ノーベル化学かがく賞しょうに米こめと独どくの研究けんきゅう者しゃ2人にん「ゲノム編集へんしゅう」新しん手法しゅほう開発かいはつ

受賞じゅしょうが決きまったのは、ドイツのマックス・プランク感染かんせん生物せいぶつ学がく研究所けんきゅうじょのエマニュエル・シャルパンティエ氏しと、アメリカ、カリフォルニア大学だいがくバークレー校こうのジェニファー・ダウドナ氏しの2人にんです。

2人にんはそれまであった方法ほうほうよりも効率こうりつ的てきで正確せいかくに遺伝いでん情報じょうほうを書き換かきかえることができる「CRISPR-Cas9」（クリスパー・キャスナイン）と呼よばれる、新あらたな「ゲノム編集へんしゅう」の手法しゅほうを開発かいはつしました。

受賞じゅしょう対象たいしょうの手法しゅほう 日本人にっぽんじん研究けんきゅう者しゃの発見はっけんがもとに

ノーベル化学かがく賞しょうの受賞じゅしょう対象たいしょうになったゲノム編集へんしゅうの手法しゅほう、「CRISPR-Cas9」は、日本人にっぽんじん研究けんきゅう者しゃが1980年代ねんだいに大腸菌だいちょうきんで見みつけたDNAの塩基えんき配列はいれつがもとになっています。

大阪おおさか大学だいがく名誉めいよ教授きょうじゅの中田なかた篤男あつおさん（90）と九州きゅうしゅう大学だいがく教授きょうじゅの石野いしの良純よしずみさん（63）のグループは、大阪おおさか大学だいがくで研究けんきゅうを行おこなっていた時とき、大腸菌だいちょうきんのDNAで同おなじ配列はいれつが5回かい繰り返くりかえされているのを見みつけ、1987年ねんに論文ろんぶんとして発表はっぴょうしました。

当時とうじは繰り返くりかえし現あらわれる配列はいれつが何なにを意味いみするのか分わかっていませんでしたが、その後そのご、この論文ろんぶんをもとにヨーロッパの研究けんきゅう者しゃが、この配列はいれつが外そとから侵入しんにゅうするウイルスなどの「外敵がいてき」を認識にんしきして攻撃こうげきする免疫めんえきの仕組しくみに関かかわっていることを突き止つきとめました。

大腸菌だいちょうきんでは、繰り返くりかえされる配列はいれつの間まに外敵がいてきの遺伝子いでんしが組み込くみこまれることで、外敵がいてきを認識にんしきして攻撃こうげきします。

この仕組しくみを応用おうようして、繰り返くりかえされる配列はいれつの間まに目的もくてきとする遺伝子いでんしを組み込くみこむと、遺伝子いでんしを切り貼きりはりするはさみの役割やくわりをしている物質ぶっしつを狙ねらった場所ばしょに届とどけることができるようになりました。

この技術ぎじゅつで狙ねらったとおりに遺伝子いでんしを切断せつだんしたり挿入そうにゅうしたりすることができるようになり、簡便かんべんで精度せいどがきわめて高たかいゲノム編集へんしゅうの方法ほうほうとして確立かくりつしています。

遺伝いでん情報じょうほうを簡単かんたんに、自在じざいに書き換かきかえられる「CRISPR-Cas9」は、日本にっぽんの研究けんきゅう者しゃによる塩基えんき配列はいれつの発見はっけんがもとになって開発かいはつにつながったのです。

今回こんかいのノーベル化学かがく賞しょうの受賞じゅしょう者しゃに選えらばれたドイツの研究けんきゅう機関きかんとアメリカの大学だいがくの研究けんきゅう者しゃの論文ろんぶんの中なかでも、中田なかたさんと石野いしのさんのグループの論文ろんぶんが引用いんよう論文ろんぶんとして紹介しょうかいされています。

