなんて、１いち億おく年ねん早はやいわ。立場たちばを弁わきまえろ。私わたしはお前おまえら庶民しょみんとは、生うまれた時ときから人生じんせいが違ちがう」などとその存在そんざいを特別とくべつ視しするかのような書き込かきこみをしていました。

一方いっぽう、母親ははおやに対にたいしては、プラモデルを壊こわされたという書き込かきこみの中なかで「自分じぶんの犯おかした罪つみの大おおきさを思い知おもいしれ」などと強つよい表現ひょうげんで責せめていました。

また、中２ちゅうにの時ときに母親ははおやに暴力ぼうりょくを振ふるったとする書き込かきこみも残のこしていました。

知人ちじん「元もと事務じむ次官じかんの息子むすこを公言こうげん」

オンラインゲームやＳＮＳを通をつうじて、熊澤くまさわ英一郎えいいちろうさん（44）と交流こうりゅうがあったという女性じょせいは「常つね日頃ひごろから元もと事務じむ次官じかんの息子むすこであると公言こうげんしていて、『何なにかトラブルがあれば父親ちちおやの権力けんりょくを駆使くししてなんとかするので相談そうだんして』と言いっていた。好き嫌すききらいの激はげしい人ひとだったので、オンラインゲームやＳＮＳ上じょうで敵対てきたいしている人ひとには、容赦ようしゃなく暴言ぼうげんを言いうことはあったが、親したしい人ひとにはプレゼントをくれたり、励はげましたりしてくれたりと、優やさしい面めんもあった」と話はなしていました。

また、インターネット上じょうで中傷ちゅうしょうされることに悩なやんでいたということで、事件じけんの２に日にち前まえの女性じょせいとのやり取やりとりでは、「１いち度どは自分じぶんもリアルを終おわりそうになった」と自暴じぼう自棄じきになっているような様子ようすもあったということです。

女性じょせいは「いつも苦くるしそうで、『心こころを開ひらいて話はなせる相手あいてがいない』とも言いっていた。一いち人にんで抱かかえてしまうと、どうしてもマイナス方向ほうこうになってしまうので、そういう人ひとを救済きゅうさいするようなシステムができてほしい」と話はなしていました。

事件じけんに至いたる経緯けいい

農林水産省のうりんすいさんしょうの事務じむ方かたトップ、事務じむ次官じかんまで務つとめた76歳さいの父親ちちおやと、44歳さいの長男ちょうなん。親子おやこの間まで何なにがあったのか、事件じけんに至いたる経緯けいいが少すこしずつわかってきました。

警視庁けいしちょうによりますと、長男ちょうなんの熊澤くまさわ英一郎えいいちろうさん（44）は、中学ちゅうがく２に年ねんのころから母親ははおやに暴力ぼうりょくを振ふるうようになったとみられています。

父親ちちおやの熊澤くまさわ英昭ひであき容疑ようぎ者しゃ（76）は「長男ちょうなんは中学生ちゅうがくせいのころから家庭かてい内ないで暴力ぼうりょくを振ふるうようになった」と話はなしているということです。

長男ちょうなんは高校こうこうに進学しんがくしましたが、その後そのご、両親りょうしんとは別々べつべつに都内とないの別べつの場所ばしょで暮くらしていたということです。

長男ちょうなんが再ふたたび練馬ねりま区くの住宅じゅうたくで両親りょうしんと暮くらすようになったのは、事件じけんのおよそ１いち週間しゅうかん前まえとなる、先月せんげつ下旬げじゅん。突然とつぜん、電話でんわで「実家じっかに帰かえりたい」と言いってきたということです。

その理由りゆうはわかっていませんが、捜査そうさ関係かんけい者しゃによりますと、当時とうじ住すんでいた都内とないの別べつの場所ばしょでごみの出だし方かたなどをめぐって近所きんじょの住民じゅうみんとトラブルになっていたということです。

