日本にっぽん列島れっとうは紀元前きげんぜんから文字もじ使用しようか 発掘はっくつされた石いしは「すずり」

刃物はものなどを研とぐ「砥石といし（といし）」と判断はんだんされていた石いしなどを詳くわしく調しらべ直なおした結果けっか、これまでにおよそ130点てんが「すずり」と判断はんだんされました。

ほぼ同おなじ時代じだいの中国ちゅうごくや朝鮮ちょうせん半島はんとうの遺跡いせきから見みつかったすずりと形かたちが似にていることに加くわえ、石いしのすり減すりへり方かたが砥石といしと異ことなるほか、一部いちぶには墨すみとみられる黒くろい付着ふちゃく物ぶつが付ついていたことなどから、「すずり」と判断はんだんしたということです。

調査ちょうさに当あたっている弥生やよい時代じだいの専門せんもん家かで、國くに學まなぶ院いん大学だいがくの柳田やなぎだ康雄やすお客員きゃくいん教授きょうじゅによりますと、「すずり」と判断はんだんした石いしは、九州きゅうしゅう北部ほくぶを中心ちゅうしんに西日本にしにほんの各地かくちに分布ぶんぷし、このうちの５ご点てんは弥生やよい時代じだい中期ちゅうきの紀元前きげんぜん100年ねんごろまでさかのぼるということです。

日本にっぽん列島れっとうでは古墳こふん時代じだい中期ちゅうきの５ご世紀せいきごろには、確実かくじつに文字もじが使つかわれ始はじめ、それより前まえは土器どきに書かかれた墨書ぼくしょなど、文字もじの可能かのう性せいを示しめす資料しりょうが見みつかっているものの、普及ふきゅうの実態じったいはよく分わかっていません。

柳田やなぎださんは九州きゅうしゅう北部ほくぶでは紀元前きげんぜんからすずりを使つかって文字もじを書かいていた可能かのう性せいがあるとして、「弥生やよい時代じだいは原始げんし時代じだいではなく、文字もじを持もった高度こうどな文化ぶんかや文明ぶんめいがあったと言いってもいい」と指摘してきしています。

なぜ「すずり」と判断はんだん？

研究けんきゅう者しゃたちが参考さんこうにしたのは、中国ちゅうごくの漢かんの時代じだいに使つかわれていた板いた状じょうの「すずり」です。

このうち、朝鮮ちょうせん半島はんとうで見みつかったすずりの復元ふくげん模型もけいは、漆うるし塗ぬりの豪華ごうかな台だいの上うえに平ひらたい石いしが置おかれ、この上うえで水みずを含ふくませながら粒状りゅうじょうの墨すみをすりつぶしたと考かんがえられています。

研究けんきゅう者しゃたちは、こうした形状けいじょうのすずりが北部ほくぶ九州きゅうしゅうなどにもあるのではないかと考かんがえ、発掘はっくつ調査ちょうさの報告ほうこく書しょに「砥石といし」と記しるされている平たいらで細長ほそながい形かたちをした石いしの再さい調査ちょうさを進すすめてきました。

細こまかい観察かんさつや実測じっそくを行おこなって、形かたちのほかにも砥石といしとは異ことなり、表面ひょうめんの中央ちゅうおう部分ぶぶんだけがくぼんでいることや、表面ひょうめんから垂たれたと思おもわれる墨すみのようなものが側面そくめんに付着ふちゃくしていることなど、すずりと判断はんだんできる特徴とくちょうを見みつけてきたということです。

確実かくじつな文字もじの使用しようは５ご世紀せいき

日本にっぽん列島れっとうでは飛鳥あすか時代じだい以降いこう、官僚かんりょう機構きこうや法律ほうりつが整備せいびされ、行政ぎょうせいに文書ぶんしょが欠かかせなくなったことなどから文字もじの普及ふきゅうが進すすみました。

文字もじが確実かくじつに使用しようされていたことを示しめす資料しりょうは、これより前まえの古墳こふん時代じだいにさかのぼります。

例たとえば埼玉さいたま県けんの稲荷山とうかやま古墳こふんで見みつかった古墳こふん時代じだい中期ちゅうき、５ご世紀せいきのものとみられる鉄てつ剣けんには115文字もじが刻きざまれ、この時期じきには文章ぶんしょうとして文字もじが使つかわれていたことが分わかります。

それ以前いぜんにも外交がいこうの際さいなどに文字もじが使つかわれていたと考かんがえられていますが、出土しゅつどした資料しりょうが文字もじかどうかを判断はんだんすることは難むずかしくなります。

三重みえ県けんで出土しゅつどした４よん世紀せいきの土器どきの「田た」と読よめる墨書ぼくしょや、長野ながの県けんで出土しゅつどした３さん世紀せいきの土器どきに刻きざまれた「大だい」と読よめる文字もじ資料しりょうなどがありますが、１いち文字もじだけの場合ばあいが多おおく、何なにが書かかれているのか、何なにのために書かかれたのか、明確めいかくになっていないのが現状げんじょうです。

また、福岡ふくおか市しの志賀しか島とうで見みつかったとされる国宝こくほうの金きん印しるしには、「漢かん委い奴やっこ国王こくおう」という５いつつの文字もじが彫り込ほりこまれていますが、西暦せいれき57年ねんに中国ちゅうごくの「後こう漢かん」から与あたえられたする考かんがえが有力ゆうりょくです。

外交がいこうや交易こうえきに利用りようか

日本にっぽん列島れっとうでも弥生やよい時代じだいからすずりが普及ふきゅうし、文字もじが書かかれていたとすれば、何なにのために使つかわれていたのか。

調査ちょうさを進すすめる１いち人にん、福岡ふくおか市し埋蔵まいぞう文化財ぶんかざい課かの久住ひさずみ猛雄たけおさんは、外交がいこうのほか交易こうえきに使つかわれていたと想定そうていしています。

久住ひさずみさんは古墳こふん時代じだいの石いしの破片はへん６ろく点てんをすずりと判断はんだんした福岡ふくおか市しの「西新にししん町まち遺跡いせき」に注目ちゅうもくしています。

この遺跡いせきは古墳こふん時代じだいには多おおくの渡来とらい人じんが訪おとずれ、朝鮮ちょうせん半島はんとうや日本にっぽん列島れっとうの各地かくちと行き来いききする交易こうえきの拠点きょてんと考かんがえられています。

また、すずりと判断はんだんされた石いしが出土しゅつどした遺跡いせきの多おおくは海うみや川かわに面めんし、港みなとの機能きのうがあったと考かんがえられることから、久住ひさずみさんはこうした場所ばしょでは交易こうえきのために文字もじが使つかわれていたと見みています。

久住ひさずみさんは「長距離ちょうきょりを結むすぶ交易こうえきのネットワークに関かかわる人ひとたちが、交易こうえきの記録きろくや品物しなものの名前なまえや数かずなどを書き留かきとめて記録きろくすることに文字もじを使つかっていたと考かんがえられる」と話はなしていました。