新型しんがたコロナウイルスの研究けんきゅうでも

この技術ぎじゅつは、新型しんがたコロナウイルスの研究けんきゅうにすでに用もちいられています。

中国ちゅうごくでは、マウスに感染かんせんするウイルスの遺伝いでん情報じょうほうを「CRISPR-Cas9」で書き換かきかえて、感染かんせんの仕組しくみや、体からだへの影響えいきょうを調しらべる研究けんきゅうが行おこなわれています。

また、アメリカのマサチューセッツ工科大学まさちゅ-せっつこうかだいがくなどの研究けんきゅうグループは、この技術ぎじゅつを応用おうようしてウイルスの遺伝子いでんしを簡単かんたんに検出けんしゅつする検査けんさキットを開発かいはつし、キットはことし5月つき、FDA＝アメリカ食品しょくひん医薬品いやくひん局きょくの緊急きんきゅうの許可きょかを得えて、研究けんきゅう用ようとして使つかわれています。

このキットは、唾液だえきや鼻はなの奥おくから採取さいしゅした体液たいえきを温あたためたあと、特殊とくしゅな試験しけん紙しを浸ひたすことでウイルスの遺伝子いでんしがあるかどうかを20分ふん程度ていどで判定はんていできるとされていて、PCR検査けんさに比くらべて費用ひようも抑おさえられることから、大量たいりょうに検査けんさを行おこなうことができるとしています。

このほか複数ふくすうの企業きぎょうが、この技術ぎじゅつを応用おうようした検査けんさ方法ほうほうの実用じつよう化かを目指めざしています。

今回こんかい、ノーベル化学かがく賞しょうの受賞じゅしょうが決きまったカリフォルニア大学だいがくバークレー校こうの、ジェニファー・ダウドナ氏しは先月せんげつ、アメリカメディアのインタビューに対にたいし、この技術ぎじゅつを用もちいた検査けんさや薬くすりの開発かいはつは新型しんがたコロナウイルスだけでなく、ほかのウイルスなどで世界せかい的てきな大だい流行りゅうこうが起おきた際さいにも重要じゅうような役割やくわりを果はたすと述のべています。

医療いりょう面めんでも応用おうよう期待きたい

「CRISPR-Cas9」の手法しゅほうを使つかったゲノム編集へんしゅうは、患者かんじゃの治療ちりょうなど医療いりょう面めんでも応用おうようが期待きたいされています。

治療ちりょうが難むずかしいがんや遺伝いでん性せいの病気びょうきなどについて、病気びょうきの原因げんいんとなる遺伝子いでんしを操作そうさすることで、治療ちりょうできるのではないかと期待きたいされていて、アメリカではことし2月つき、がん患者かんじゃから取り出とりだした免疫めんえき細胞さいぼうにゲノム編集へんしゅうを行おこない、免疫めんえきの働はたらきを抑おさえる遺伝子いでんしを取り除とりのぞいて、がんの治療ちりょう効果こうかを確たしかめる臨床りんしょう試験しけんが行おこなわれたと発表はっぴょうされました。

一方いっぽうで、ヒトの遺伝子いでんしをゲノム編集へんしゅうで自在じざいに書かき変かえてしまうことには、たとえば、目めの色いろや高たかい知能ちのうなど、親おやが望のぞむ特徴とくちょうを持もつよう改変かいへんする「デザイナーベビー」を生み出うみだすことにもつながりかねないなど、倫理りんり的てきな問題もんだいが指摘してきされています。

おととしには中国ちゅうごくの研究けんきゅう者しゃが「CRISPR-Cas9」の手法しゅほうでエイズウイルスに感染かんせんしないよう受精じゅせい卵たまごの遺伝子いでんしを操作そうさして実際じっさいに女の子おんなのこの双子ふたごが誕生たんじょうしたことを発表はっぴょうし、世界中せかいじゅうに衝撃しょうげきが走はしりました。

