死後3か月ほど経過した状態だったということです。
毎日のように食事を届けていた弁当店の店員が、家の中の異臭に気付き、区の職員や警察官が家の中に入って遺体を発見したということです。
家には57歳の娘が同居していましたが、足が不自由で最近は閉じこもりがちだったということです。
近所の住民によりますと、母親は数年前から認知症のような症状がみられ、見守りに訪れる区の職員や地域住民との関わりを断つようになり、この数か月間、親子は孤立していたということです。
警視庁によりますと、母親は年金暮らしで、娘は少なくとも、20年以上前から仕事をしていなかったとみられています。
娘は「母親から“自分が死んでも誰にも言うな”と伝えられていた」と話していて、警視庁は、娘が周囲に相談できず、母親の死を適切に届け出られなかったとみて遺体を遺棄した疑いで逮捕し、詳しいいきさつを調べています。
弁当店の店員「もっと早く相談していれば…」
亡くなった女性の家に、毎日のように弁当を届けていた弁当店の店員の女性は「去年春ごろから弁当を届けていますが、ことし3月ごろ、家の中から異臭がすることに気付きました。娘さんに『お母さんは元気ですか』と尋ねましたが、『元気ですよ』といつもと同じ口調で答えたので、あまり家庭の事情に踏み込んではいけないと思っていました」と、異変を感じた際の状況について話しました。
しかし、その後も異臭は続いたということで、「先月には、奥の部屋でお母さんが寝ている姿が見え、肌が異常に変色していて亡くなっているかもしれないと思いました。区役所に相談しましたが、職員が訪問してもドアを開けてもらえず、今月11日、弁当の配達の際に、区の職員や親族の方にも来てもらい、家の中を確認したところ、お母さんが見つかりました」と遺体が見つかるまでのいきさつを話しました。
そのうえで「自分がもっと早く行政に相談していれば、このような事態を防げたかもしれないと悔しい気持ちになりました。とても悲しい出来事で、二度と同じことが起きないように私たちも気をつけていかなければいけないと思いました」と話していました。
近隣の住民「どうしたら防げたのか…」
近くに住む70代の女性は「ここ数年は亡くなった女性は認知症気味になり、娘さんも足が不自由なので近所で気にかけて声をかけたりしましたが、娘さんが拒否して会うことができず、区役所の職員も対応できなかったようです」と閉じこもっていた現状があったと話しました。
そのうえで「女性の姿を最近見かけなくなったので、娘さんに聞いたところ『寝ている』と答えていました。家に弁当を届ける配達員が異臭に気付いて親族と一緒に家の中を見に行ったら亡くなっていたと聞きました。気にかけて声をかけても拒まれてしまったし、行政の支援も受け付けない様子だったので、どのようにしたらこの事態を防げたのか、悩ましい問題だと思います」と話していました。
ゆるやかに見守る地域の仕組み作りを
ひきこもりの家庭や高齢家族の支援などに詳しい愛知教育大学の川北稔准教授は、今回の事件について、「家族以外の人と話すことから遠ざかり連絡すべき人がわからず、連絡の取り方もわからないなど社会生活のブランクや人に対する恐怖が関係しているのではないか」としています。
そのうえで、「同様の事件はこれまでもあったが、最近は毎月のように起きていると感じる。事件になる一歩手前の状況に陥っている家庭も少なくない」と言います。
家族以外とのつきあいが少なく、孤立傾向にある家庭は、どの地域にも一定程度存在するということです。
川北准教授は「親など家庭を支える『キーパーソン』が、元気なうちは、子どもが取り残されて不自由な状況になるとは思っていなくても、『キーパーソン』が認知症になったり、亡くなったりすると生活が一変してしまう。子どもには障害や精神疾患があると思われるのに病院などで診断されないまま、支援を受けていないケースも多い」と指摘しました。
周囲が取り組むべき対策として「何か困っていませんかとか、力になれることがありますよといったハードルの低い声かけから始めて、信頼関係を作りながら、病院や自治体への相談を進めていってほしい。ゆるやかに見守っていく地域の仕組み作りが必要だ」と提言しています。
また、不安を抱えながら家庭を支える親などに対しては、「自分がもし倒れたときはここに連絡するようにといった約束を決めておくとか、近所の方にも異変を感じたら見に来てくれないかという予防策を元気なうちに講じてほしい。家の状況を話したくないという人が多いと思うが、1人でいいので信頼できる人を見つけて共有しておくことは孤立の予防につながる」と呼びかけています。