台風たいふう19号ごう 緊急きんきゅう放流ほうりゅうの６ろくダム 事前じぜん放流ほうりゅうの実施じっし体制たいせい整ととのっておらず

台風たいふう19号ごうによる豪雨ごううでは関東かんとうや東北とうほくを中心ちゅうしんとする146のダムで、洪水こうずいを防ふせぐために下流かりゅうに放流ほうりゅうする水みずの量りょうを抑制よくせいする「洪水こうずい調節ちょうせつ」が行おこなわれました。

このうち、いずれも県けんが管理かんりする福島ふくしま県けんの高柴たかしばダム、茨城いばらき県けんの水沼みずぬまダム・竜神りゅうじんダム、栃木とちぎ県けんの塩原しおばらダム、神奈川かながわ県けんの城山しろやまダム、それに国くにが管理かんりする長野ながの県けんの美和みわダムでは貯水ちょすい量りょうが限界げんかいを超こえると予想よそうされたため、流入りゅうにゅうしてくる水みずと同おなじ程度ていどの量りょうを放流ほうりゅうする「緊急きんきゅう放流ほうりゅう」が行おこなわれました。

「緊急きんきゅう放流ほうりゅう」をすると下流かりゅうで氾濫はんらんのおそれがでるため、国くには１ひとつの回避かいひ策さくとして、事前じぜんに水みずを放流ほうりゅうしてダムの水位すいいを下さげ容量ようりょうを確保かくほする「事前じぜん放流ほうりゅう」が有効ゆうこうだとしています。

ただ雨あめが少すくなかった場合ばあいにはダムの水みずを水道すいどうや発電はつでん、農業のうぎょうなどに使つかう利用りよう者しゃに影響えいきょうが出でるため、「事前じぜん放流ほうりゅう」を行おこなうにはあらかじめ実施じっし体制たいせいを整ととのえておく必要ひつようがあります。

しかしＮＨＫえぬえいちけいが取材しゅざいしたところ、この６むっつのダムすべてで、あらかじめ水みずの利用りよう者しゃと協議きょうぎして事前じぜんに水みずを放流ほうりゅうするルールを決きめていないなど、「事前じぜん放流ほうりゅう」の実施じっし体制たいせいが整ととのっていなかったことが分わかりました。

このうち高柴たかしばダムや美和みわダムなど台風たいふうの接近せっきんに伴ともなって、急きゅうきょ、利用りよう者しゃに了承りょうしょうを得えるなどして「事前じぜん放流ほうりゅう」をしたダムもありましたが、水みずの量りょうが回復かいふくしない場合ばあいを懸念けねんし、積極せっきょく的てきに水位すいいを下さげることができていませんでした。

国土こくど交通こうつう省しょうによりますと、全国ぜんこくのダムで実施じっし体制たいせいが整ととのっているのは１いち割わりほどしかないということで、あらかじめ水みずの利用りよう者しゃと調整ちょうせいするなど、「事前じぜん放流ほうりゅう」ができる体制たいせいを整ととのえるよう促うながしていく方針ほうしんです。

ダムに詳くわしい京都きょうと大学だいがくの角すみ哲也てつや教授きょうじゅは「災害さいがいが迫せまる中なか、利水りすい者しゃとの調整ちょうせいができていない状況じょうきょうで事前じぜん放流ほうりゅうの判断はんだんをすることは非常ひじょうに難むずかしく、事前じぜんにルールを決きめておくことが極きわめて重要じゅうようだ。去年きょねんの西日本にしにほん豪雨ごううを教訓きょうくんに西日本にしにほんではルールを決きめたダムが少すこしずつ増ふえているが、東日本ひがしにっぽんではまだ少すくなく、台風たいふう19号ごうを教訓きょうくんに動うごきが広ひろがっていってほしい」と話はなしていました。

「事前じぜん放流ほうりゅう」２ふたつの課題かだい

「事前じぜん放流ほうりゅう」は台風たいふうや豪雨ごううなどによってダムの下流かりゅうで洪水こうずいの危険きけんが予想よそうされた際さいに、本来ほんらいなら水道すいどうや発電はつでんなどで使つかう水みずの容量ようりょうの一部いちぶを放流ほうりゅうし、事前じぜんにダムの水位すいいを下さげる操作そうさのことを言いいます。