現在げんざいのところ、ゲノム編集へんしゅうでは、狙ねらった場所ばしょ以外いがいの遺伝子いでんしを改変かいへんしてしまう可能かのう性せいが排除はいじょできないほか、遺伝子いでんしを操作そうさして悪あく影響えいきょうが出でた場合ばあい、子この代だい、孫まごの代だいと、世代せだいを超こえて引き継ひきつがれる可能かのう性せいもあり、この技術ぎじゅつをどう生いかしていくのか、遺伝子いでんしの改変かいへんはどこまで認みとめられるか、国際こくさい的てきな議論ぎろんが続つづけられています。

農水のうすい産物さんぶつの品種ひんしゅ改良かいりょうにも

「CRISPR-Cas9」によるゲノム編集へんしゅうは、世界せかい各国かっこくで農水のうすい産物さんぶつの品種ひんしゅ改良かいりょうに使つかわれるようになっています。

これまで農水のうすい産物さんぶつを品種ひんしゅ改良かいりょうして病虫害びょうちゅうがいに強つよくしたり、味あじをよくしたりするためには突然とつぜん変異へんいで現あらわれるのを待まつか、品質ひんしつのよいものを掛け合かけあわせ、繁殖はんしょくさせるなどする必要ひつようがあり、長ながい時間じかんがかかっていました。

これに対にたいして、「CRISPR-Cas9」の手法しゅほうによるゲノム編集へんしゅうでは狙ねらった遺伝子いでんしを非常ひじょうに高たかい精度せいどで操作そうさすることができるため、これまでにないスピードで行おこなうことができます。

アメリカでは、ゲノム編集へんしゅうを行おこなって、コレステロールの値ねを下さげる成分せいぶんを多おおく含ふくむ大豆だいずから搾り取しぼりとられた食用しょくよう油ゆが販売はんばいされています。

日本にっぽん国内こくないでも収穫しゅうかく量りょうが多おおくなるよう品種ひんしゅ改良かいりょうしたイネ、それに身みの量りょうが多おおいタイなどが開発かいはつされていて、去年きょねん10月つきからはゲノム編集へんしゅうを行おこなった食品しょくひんの流通りゅうつうが解禁かいきんされました。

血圧けつあつを下さげるとされる成分せいぶんを多おおく含ふくんだトマトを開発かいはつした企業きぎょうなどが販売はんばいのための手続てつづきを進すすめていて近ちかい将来しょうらい、こうした食品しょくひんの流通りゅうつうが始はじまると見みられています。

研究けんきゅう者しゃの間まで激はげしい特許とっきょ争あらそい

「CRISPR-Cas9」の技術ぎじゅつは、農業のうぎょうや医療いりょうなどさまざまな分野ぶんやで応用おうようされ、利用りようする企業きぎょうからの特許とっきょ料りょうも巨額きょがくになると見込みこまれることから、開発かいはつに関かかわった研究けんきゅう者しゃの間まで激はげしい特許とっきょ争あらそいが繰り広くりひろげられています。

特許とっきょ争あらそいは、技術ぎじゅつの基本きほん的てきな仕組しくみを開発かいはつしたアメリカ・カリフォルニア大学だいがくなどのジェニファー・ダウドナ教授きょうじゅらと、動物どうぶつやヒトの細胞さいぼうに応用おうようできることを最初さいしょに証明しょうめいしたアメリカ・マサチューセッツ州しゅうにあるブロード研究所けんきゅうじょのフェン・チャン博士はかせらの間まで裁判さいばんになってきました。

「CRISPR-Cas9」を動植物どうしょくぶつの細胞さいぼうに応用おうようすることの特許とっきょをめぐって、おととし9月つき、アメリカの連邦れんぽう控訴こうそ裁判所さいばんしょは、ブロード研究所けんきゅうじょ側がわに特許とっきょがあるという判断はんだんを示しめしていますが、去年きょねんになってアメリカでカリフォルニア大学だいがく側がわがブロード研究所けんきゅうじょ側がわの特許とっきょの取り消とりけしを求もとめる裁判さいばんを新あらたに起おこし、特許とっきょ争あらそいはまだ決着けっちゃくが付ついていません。