実家じっかに帰かえってからの長男ちょうなんの様子ようすについて、父親ちちおやは「部屋へやにいることが多おおく、再ふたたび暴力ぼうりょくを振ふるうようになった」と話はなしているということです。

そして、事件じけん当日とうじつとなる、今月こんげつ１いち日にち。練馬ねりま区くの自宅じたくの隣となりにある小学校しょうがっこうでは、午前ごぜん中ちゅうから運動うんどう会かいが開ひらかれていました。父親ちちおやは、長男ちょうなんが運動うんどう会かいの声援せいえんなどについて「『うるさい』などと言いっていたほか、攻撃こうげき的てきな言動げんどうをしていた」と説明せつめいしているということです。

それについて、父親ちちおやが注意ちゅういし、その後そのご、事件じけんが起おきました。そして、父親ちちおやは午後ごご３さん時半じはんごろ、みずから「息子むすこを刺さした」と110番ばん通報つうほうしました。

警視庁けいしちょうの調しらべに対にたいし、父親ちちおやは「川崎かわさきの事件じけんを見みていて、自分じぶんの息子むすこも周まわりに危害きがいを加くわえるかもしれないと不安ふあんに思おもった」という趣旨しゅしの供述きょうじゅつをしているということです。

熊澤くまさわ容疑ようぎ者しゃ エリートポスト務つとめＢＳＥにも対応たいおう

熊澤くまさわ英昭ひであき容疑ようぎ者しゃは東大とうだい法学部ほうがくぶを卒業そつぎょう後ご、昭和しょうわ42年ねんに旧きゅう農林省のうりんしょうに入はいりました。

農林水産省のうりんすいさんしょうではエリートポストと言いわれた畜産ちくさん局長きょくちょうを務つとめ、そのあとには国際こくさい分野ぶんやを統括とうかつする事務じむ方かたナンバー２なんば-つ-の農林のうりん水産すいさん審議しんぎ官かんに就つきました。

国際こくさい分野ぶんやの担当たんとうが長ながく、ＧＡＴＴ＝ウルグアイラウンドなどではコメの関税かんぜい化かの対応たいおうに当あたりました。

平成へいせい13年ねんからは事務じむ方かたトップの事務じむ次官じかんとなりました。

国内こくないで初はじめてとなるＢＳＥの発生はっせいへの対応たいおうに当あたりましたが、畜産ちくさん局長きょくちょうだった際さいに未然みぜんに防ふせげなかったことの責任せきにんを厳きびしく問とわれ、次官じかん就任しゅうにんから１いち年ねんという短期たんきで退しりぞきました。

その後そのご、チェコ大使たいしや農村のうそんや漁村ぎょそんの生活せいかつ向上こうじょうを目的もくてきとした「農協のうきょう共済きょうさい総合そうごう研究所けんきゅうじょ」の理事りじ長ちょうを務つとめました。

熊澤くまさわ容疑ようぎ者しゃを知しる農林水産省のうりんすいさんしょうのＯＢお-び-は「省内しょうないの王道おうどうのポストを進すすんでいて、立派りっぱな仕事しごとをするかただった。このような家庭かてい内ないの事情じじょうは全まったく聞きいたことがなかった」と話はなしていました。

また、別べつのＯＢお-び-は「次官じかんだった時ときを知しっているが、このような事件じけんを起おこすようなそぶりは当時とうじ、全まったくなかった。川崎かわさきの事件じけんもあり、相当そうとう追い詰おいつめられていたのではないか」と話はなしていました。

前任ぜんにんの次官じかん「報道ほうどうを聞きき驚きょうがく」

熊澤くまさわ容疑ようぎ者しゃの前任ぜんにんの事務じむ次官じかんだった高木たかぎ勇樹ゆうき氏しがＮＨＫえぬえいちけいなどの取材しゅざいに応おうじ「報道ほうどうを聞きき驚きょうがくでした。ことばにならず、私わたし自身じしん、涙なみだが出でてくる感かんじです」と話はなしました。