「事前じぜん放流ほうりゅう」を行おこなうには水みずの利用りよう者しゃとあらかじめ協議きょうぎしてルールや体制たいせいを整ととのえておく必要ひつようがありますが、国土こくど交通こうつう省しょうが調査ちょうさしたところ、体制たいせいが整ととのっているのは先月せんげつ時点じてんで、全国ぜんこくの562ダム中ちゅう、わずか54ダムだったということです。

なぜ体制たいせいが整ととのわないのか。課題かだいとして挙あげられるのが、「渇水かっすいのリスク」と「ダムの構造こうぞう」の問題もんだいです。

【課題かだい１いち：渇水かっすい時じのリスク】

洪水こうずい調節ちょうせつをするために本来ほんらい、水道すいどうや発電はつでんに使つかうための水みずを事前じぜんに放流ほうりゅうした場合ばあい、もし大雨おおあめが降ふらずに放流ほうりゅう分ぶんの水みずが戻もどらなければ、水みずの利用りよう者しゃに大おおきな影響えいきょうが出でてしまいます。

台風たいふう19号ごうでは結果けっかとして大雨おおあめが降ふり、多おおくのダムに大量たいりょうの水みずが流れ込ながれこみましたが、秋あきや冬ふゆの時期じきは降水こうすい量りょうも少すくなく、渇水かっすいのリスクが特とくに懸念けねんされます。

このため「事前じぜん放流ほうりゅう」の導入どうにゅうにあたっては水みずの利用りよう者しゃにとって最低さいてい限げんどのくらいの貯水ちょすい量りょうが必要ひつようなのか、放流ほうりゅうの結果けっか、渇水かっすいが起おきた場合ばあいの補償ほしょうをどうするか、あらかじめダム管理かんり者しゃと水みずの利用りよう者しゃが難むずかしい協議きょうぎを進すすめる必要ひつようがあり、課題かだいとなっています。

さらに渇水かっすいを防ふせぐためには、数すう日にち先さきの雨水あまみずの流入りゅうにゅう量りょうを把握はあくすることも重要じゅうようで、気象きしょう予測よそくの精度せいどをいかにあげていくかも課題かだいとなっています。

【課題かだい２に：ダムの構造こうぞう上じょう 不可能ふかのう】

ダムによっては容量ようりょうに事前じぜん放流ほうりゅうができるだけの余裕よゆうがなかったり、そもそも水みずを流ながすためにダムに設置せっちされている「放流ほうりゅう管かん」の位置いちを下さげないと多おおくの量りょうを放流ほうりゅうできないなど、物理ぶつり的てきに「事前じぜん放流ほうりゅう」ができないダムもあります。

これについてはダムの本体ほんたいをかさ上あげして貯水ちょすい容量ようりょうを増ふやすことや新あらたな放流ほうりゅう管かんの設置せっちなどが必要ひつようで、多おおくの時間じかんと資金しきんが課題かだいとなっています。

高柴たかしばダム“ルールなし”も急きゅうきょ事前じぜん放流ほうりゅう

「緊急きんきゅう放流ほうりゅう」を行おこなった６むっつのダムのうちの１ひとつ、福島ふくしま県けんの高柴たかしばダムもあらかじめ水みずの利用りよう者しゃとルールを決きめていないなど、「事前じぜん放流ほうりゅう」の実施じっし体制たいせいが整ととのっていませんでした。

福島ふくしま県けん鮫川さめがわ水系すいけいダム管理かんり事務所じむしょによりますと、高柴たかしばダムの水みずはいわき市しにある事業じぎょう者しゃなどに対にたいして工業こうぎょう用水ようすいとして提供ていきょうしているということです。

当時とうじは台風たいふうの接近せっきんに伴ともなってかなりの大雨おおあめが予想よそうされたことから、県けんの企業きぎょう局きょくに対にたいして了承りょうしょうを得えたうえで、急きゅうきょ水みずの利用りよう者しゃのための容量ようりょうのうちの４よん割わりほどを事前じぜん放流ほうりゅうしました。

しかしその後そのご、ダムの上流じょうりゅうで想定そうてい以上いじょうの大雨おおあめとなり、ダムが水みずをためられる限界げんかいを超こえる可能かのう性せいが高たかいとして、「緊急きんきゅう放流ほうりゅう」が行おこなわれました。

