1 報酬の過少記載
まず、みずからの報酬を有価証券報告書に少なく記載したとされる罪についてです。
ゴーン前会長は平成22年度から昨年度までの8年間の報酬を有価証券報告書に合わせて91億円余り少なく記載したとして金融商品取引法違反の罪に問われています。
特捜部は日産内部の文書の内容などから、ゴーン前会長が高額報酬への批判を避けるため、実際には毎年20億円程度だった報酬を10億円程度と報告書に記載し、差額は別の名目で退任後に受け取ることにしていたと判断。金融商品取引法などでは将来支払われる報酬でもその見込み額が明らかになった段階で報告書に記載する必要があるとしているため、特捜部は退任後の報酬は将来支払われることが「確定」した報酬で、報告書に記載する必要があったとみています。
一方、ゴーン前会長は「退任後の報酬は確定していない」と主張。そのうえで「開示されていない報酬を日産から受け取った事はなく、報酬を受け取る法的な効力がある契約を締結したこともない。検察による訴追は全くの誤りだ」と無罪を主張しています。
2 特別背任
次に資金を不正に支出させるなどして日産に損害を与えたとされる罪についてです。
ゴーン前会長は11年前のリーマンショックで18億円余りの含み損を抱えた私的な為替取引の権利を日産に付け替えたほか、この損失の信用保証に協力したサウジアラビア人の実業家の会社に日産の子会社から1470万ドル当時のレートで12億8000万円余りを不正に支出させたとして特別背任の罪に問われています。
特捜部はゴーン前会長が為替取引の損失をめぐって銀行側から多額の追加担保を求められたため取り引きの権利を一時的に日産に付け替え、日産に巨額の損失を負担する義務を負わせたと判断。また、実業家への12億円余りもこの損失の信用保証に協力した謝礼などとして不正に支出されたものだとしていて、子会社の当時の幹部が「実業家の会社に日産との取り引き実態はなく不要な支出だった」と供述していることも重視しているものとみられます。
一方、ゴーン前会長は取り引きの権利を日産に移した際の取締役会の議決や議事録に英語で「no cost to the company」と記されていたとして、日産には一切損害を与えていないと主張。また、実業家への資金についても「日産への投資を呼び込むため中東の複数の国の要人との面会をセッティングしてもらった。信用保証に協力してもらう前の年にも実業家側には3億円を支払っており、こうした経緯は書面にも記録されている。正当な報酬だったことは明らかだ」などと無罪を主張しています。
また、ゴーン前会長の弁護士は「特捜部は実業家から話も聞かずにゴーン前会長を逮捕した。全く異例の事だ」と捜査を強く批判していて、両者の主張は真っ向から対立しています。
特捜部の今後の捜査は
今回の事件で、東京地検特捜部は司法取引などによって膨大な資料を入手しており、今後もゴーン前会長をめぐる不透明な資金の流れについて捜査を継続するものとみられます。
一連の事件で特捜部が注目しているのが、ゴーン前会長がみずからの裁量で使えるCEO=最高経営責任者の予備費です。
関係者によりますと、この予備費からはサウジアラビアの実業家に支出された12億円以外にも、ほかの知人が運営に関わるオマーンの販売代理店におよそ35億円、レバノンの販売代理店におよそ17億円が支出されていたということです。
このうちオマーンの代理店の知人からはペーパーカンパニーを経由してゴーン前会長の妻が代表を務める別のペーパーカンパニーに1220万ユーロ、15億円余りが支出され、こうした資金が前会長らが使っていたグルーザーの購入費用に充てられていた疑いがあるということです。
一方、ゴーン前会長はこうした支出について「成果を上げた代理店への正当な報奨金として長年かけて支払ったものだ。オマーンの知人から受け取った資金とは全く関係がない」などと説明しているということです。
特捜部は中東各国に捜査共助を要請して協力を求めていますが、海外を舞台にした複雑な資金の流れをどこまで解明できるかが、今後の捜査の焦点になります。