そのうえで、熊澤くまさわ元もと次官じかんについて「私わたしが次官じかんの時ときに、当時とうじ農林のうりん水産すいさん審議しんぎ官かんだった熊澤くまさわさんと一緒いっしょになって、コメの関税かんぜい措置そちへの切り替きりかえが日本にっぽんの農業のうぎょうにとって、消費しょうひ者しゃにとって、プラスになるという思おもいで二に人にん三脚さんきゃくでやったことが非常ひじょうに印象いんしょうに残のこっています。仕事しごとぶりも非常ひじょうにしっかりして、いろんなところで助たすけられました。いろんなところに気配きくばりをして本当ほんとうにできた人ひとだった」と述のべました。

また、高木たかぎ氏しは熊澤くまさわ元もと次官じかんの家族かぞく関係かんけいについて「われわれは基本きほん的てきに家族かぞくのことは話はなしません。私わたしも熊澤くまさわさんに息子むすこがいること自体じたい知しりませんでした」と話はなしていました。

専門せんもん家か「社会しゃかい的てき孤立こりつの象徴しょうちょう」

ひきこもりが長期ちょうき化かして親子おやこが高齢こうれい化かし社会しゃかいから孤立こりつしていく問題もんだいは、それぞれの年齢ねんれいから「8050問題もんだい」と呼よばれています。

「8050問題もんだい」の名付け親なづけおやで、大阪おおさか・豊中とよなか市しの社会しゃかい福祉ふくし協議きょうぎ会かいの勝部かつべ麗子れいこさんは今回こんかいの事件じけんについて「親おやが子こどものひきこもりや家庭かてい内ない暴力ぼうりょくに悩なやみながらも親戚しんせきや近所きんじょに打ち明うちあけられず、自分じぶんでなんとかしなければいけないと孤立こりつを深ふかめるケースは多おおい。公的こうてきな制度せいどにも明あかるいかただったはずが、そういったかたでさえ相談そうだん窓口まどぐちにたどりつけない社会しゃかい的てき孤立こりつの象徴しょうちょうだと思おもった」と指摘してきしました。

また、父親ちちおやが先週せんしゅう、川崎かわさき市しで男おとこが小学生しょうがくせいらを殺傷さっしょうした事件じけんを受うけて「自分じぶんの息子むすこも周まわりに危害きがいを加くわえるかもしれないと不安ふあんに思おもった」という趣旨しゅしの供述きょうじゅつをしていることについては、「人ひとを傷きずつけることは決けっして肯定こうていはされないが、『親おやの育そだて方かたが悪わるい』、『親おやが何なんとかしなければいけない』という自己じこ責任せきにんのムードが社会しゃかいに広ひろがるとさらに声こえを出だすことができなくなり、追い詰おいつめられる家族かぞくが増ふえてしまう」と話はなしました。

そのうえで、「中学ちゅうがくのころから課題かだいがあったのであれば早期そうきに専門せんもん機関きかんにつなげることもできたかもしれないので、家族かぞくが孤立こりつしないよう相談そうだんできる環境かんきょうを整ととのえることが急務きゅうむだ」と話はなしていました。

経験けいけん者しゃの団体だんたい「一いち人にんで悩なやまず相談そうだんを」

今回こんかいの事件じけんのあと、ひきこもりの経験けいけん者しゃなどで作つくる団体だんたいには、不安ふあんに感かんじる家族かぞくなどからの問い合といあわせが、多おおく寄よせられています。団体だんたいは「自分じぶんや家族かぞくだけで悩なやまずに相談そうだんをしてほしい」と呼よびかけています。

全国ぜんこくでひきこもりに悩なやむ人ひとたちの声こえを聞きいたり、交流こうりゅう会かいを企画きかくしたりしている団体だんたい「ひきこもりＵＸゆ-えっくす会議かいぎ」です。メンバーの多おおくもひきこもりだった経験けいけんがあります。