福島ふくしま県けん鮫川さめがわ水系すいけいダム管理かんり事務所じむしょの大竹おおたけ昭仁あきひと所長しょちょうは「事前じぜん放流ほうりゅうをしていなかったら、緊急きんきゅう放流ほうりゅうを行おこなう時間じかんが早はやまったり、放流ほうりゅうする水みずの量りょうがさらに増ふえ、ダムの下流かりゅう域いきで大おおきな氾濫はんらんを引き起ひきおこすおそれもあった」と話はなしていました。

一方いっぽうで、懸念けねんもありました。「事前じぜん放流ほうりゅう」をしても台風たいふうの進路しんろがそれて大雨おおあめが降ふらずに、放流ほうりゅうした分ぶんの水量すいりょうが戻もどらなかった場合ばあいのリスクです。

大竹おおたけ所長しょちょうは「大雨おおあめや洪水こうずいに備そなえるという意味いみではあらかじめ水位すいいを下さげておくことが安心あんしんにつながるが、工業こうぎょう用水ようすいとして必要ひつような水みずの量りょうを確保かくほできなければ、事業じぎょう者しゃに大おおきな影響えいきょうを及およぼすリスクがある」と話はなしていました。

そのうえで「大雨おおあめが予想よそうされる際さいには事前じぜんにどこまで水位すいいを下さげていいことにするか、事前じぜん放流ほうりゅうで必要ひつような水みずが確保かくほできなかった場合ばあいはどう穴埋あなうめするのか、今後こんご、利水りすい者しゃと協議きょうぎしていきたい」と話はなしていました。

流木りゅうぼくせき止せきとめも…効果こうかと課題かだいは

台風たいふう19号ごうでは多おおくのダムで上流じょうりゅうからの流木りゅうぼくをせき止せきとめる効果こうかも発揮はっきしました。一方いっぽうでダムにたまった大量たいりょうの流木りゅうぼくをどう撤去てっきょするのか、課題かだいも残のこされています。

福島ふくしま県けんの高柴たかしばダムでは台風たいふう19号ごうや15号ごうの雨あめによってダムの上流じょうりゅうで大量たいりょうの流木りゅうぼくが発生はっせいしダムにせき止せきとめられました。

流木りゅうぼくはおよそ2200立方メートルりっぽうめ-とるで、これは200リットルのドラム缶どらむかんに換算かんさんするとおよそ１いち万まん1000本ほんに当にあたるたる量りょうです。

流木りゅうぼくをせき止せきとめる効果こうかについて京都大きょうとだい学がくの角かく教授きょうじゅは「２に年ねん前まえの九州きゅうしゅう北部ほくぶ豪雨ごううのように最近さいきんの豪雨ごうう災害さいがいでは、洪水こうずいとともに流木りゅうぼくの被害ひがいも目立めだっている。ダムがなかった場合ばあい、大量たいりょうの木きが下流かりゅう域いきに流れ込ながれこみ、橋はしに引っ掛ひっかかるなどすると、それが原因げんいんとなって川かわの氾濫はんらんや堤防ていぼうの決壊けっかいを引き起ひきおこすおそれがある。下流かりゅうの水位すいいを低下ていかさせるだけでなく流木りゅうぼくをせき止せきとめるのもダムの大おおきな役割やくわりだ」と話はなしています。

一方いっぽうで、ダムにたまった大量たいりょうの流木りゅうぼくをどう撤去てっきょするかはダムの管理かんり者しゃにとって大おおきな課題かだいです。

高柴たかしばダムでは撤去てっきょ作業さぎょうを行おこなっているものの、ダム湖みずうみに重機じゅうきを入いれることが難むずかしく、ボートに乗のった作業さぎょう員いんたちが流木りゅうぼくを集あつめ、ダムの本体ほんたいの近ちかくまで運はこび、重機じゅうきを使つかって引き揚ひきあげるという地道じみちな作業さぎょうを行おこなっています。

すべての流木りゅうぼくを取り除とりのぞくには５ごか月かげつほどかかる見込みこみだということです。

大量たいりょうの流木りゅうぼくがたまった状態じょうたいが続つづくと、水質すいしつの悪化あっかにつながるほか、来年らいねんの出水しゅっすい期きなどで大雨おおあめが降ふった場合ばあい、流木りゅうぼくがダムの操作そうさに影響えいきょうを及およぼすおそれがあるということで、いかに早はやく撤去てっきょできるかが課題かだいとなっています。