この団体だんたいには、先月せんげつの川崎かわさき市しの殺傷さっしょう事件じけんや１いち日にち、東京とうきょうで農林水産省のうりんすいさんしょうの元もと事務じむ次官じかんが長男ちょうなんを刺さした事件じけんのあと、ひきこもりの当事者とうじしゃや家族かぞくから相談そうだんのメールが数多かずおおく寄よせられるようになったといいます。

相談そうだんは、「社会しゃかいから追い詰おいつめられているように感かんじる」とか、「自分じぶんも事件じけんを起おこすと思おもわれているのではないか」といった内容ないようだということで、団体だんたいでは、一いち人にんで悩なやまず相談そうだんするよう呼よびかけています。

代表だいひょう理事りじの恩田おんだ夏絵なつえさんは「ひきこもりになる人ひとにはさまざまな背景はいけいがあり、ひとくくりにして見みるのは非常ひじょうに危険きけんだ。ひきこもっている人ひとは社会しゃかいに復帰ふっきしようともがいている人ひとが多おおいが、本人ほんにんや家族かぞくだけではなかなか解決かいけつしない。年齢ねんれいが高たかいひきこもりの人ひとたちは、教育きょういくや福祉ふくしの支援しえんからこぼれてしまうケースもある。家族かぞくや本人ほんにんはどうか一いち人にんで悩なやまずに相談そうだんをしてほしい」と話はなしています。

専門せんもん家か「抱え込かかえこまず情報じょうほう共有きょうゆうを」

東京とうきょう・練馬ねりま区くの住宅じゅうたくで農林水産省のうりんすいさんしょうの元もと事務じむ次官じかんの76歳さいの父親ちちおやが44歳さいの長男ちょうなんを刺さして逮捕たいほされた事件じけんで、父親ちちおやが「川崎かわさきの事件じけんを見みていて自分じぶんの息子むすこも周まわりに危害きがいを加くわえるかもしれないと不安ふあんに思おもった」と供述きょうじゅつしていることについて、ひきこもりの人ひとや家族かぞくの取材しゅざいを続つづけているジャーナリストの池上いけがみ正樹まさきさんは「私わたしのもとにも『ひきこもっている子こどもを殺ころして自分じぶんも死しぬ』と父親ちちおやが言いって大だいげんかになったという相談そうだんのメールが母親ははおやから寄よせられるなど、不安ふあんを訴うったえる声こえがたくさん届とどいている。ひきこもりの子こどもがいる家庭かていでは似にたような状況じょうきょうが起おきているところも多おおいと思おもう」と話はなしています。

そして「ひきこもっているから事件じけんをおこすというようなことはないので、家族かぞくの皆みなさんは心配しんぱいをする必要ひつようはありません。川崎かわさきの事件じけんの場合ばあいは容疑ようぎ者しゃ自身じしんに何なにかしらの事情じじょうがあったのだと思おもいます。ひきこもっている本人ほんにんに『ひきこもり』だとかぶせるように言いったり、ひきこもっていることを悪わるく言いって存在そんざいを否定ひていしたり、働はたらけなくて家いえに居いるのに『働はたらけ』というなど傷口きずぐちに塩しおを塗ぬって追い込おいこむようなことはしないでほしい。追い詰おいつめることで、ものに当あたったり、まれに家族かぞくに暴力ぼうりょくをふるったりすることなどはあっても、それが外そとの人ひとに向むかって事件じけんを起おこすということにつながるわけではありません」と話はなしています。

そのうえで、どうしたらよいかについては「周まわりに知しられたくないと思おもい問題もんだいを抱え込かかえこんでしまうと、家族かぞくそれぞれがストレスを抱かかえ煮詰につまって悲劇ひげきにつながってしまいます。家族かぞく会かいなどに出でて、同おなじような当事者とうじしゃを抱かかえた人ひとたちにつながると理解し合りかいしあえたり、ヒントになるような気き付つきを得えられるので、情報じょうほうを共有きょうゆうするようにしてほしい」と話はなしていました。